Jessica Heygate
2022年12月22日

Disney+とNetflixの広告モデル、ブランドの意欲は低下気味

新たな広告付き動画ストリーミングサービスに対する広告主の意欲が冷めてきた。契約者数が伸び悩み、ツールにも制限が残る。そして何よりブランドはROIの保証を求めているからだ。

Disney+とNetflixの広告モデル、ブランドの意欲は低下気味

「ディズニープラス」「HBOマックス」「ネットフリックス」などのプラットフォームが広告付き視聴プランを導入し、広告主は、これまでリーチできなかったストリーミングのオーディエンスへの広告配信機能を待ち望んでいた。しかし、米国大手エージェンシーのメディアバイヤー数人によると、こうした広告のROI(投資利益率)を精査してみると、当初の魅力はかなり薄れてきたのだという。

著名なブランドが、新たな広告サービスのローンチパートナーに名を連ねている。ディズニーは2022年12月、「ディズニープラス・ベーシック」のローンチのために100社以上の広告主を確保したと発表した。ネットフリックスの「広告つきベーシックプラン」でも、バドワイザーやロレアルなどの大手ブランドスポンサーが注目された。

ただし、これまでのところ広告投資額は少ない。ディズニープラスとネットフリックス両社との取引を仲介したあるメディアバイヤーによると、クライアントがこれらのプラットフォームに費やす広告費は年間予算の1%未満だとしている。

別のメディアバイヤーも、「クライアントは投資を検討しているが、現時点では大きな予算を投じる予定はなく、直近の予算投下はかなり少ない」と明かす。

こうした新たな広告出稿は、当初から大規模になることはないと見られていたが、この18カ月間の広告付きプランの契約者の獲得は予想ほど伸びていないため、広告主は投資により一層慎重になっている。

予算に関することは公表しにくいため、匿名の条件付きでCampaign USの取材に応じてくれたバイヤーらによると、この新しい広告付きオンデマンド動画(AVOD)の高額な広告費を正当化するのは難しいと感じているという。

ディズニープラス・ベーシックの1000インプレッションあたりのコスト(CPM)は40ドルから45ドル、ネットフリックスのCPMは最大55ドルと言われている。これは、ネットフリックスが数カ月前に提示していたとされる65ドルよりは低くなっている。65ドルのCPMは、世界一高額なCM枠といわれるスーパーボウルの2022年のスポット料金とほぼ同じだ。

しかし、スーパーボウルでは、何百万人ものスポーツファンのライブ視聴が保証され、長年にわたって確立された測定の枠組みもあるのに対し、新しい広告付きストリーミングサービスには、今のところ保証がほとんどない。

ユーザー数の伸び悩み

ネットフリックスは、11月のサービス開始に先立ち、エージェンシーとのブリーフィングで、年末までに広告付きプランの加入者を50万人獲得すると約束していた。これは総加入者数の2億2300万人に比べればごくわずかな人数であり、非現実的な目標ではないように思われた。

ところが、12月が近づくにつれ、ネットフリックスは、契約者数の伸びが予測より遅れていることを広告主に報告するようになった。具体的な数値は示されていないが、現在の加入者数は20万人弱との推測もある。

HBOマックスも広告付きプランの加入者獲得には時間を要しており、アンテナの調査によると、2021年6月のサービス開始からの3カ月間は、全加入者数の1%程度に留まっていたが、1年後には12%にまで増加したという。

バイヤーらは、視聴者の規模がAVODへの投資を左右する最大の要因のひとつだと指摘する。一部のバイヤーはクライアントに対し、新たなプラットフォームが十分な視聴者を獲得し、割高な広告費を正当化できるようになるまで1年間待つように勧めている。

ディズニーは、そうした加入者数に対する懸念を価格戦略で払拭できるかもしれない。ユーザーに低価格プランへの移行を促すのではなく、広告付きプランの価格を維持しつつ、広告なしプランの価格を引き上げる戦略をとったのだ。つまりディズニーは、広告を見るインセンティブを競合他社よりもずっと明確に提示できている、とバイヤーは説明する。

一方、ネットフリックスは、広告付きプランを展開しながらも、そのためのマーケティング支援は「ほとんど」行ってこなかったと、2人のバイヤーは明かす。

ディズニーはまた、複数のメディア資産を保有しており、リニアとストリーミング、スポーツとエンターテインメントを組み合わせて提供しながら、広告業界とも強固な関係を築いてきたという強みがある。

ハバス・メディアのマーケットプレイスインテリジェンス担当マネージングパートナーであるジェイソン・カフェンスキー氏は、「ネットフリックスがワンストップショップであるのに対し、ディズニーは選択肢が多く、消費者の視聴習慣の変化に合わせて資金を別のチャネルに移す柔軟性がある」と指摘する。

広告業界では、新規参入組のネットフリックスが市場予想を上回る広告単価の設定をしたのは、さまざまな問題を解決するまでの間、広告提供を「ソフトローンチ」するための戦略的判断ではないかと囁かれている。複数のバイヤーは、マイクロソフトの広告ツールを利用したネットフリックスの広告配信の開始を「急ぎ過ぎだ」と評している。

ロンドンに本拠を置くメディア監査会社イービクイティの北米支社で、デジタルおよびテックアドバイザリーのグループディレクターを務めるトラヴィス・ラスク氏はこう指摘する。「プレミアムな価格設定は、独占感を演出すると同時に、需要を意図的に抑制することもできる。システムに需要が殺到する前に、ビジネス全体のペースを少し落として様子を見るのは賢いやり方だ」

