Matthew Keegan
2023年12月21日

2023年、信用を失ったブランド

不適切な経営やマーケティング戦略、幹部の失態……今年、評価を落としたブランドはどこなのか。1年を回顧する年末恒例の企画。

2023年、信用を失ったブランド
今年を象徴するのはAI(人工知能)とメタバース、そしてソーシャルコマースだろう。競争が激化した市場からは新たなブランドが出現し、クリエイティビティーはTikTok(ティックトック)によって混迷。キャンペーンではデータ主導のインサイトが重視された。

では、思惑通りに機能しなかったマーケティング戦略は何だっただろう。今年も数々のブランドによる失態がCampaignのヘッドラインを飾った。印象に残った「負の戦略」を振り返る。

1. 「Xの悲劇」?
 
 

X(旧ツイッター)のトラブルは、名称を変更した7月末に始まった。イーロン・マスク氏は、サンフランシスコの本社ビルに煌々と輝くXのロゴ看板を設置。だが近隣住民が強く反対、あえなく撤去に追い込まれた。

さらに、アイコンだった「青い鳥」のイメージ払拭に悪戦苦闘。禁止されていた過激論者のアカウント(トランプ前大統領など)を復活した際には、あらゆる方面から強い非難を浴びた。8月にはユーザーのブロック機能を削除し、ヘイトスピーチが急増。これを受けて広告主は次々と撤退し、売上高は大幅減。おまけに、直近のインタビューではFワードを使って広告主を罵倒した。これはXにとって命取りになりかねない。

「Xを中国のWeChat(ウィーチャット)のようなスーパーアプリにしたい」と語るマスク氏。今年も数々の話題を振りまいたが、やはり「疫病神」という言葉が何よりもふさわしいだろう。 

2. バドライトの重い「教訓」
 
 

事の発端は、トランスジェンダー女性でインフルエンサーのディラン・マルバニー氏の投稿だった。バドライトはプライド月間にマルバニー氏の顔を描いた特製缶ビールを製作、同氏に贈呈した。

「これまででおそらく最高のギフト」と喜んだ同氏は、ソーシャルメディアでバドライトに謝意を表明。これに対し保守派がいち早く反発、バドライトのボイコットを呼びかけた。

そもそも、男性に愛飲者が多いバドライトがなぜマルバニー氏とパートナーシップを結んだのか。いずれにせよ、問題はこれだけでは終わらなかった。この騒ぎの後も中傷や非難を受け続けたマルバニー氏に対し、バドライトは一切沈黙。寄り添う姿勢を全く見せなかった。まさしく、「決してやってはいけない危機対応」の典型だろう。

「トランスジェンダーと協働しながら、非難を受けたら一切手を差し伸べようとしない。これはトランスジェンダーと協働しないことより、もっとひどいです」とマルベリー氏は憤る。

このトラブルで、バドライトの売上高は前年比20〜30%減。先月、製造元のアンハイザー・ブッシュ・インベブ社は米国内のチーフマーケティングオフィサー、ブノワ・ガルべ氏の辞任を発表した。

微妙な社会問題をキャンペーンで取り上げれば、必ずや誰かの不興を買う。また、全ての人々を喜ばそうとすれば、逆に全員から非難を受けてしまうことも。ブランドにとって重要なのは、一時的に一部の人から反発を受けても、自社の価値観を優先し、守っていくことだ。これを実行できなかったバドライトは、結果的にあらゆる人々の反感を買ってしまった。

3. カンタス航空、「軟着陸」に失敗
 
 

今年は「フライングカンガルー(カンタス航空のロゴ)」にとって波瀾万丈の年となった。1月に「世界で最も安全な航空会社」に選ばれ、上々のスタートを切った同社。だが8月、コロナ禍の欠航便への不適切な対応を理由に多くの旅客が集団提訴。さらにオーストラリア競争・消費者委員会も、欠航を決めていた便の航空券を販売したとして豪連邦裁判所に提訴した。

