気候変動 広告業界は改めて現実を直視せよ

カンヌライオンズが今月19日に開幕する。広告界の祭典を前に、業界のサステナビリティーを牽引するアド・ネットゼロ、世界広告主連盟(WFA)、全米広告主協会(ANA)のトップがCampaignに共同で寄稿した。

「アド・ネットゼロ」に取り組むグローバルグループ。昨年のカンヌライオンズより(写真:カンヌライオンズ / Getty Images)
「アド・ネットゼロ」に取り組むグローバルグループ。昨年のカンヌライオンズより(写真:カンヌライオンズ / Getty Images)

英広告業界3団体が主導した「アド・ネットゼロ」(広告業界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること)。5つのアクションプランから成るこの取り組みは、2020年11月にスタートした。

それから2年半が経ち、この取り組みの「サポーター」は英国やアイルランド、米国だけにとどまらず、世界各地で着実に増えた。

カンヌライオンズの開幕を前に、広告業界におけるサステナビリティーの進捗と課題、掲げた目標と現状とのギャップを正確に把握しておくことは非常に大切だ。

今の時代、適切な気候変動対策を取らない企業は時代に逆行しているとみなされ、深刻なビジネスリスクに直面する。内外のステークホルダー(利害関係者)からのプレッシャーに加え、厳格になった規制への対応は欠かすことができない。

世界広告主連盟(WFA)とカンター社による最近の調査によると、消費者の64%は「企業が気候変動・環境問題解決の責任を負っている」と回答。また、企業で働く従業員の68%は「政府が社会問題を解決できなければ、企業・団体が対策を講じるべき」と答え、投資家のほぼ半数(49%)は「企業が適切なESG(環境・社会・ガバナンス)対策を講じなければ、保有株を売却する」と答えた。

広告業界ではこれまで多くの企業がエンドツーエンドの温室効果ガス対策を掲げ、そのプロセスで健全な競争を繰り広げている。一部の企業は著しい成果を挙げ、優位性を高めた。こうした努力はまさに業界が必要とするものだ。

対策の有効化

企業にとって重要な責務に、社員教育・研修がある。サステナビリティーに関する知識が業界に浸透しなくては、実りある変化は期待できない。上記の共同調査では、マーケターの35%が、サステナビリティーに関する「知識とスキルに隔たりがある」と答えた。この数値は2021年の調査時(20%)よりも増加している。

これは懸念すべき状況で、何らかの対策が必要だ。アド・ネットゼロが催す勉強会では、グリーンウォッシュから「チェンジ・ザ・ブリーフ」(#ChangeTheBrief、サステナビリティー推進を掲げるエージェンシーのネットワーク)の取り組みに至るまで、業界人として知っておくべき基礎知識を教授する。ステークホルダーはこれまで以上に高いレベルの環境対策を期待しており、企業がそれを実現できなければグリーンウォッシュとみなされてしまうのだ。

もはやマーケターやエージェンシーは、この問題を環境アドバイザーに一任することはできない。ブランドアイデンティティー・戦略とサステナビリティーを一体化させねばならない。そうすることで従業員の速やかな行動変容を促し、日常業務における温室効果ガス排出を防がねばならない。働き方の改善によってこうした変革を促すことは、最優先課題だ。

パリ協定の水準を満たすSBT(Science Based Targets、科学的知見に基づく目標)イニシアティブの達成は、アド・ネットゼロの「グローバルサポーター」にとって必須条件となっている。「ローカルサポーター」も、科学に基づいた温室効果ガス削減目標の設定・報告を行わねばならない。今後はこうした記録が、公的に保存されることになる。

変革を促すツール

アド・ネットゼロは、サポーターが目標値を達成できるよう、フォーラムの開催やツールの提供を行っている。フォーラムのテーマは移動手段の改善や、エネルギーの新たな供給手段など多岐にわたる。

最初に開発したツールは「アドグリーン(AdGreen)」と呼ばれるもので、アド・ネットゼロの年間報告書に基づいて様々なデータを提供。温室効果ガス削減量の総計やさらなる削減に必要な知識、参考とすべき基準値などを包括する、世界初とも言えるデータセットだ。

メディアプランニングとバイイングに関しては、WFA、GARM(Global Alience for Responsible Media、責任あるメディアに向けた世界同盟)と提携。正しい測定法のフレームワーク構築を目指している。

こうした取り組みは全て、サポーターからの財政支援でまかなわれている。世界的な普及という意味で、特にグローバルパートナーが果たす役割は大きい。

グリーンウォッシュへの取り組みと信頼の醸成も優先課題だ。後者では、サステナブルなプロダクトやサービスのプロモーションが鍵を握る。WFAとカンターの調査では、消費者の間でサステナビリティーに対する認識と行動に隔たりがあることがわかった。「サステナブルなライフスタイルを実現するため、生活習慣を変えたい」と答えた人は97%だったのに対し、「生活習慣を変えた」と答えた人はわずか13%だった。

広告業界はここに商機を見い出すことができる。すなわち、消費者により良い選択肢を示し、ネットゼロ社会実現に必要な行動変容を促すのだ。これは莫大なビジネスチャンスに成り得る。

言うまでもなく、正しい行動変容を促す広告作品は消費者の認識を高める。近年ではカンヌライオンズのような主要広告賞でもSDGs部門が創設された。

「Campaignアド・ネットゼロ・アワード」も2年目を迎え、イノベーティブな手法で行動変容を促す優れた作品の紹介に努めている。

今年のカンヌライオンズでは期間中、「アド・ネットゼロ・ゾーン」が設けられる。こうした作品に焦点を当てることで、我々は各企業に迅速かつポジティブな変革を訴えていきたい。我々が注力するのは、皆さんのサポートだ。

この場で、他の産業界の脱炭素化を語ることはやめよう。我々は率先して、広告業界の温室効果ガス削減を進めていかねばならない。全ての業界がそうした方向に進むべきなのは、火を見るよりも明らかだ。

認識」と「行動」の合致

自分たちの行動力が不十分なのに、どうして他の業界に口出しができよう。

広告業界の多くの人々は、他業界の脱炭素化もトラッキングする必要があると考える。だがそのためには、理にかなった正確な排出量の算出方法が必要だ。オックスフォード大学のサイード・ビジネススクールは、マーケティングアトリビューションモデル(コンバージョンに至るまでの広告・施策の貢献度を割り振るルール)と温室効果ガス排出量の相関性を調査し、その結果を我々に提供してくれた。今年のカンヌライオンズではそれを詳しく説明する予定だ。

過去2年間で正しい進路は示された。我々は改めて世界の広告業界に、アド・ネットゼロへの積極的関与と行動を呼びかけたい。

温室効果ガス排出量をゼロにするため働き方を変え、よりサステナブルな消費活動を目指す。

気候変動問題が差し迫っている今、誰もが行動を起こさねばならないのだ。


セバスチャン・ムンデン氏はアド・ネットゼロのチェアマン、ステファン・レルケ氏はWFACEO、ボブ・リオディス氏はANACEOを務める。

「アド・ネットゼロ・ゾーン」は今年のカンヌライオンズ期間中、アクト・レスポンシブル・ホールに設けられ、アド・ネットゼロのアクションプランに関する説明を行う予定。詳細はこちらから

(文:セバスチャン・ムンデン、ステファン・レルケ、ボブ・リオディス 翻訳・編集:水野龍哉)

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