Rahul Sachitanand
2022年7月15日

旧世代と新世代マーケターのギャップを埋めるには

業界のベテランで、エントロピア(Entropia)の創業者でもあるクマール氏が新著を出版。データがマーケティングにどのような変化をもたらしたか、またCMOがその変化に対処するにはどうすべきかについて述べている。

プラシャント・クマール氏
プラシャント・クマール氏

プラシャント・クマール氏は、マーケティングサービス業界でよく知られた存在だ。IPGメディアブランズでアジア支社のCEOを務めていた同氏は、ベンチャー企業のエントロピアを立ち上げ、データ、顧客体験、コマースに対応するフルサービスを提供していた。そして2021年6月、同社がアクセンチュア インタラクティブ(現在のアクセンチュア ソング)に買収されると、クマール氏はこの大手テクノロジー企業のシニアパートナーに就任した。


急速に変化するマーケティングの世界を数年前から熱心に分析してきたというクマール氏は、その成果を『Made in Future』(ペンギン・ランダム・ハウス刊)としてまとめた。この書籍は、急速に変化する環境下でのマーケティング、メディア、コンテンツについて論じたもので、同氏にとって初の著書となる。本書の狙いは、メディア、コンテンツ、インフルエンサー、そして人々の期待が大きく変化しているという視点に立ち、マーケティングをゼロから見直すことにある。クマール氏は著書のなかで、これまで受け入れられてきた常識に異議を唱え、マーケターに自らの仕事を見直すよう促している。その背景には、データが主役となり、マイクロマーケティングがマスマーケティングに取って代わり、CMOの役割そのものが問われているという現状がある。そこでCampaign Asia-Pacificは、クマール氏にインタビューし、同氏の著作について、またマーケティング、ブランディング、メディア、データなどの主要なトレンドについて話を聞いた。以下はその抜粋だ。

セグメンテーションとブランドポジショニングが「テクノロジーとデータによって困難に直面している」とあなたは指摘していますが、今日のマーケターはこの状況を基本的な考え方として重視すべきなのでしょうか。

よく考えてみれば、どちらのコンセプトもマスメディアの時代に作られたものです。マスマーケティングは、一人一人の顧客が極めて個人的な自分だけのニーズを持っている以上、すべて妥協の産物とならざるを得ません。マーケティングは本来、はるか昔から個人的な関係に基づくものでした。その意味で、マスマーケティングは、マスメディアと大量生産の台頭によって生まれた例外なのだと言えます。従って、この二つのコンセプトを一元的で固定的な解釈から解放し、本来の目的に即して再構築する必要があるのです。

CMOは、マスマーケティングからマイクロマーケティングへのシフトに対応できているでしょうか?

マイクロターゲティングという言葉は、少なくとも20年前から使われています。しかし、大手ブランドにとっては、マイクロメッセージングが伴わなければ、ほとんど意味がないものでしょう。これを実現するには、関連性の高い価値提案とカスタマージャーニーのパーソナライズが必要ですが、ほとんどの企業は最後までやり遂げることができていません。私たちが目にしているのは、80年代や90年代のフレームワークで未来を見ている旧世代のマーケターたちと、過去からの視点を持たない新世代のプレイヤーの一群です。

そして、どちらのグループも、カスタマージャーニーのあらゆるポイントで、マスとマイクロを統合しなければならないという共通の課題を抱えています。

このシフトは、メディアバイイングにとってどのような意味を持つのでしょうか?

それはメディアバイイングにさまざまな影響をもたらしています。たとえば、懇願とコミットをベースとした広告業界流の直線的なビジネスモデルより、失敗から学ぶというシリコンバレー流のPDCAモデルが求められるようになりました。そのため、クリエイティブが重視されることもあれば、軽視されることもありました。

かつては、認知、関心、欲求、行動がブランドをけん引する4つのステップでした。しかし、テクノロジー主導の世界では、これが発見、インフルエンス、体験、トランザクションに置き換わるとあなたは指摘しています。これによってマーケティングのプロセスは変化するのでしょうか?

全体的に見ると、意思決定のスパンは確実に短くなり、直線的でなくなってきています。耐久消費財は準耐久消費財になりつつあり、準耐久消費財は日用消費財(FMCG)のように頻繁に購入されるようになりました。また、質的な変化も起こっています。受動的なメディア消費より能動的なメディア消費が増えていることです。従って、ブランド認知はもはや受け身のプロセスではなく、発見のプロセスになったと言えます。口コミは、はるか昔から顧客の意思決定において中心的役割を果たしてきました。しかし、厳格に管理され、上から目線で、多数に訴求できる、スキップのできないCMの登場により、しばらくの間は、その力を削がれていました。しかし今は違います。購買体験がまったく新しい意味を持つようになったのです。そんななか、ほとんどの企業が依然として、メディア予算の大部分を昔ながらの手法で配分しているのは皮肉なことです。

あなたはまた、ブランドのことを、ニーズやアフィニティ(親近感)、体験を共有するネットワークだとも述べています。このことは、口コミが持つ力にどのような変化をもたらすのでしょうか?