これを受けてアラン・ジョイスCEOは早期退任。輪をかけるように9月、コロナ禍で1700人の地上職員を解雇した同社の措置に対し、豪最高裁判所は違法判決を下した。

カンタス航空の今年の業績は、豪州の航空会社の中で最悪。今年の豪インフラストラクチャー・交通・地域経済局のデータでは、予定時刻より15分以内の遅れで到着したカンタス航空の便は全体のわずか3分の1。信頼面でも、完全子会社であるジェットスターにすっかり後れを取ってしまった。

4. エアアジアの「開放的」カルチャー
 
 
会議の場で上半身裸になり、マッサージを受けるCEO……だがその結果は決してリラックスできるものにはならなかった。物議を醸したのは、10月にエアアジアのトニー・フェルナンデスCEOがリンクトインに投稿した写真。同氏の意図は、エアアジア・インドネシアの「柔軟な姿勢」ともてなしの気持ちを宣伝することだった。

「マッサージを受けながら経営会議ができる、インドネシアとエアアジアの文化は実に素晴らしい」

だが間もなく、この投稿には非難が集中。リンクトインの多くのユーザーは「プロ意識に欠ける」と批判。「同席していた者たちは、オフィスで半裸のボスを見て不快に思ったはず」「ジェンダー規範や職場環境といった視点から、不適切だ」といったコメントが殺到した。
 
5. ザラ、謝罪の顛末
 
 

今月公開されたファストファッション大手ザラ(Zara)の広告キャンペーンが、直後から大きな批判を浴びた。写真のイメージが、現在も続くパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を想起させるというのだ。

壊れたマネキンやがれきが散乱する写真は、ザラ曰く「彫刻家のアトリエをイメージしたもの」。だが、白い布で覆われたマネキンやがれきは「ガザの戦闘で殺された人々を嘲るかのようだ」という非難が相次いだ。

世界のメディアでは連日、破壊し尽くされたガザの風景や、家族を失って悲嘆にくれる人々の映像があふれる。このキャンペーン写真は「戦闘が始まる前に制作した」とザラは主張するが、いまだ激しい戦闘が続く中、このイメージに人々がガザの悲劇を重ね合わせるのは当然だろう。

ザラは、「彫刻家のアトリエにある未完成の作品をイメージした。職人技から生み出される衣服を、アーティスティックな文脈で見せることが目的だった」と弁明。だが、ソーシャルメディア上での批判はやまず、Xでは「#BoycottZara」のハッシュタグがトレンドとなった。

ガザの住人と思われるあるユーザーは、「ザラは我々を笑いものにしている。破壊された我々の家々を、死んだ我々の子どもたちを笑いものにしている」と投稿。

ザラは最終的にキャンペーンを中止し、謝罪。「ガザでの戦闘が始まる前に撮影された写真が誤解を生んだことを、遺憾に思います」

「この広告はすでに中止しましたが、不幸にも当初の目的からかけ離れた印象を一部の消費者に与えてしまい、不快な思いをさせてしまった」。だが、この文面はさらなる反感を買ってしまう。

謝罪投稿に寄せられたコメントは26万以上。「このような謝罪は受け入れられない」「『あなたたちが不快に思って残念だ』と言っているだけ。自分たちの行為が多くの人々に苦痛を与えたことへの反省が全く感じられない。憤りを感じる」といった意見が大半を占めた。

6. M&Sのクリスマスと「パレスチナ」
 
 
先月、英小売大手マークス&スペンサー(M&S)は、赤・緑・銀色のパーティーハットが暖炉で燃やされる写真をソーシャルメディアに投稿。だが、この配色がパレスチナの旗を想起させるという批判を受け、投稿を削除、謝罪した。

この写真は、同社のクリスマスキャンペーン動画「Love Thismas」のワンシーン。だがソーシャルメディアでは、「暗にイスラエルへの支持を表明している」と批判が続出した。

M&Sはザラ同様、「意図せず多くの人々の感情を害してしまったことは遺憾」とコメントを発表。「この広告の撮影は(イスラエルによるガザ侵攻前の)8月に行われた。クリスマスの季節にパーティーハットを被りたがらない人もいる、ということを冗談めかして表現したに過ぎません」と弁明した。

(文:マシュー・キーガン 翻訳・編集:水野龍哉)

 

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