フリークエンシーキャップ

ディズニー、HBOマックス、ネットフリックスは異口同音に、広告付きプラン内で良好なユーザー体験を維持するため、広告負荷を軽くして(1時間あたり4~5分の広告)、フリークエンシーキャップを厳しくするとしていた。

だが、当初のルールは若干緩和されてきた。バイヤーらによると、ネットフリックスは第4四半期、空枠を急いで埋めるために、広告主にフリークエンシーキャップの上限を緩和するよう求めたとされる。ネットフリックスはまた、広告主ごとの予算額の上限も撤廃した。

あるメディアバイヤーは、「広告クリエイティブの表示頻度を適正に抑えることは、これらのプラットフォームを軌道に乗せるための最大の課題の一つだ」と述べている。

同じ広告ポッド(複数の動画広告が連続して流れる枠)内の同一インベントリを、異なるベンダーやメディアオーナーが同時に販売できることが多いため、フリークエンシーキャップの適切なバランスをとるのはかなり難しい。ストリーミングプラットフォームによって適切に管理されていない場合、オーディエンスは同じ広告を何度も見せられる可能性があり、広告主にとっては効果が減衰することになる。

ブランドセーフティ

ブランドはリスクを嫌うため、ブランドセーフティは広告主の投資判断に影響を与える。ディズニーのコンテンツは主に子どもや家族をターゲットにしており、ネットフリックスの「きわどい」コンテンツよりも安全だと考えられている。

ネットフリックスは広告ツールも未熟なままだ。広告主は大まかなジャンルを除外することはできても、コンテンツごとの除外リストは作成できない。ネットフリックスは、年齢による除外設定を設けていないため、子ども向けコンテンツには広告を掲載しないと説明している。しかし、酒類メーカーのように厳しい規制がある広告主は、法律に抵触することを懸念している。

あるメディアバイヤーは「安全措置が限られているため、二の足を踏むクライアントもいる」と明かす。

ターゲティングと測定

ターゲティングと測定についても機能が限られているため、AVODの投資効果を証明することは難しく、ブランド各社がマクロ経済の停滞と戦っている今、その課題は一層鮮明になっている。

ネットフリックスは、国単位やコンテンツカテゴリーによる大雑把なターゲティングオプションしか提供していない。ディズニーは、2023年4月までに、ニールセンのデータと独自分析を用いて、ディズニープラスでデモグラフィックターゲティングを可能にする計画だと報じられた

サードパーティによる測定の導入も進んでいる──ネットフリックスも、ニールセンの視聴率システムを「2023年のどこかで」採用すると述べている。だが今のところ、広告パフォーマンスは検証されていない。

デジタルメディアエージェンシー、エッセンスのアドバンスドTVおよびオーディオ担当バイスプレジデント、マイク・フィッシャー氏は、「ウォールガーデンによってターゲティングの機会が閉ざされ続けている。パブリッシャー間のサードパーティデータの連携やターゲティング配信がますます難しくなっている」と指摘する。

あるメディアバイヤーは、広告投資と、売上増のような成果を紐づけることができないため、新たなAVODプラットフォームの輝きは「失われつつある」と言う。

「注目度の高いプラットフォームのローンチに参画して、革新的なブランドだと評価される価値は大きい。だが、そうしたクライアントでも、結局は効果が重要だと認識している。だが、しばらくは、ターゲットを絞らず、測定もせずに広告を打つしかない」

別のメディアバイヤーは、ローンチパートナーとなるブランドを、一番乗りになることに価値を見いだす「虚栄心の強いクライアント」に分類している。そしてこのような注目度の高い機会に賭けがちなクライアント業種として、旅行、電気通信、医薬品、クイックサービスレストランを挙げた。

AVODがリニアの広告費を奪うのはもう少し先

広告付きストリーミングプラットフォームは、いずれ大規模な予算を獲得するだろうが、十分な規模に達するには少なくともまだ1年はかかるというのが、バイヤーらの一致した予想だ。

「ネットフリックスが1000万人の契約者を獲得できたとすれば、2024年は魔法のような年となるだろう。だが、パスワード共有を含めたユーザーアカウントの総数からすると、達成できなくもない数だ」とカフェンスキー氏は語る。

ストリーミングプラットフォームに割り振られる広告費が、テレビ予算全体を拡大させることはない。既存のテレビ向けの広告予算がリニアとストリーミングに分割されるだけだ。

リニアTVは、依然としてテレビ広告販売のかなりの部分を占めており、広告会社によっては最大70%を占めている。しかしリニアがもたらす収益が減少しているため、広告主が急成長するストリーミングチャネルに移せる予算も減少している。

IPGメディアブランズ傘下のメディア投資会社マグナは、米国における長尺動画の売上高を、2022年は1%減と予測している。これは、全米リニアTVの4%の売上減が、AVODの18%成長で一部相殺されるからだという。

グループエムは12月の広告予測において、ディズニープラスとネットフリックスの広告付きプランは、2022年のテレビ広告費の「大きな変動要因」にはならないだろうと述べた。

マグナの予測によると、リニアとストリーミングを含む世界のテレビ広告市場の平均CPM(インプレッション単価)は、2022年に10%上昇し、2023年も同様の成長率を維持する見込みだという。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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