ブランドは、人々がそのブランドを人に勧めるようになったときに成長し、人々がそのブランドをボイコットするよう促すようになったときには衰退します。つまり、エクスペリエンス、ソーシャルカレンシー、そして有意義な価値交換が重要だということです。また、その成長が人々の行動様式に影響を与える必要があります。そのためには、ブランドの真正性と親しみやすさを高め、より明確で共有する価値のあるコミュニケーションを展開することが必要です。マーケターは実質的に、適切な種をまき、肥料を与え、成長を促すことによって、そのスピードや方向性をコントロールする、コミュニティマネージャーのような存在になったと言えます。

ブランドは、コンテンツ主導からデータに基づくエクスペリエンスへとシフトしているように思われますが、新興ブランドやベンチャーが、従来のブランドに取って代わることは容易になったのでしょうか、それとも困難になったのでしょうか?

間違いなく容易になりました。新興ブランドの多くが、これまでの成功ストーリーに頼るよりも、データを活用した顧客体験をベースにする方が自然だと考えています。また、データに基づくエクスペリエンスは、顧客の価値を高めるブルーオーシャンの機会を数多くもたらすため、多くの業界でカテゴリー分類やマージンの配分が見直されることになります。昨日のやり方を明日まで引きずっていては、将来のための土台作りがおろそかになり、やがて手遅れになるでしょう。

テクノロジーとメディアが中心的な役割を果たすなか、「マーケティングテクノロジーのエバンジェリストたちが壇上に立ち、人間の持つクリエイティビティはマーケティング方程式の誤差にすぎないとしたことで(中略)マーケティングの死を宣告した」とあなたは述べています。クリエイティビティは今、どのような役割を担っているのでしょうか?

マーケティングテクノロジーのエバンジェリストたちには、自分たちの都合に合わせて世界を語る権利があります。しかし、クリエイティビティをマーケティングの最前面に押し出すことは可能なはずですし、実際そうする必要があります。クリエイティビティのないマーケティングは、おそらくちょっと見た目をよくしただけの販促にすぎません。企業には、マーケティングに必要な諸要素について熟知し、それをクリエイティビティに活かせる財務担当や営業担当、商品開発担当、そして技術者がいるはずです。しかし、これを実現するためには、今の時代におけるクリエイティビティの本質を再定義する必要があるでしょう。

一方であなたは、メディアプランナーが30CMという「夢」をどれほど好んでいたのかについても書いていますが、OTT(インターネット配信)は今までその扉を閉ざしていました。しかし、Netflixのようなプラットフォームにも広告が入り込もうとしている今、30CMはどのように活用できるでしょうか。

30秒CMを今の形のまま取り入れて、OTTのトレンドや考え方に合わせようとしても、残念な結果に終わるでしょう。「気軽な」コンテンツ(TikTokなど)でワークするものと、「熱中する」コンテンツでワークするものは異なりますし、その中間のコンテンツでワークするものとも異なります。人々の関心を引き寄せる仕事、人々が離れないようにする仕事、そして人々を深く取り込む仕事がそれぞれあるのです。

マーケターが、古くからある市場調査とソーシャルデータを使った新しい手法とのあいだでバランスを取るにはどうすればいいのでしょうか。旧来の市場調査にもまだ意味はありますか?

はい。活用できる場所はもちろんあります。ソーシャルの非構造化データは、いかにリアルタイムかつ網羅的であっても、偏った特徴や傾向が表れがちです。5つの質問をするなら、2つの質問からは想定した回答が得られ、1つの質問からは方向性を知ることができますが、残りの2つには、予測できないほど大きく異なる別の質問が必要です。古い調査手法は予定調和になりがちでした。しかし、たとえ時間がかかっても、サンプル調査であっても、想起調査であっても、これらのデータは提案書に活用することができます。したがって、この世界で必要なのはこの2つの視点を融合することです。

あなたは、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、IoTなど、次世代のテクノロジーの台頭にも触れています。このようなデータやテクノロジーの台頭を踏まえて、未来のCMOの役割はどうなっていくのでしょうか。複数の専門分野に分かれるのでしょうか、それとも最高デジタル責任者やテクノロジー責任者に吸収されていくのでしょうか。

優れたCMOは、ベンチャーマーケターの装いで、マーケティング投資のリスクポートフォリオを管理し、今日、明日、そして明後日のバランスを取る必要があります。新しいテクノロジーは、新しい顧客価値を提供するものであり、それを活用することは、まさにトップマーケターの中心的な仕事です。そのために、別の新たな最高責任者が必要とされることはないでしょう。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

関連する記事

併せて読みたい

19 時間前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

2024年4月19日

世界マーケティング短信: オープンAI、アジア初の拠点を都内に設立

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2024年4月15日

北野武とタッグを組んだ、Canvaの新キャンペーン

グラフィックデザインツール「Canva(キャンバ)」が、新しいキャンペーンを開始した。ショート動画に登場するのは北野武と劇団ひとりという、芸能界でも異彩を放つ2人だ。

2024年4月15日

エージェンシー・レポートカード2023:博報堂

事業は好調で、イノベーションも猛烈な勢いで進めている博報堂。今年はDEIについても、ようやく大きな変化が起きた。だが男女比の偏りは是正が必須であり、設定した目標を具体的な行動に移すことが重要だ。