カンヌライオンズのケースフィルムを廃止すべき理由

DM9のスキャンダルは、単なるAIの問題ではない。キャンペーンの成果そのものでなく、その見せ方を評価するという時代遅れの慣習が露呈したのだ。

カンヌライオンズのケースフィルムを廃止すべき理由

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

キャンペーンが、本物あるかどうかは問題ではない。ケースフィルムが本物らしく見えさえすれば――。これは過去10年以上にわたり、カンヌライオンズの賞獲得にまつわる暗黙の了解だったが、今年ついに白日の下にさらされることとなった。

ブラジルでDM9が手掛けたコンスル(Consul)のキャンペーンがグランプリを取り消され、ブラジルのニューバランス(New Balance)の受賞作品も取り下げとなり、インドのブリタニア(Britannia)の作品が「パフォーマンス的なグリーンウォッシング」と非難されたことで、AIの不正使用を超えた問題が露呈。賞獲得のため、都合の良いデータと政治的に正しい物語がいかに巧妙に操作されているかを明らかにした。

これによって、業界関係者の多くが長年認識してきたことを再確認させられたのだった。「カンヌライオンズのケースフィルムは、もはや真実を映し出す鏡として信頼できるものではなく、単なる芝居。そして優れた芝居と同様、カンヌにもまた型があり、飾り立てて感情をかき立て、審査員を揺さぶるように設計されている。マーベル(Marvel)のヒーロー映画が、大ヒットを狙うためお決まりのパターンを繰り返すのとよく似ている」と。

私は長年、日の光にさらすことこそが最もよく効く浄化方法だと信じてきた。こうした問題が暴露されたことで、より深い課題にも光が当たるようになる。広告賞の審査の慣習は時代遅れであり、カンヌライオンズには時代と共に進化する真のチャンスが訪れているという課題だ。

カンヌライオンズのケースフィルムの慣習

デジタルエージェンシーと戦略エージェンシーのチームをインドと東南アジアで率いてきた私は、役員会で「カンヌ戦略」が議論されるのを目の当たりにしてきた。その典型的な流れは以下の通りだ。

そこそこ成功したキャンペーン、あるいは単なる良いアイデアでさえも、説得力のあるストーリーさえあれば「受賞可能」とされる。それはソーシャルグッド(社会に良い影響を与えるもの)、感情に訴求するもの、持続可能性、インクルーシビティー(包摂性)といった、カンヌで受賞実績のあるテーマに大きく依存している。指標は、ナラティブアーク(物語の流れ)に合わせて調整される。多くの場合、ストーリーは世界的な過去受賞作品から着想を得て、それを地域の視点でローカライズする。賞獲得のみを目指し、実際のビジネスの目標との関連性がほとんどないまま作られるキャンペーンもある。

念のため言っておくと、これらは悪意から行っているわけではない。ほとんどのクリエイティブリーダーやエージェンシーのトップの多くは善意に満ちて、才能と情熱を持っている。しかし、「カンヌで賞を獲得する」というのはキャリアを左右するプレッシャーであるため、このような芝居がかった演出を避けることはほぼ不可能だ。

このゲームでは、最高の芝居が勝つ。これはバグではなく仕様だ。そして、それこそが問題なのである。

ストーリーが 内容を上回るとき

正直なところ、AIが問題なのではない。カンヌが長年にわたり、一部の主要カテゴリーにおいて、パフォーマンスよりもパッケージングを重視してきたことが真の問題だ。重視されるのは、キャンペーンがクライアントにどれだけの影響を実際に与えたのかではない。キャンペーンについての動画がどれだけ感動的であるかだ。

ドラマチックなナレーション、壮大な社会的課題、あるいは映画的な感情が欠如していれば、どんなに影響力のあるキャンペーンでも最終候補に残ることは稀だ。「事実の忠実性」よりも「物語の忠実性」を優先するこの姿勢は、小規模なプレーヤーにとって不利に働く。大規模な予算を投じて洗練された動画を制作できない企業は、どれほど優れた成果を上げようとも、しばしば見落とされてしまう。

皮肉なことに、AIは競争の場を平等にすることに役立つ可能性がある。ビジネス上の課題を真に解決した小規模かつ精力的なチームも、AIを活用することで、グローバルな大企業に匹敵する方法でプレゼンテーションを行えるようになった。しかしAIは、その逆のことも可能にしている。つまり、審査員に影響を与えるだけの技術や計算能力を持つ者が、AIを駆使してクリエイティブや成果を作り上げることも可能なのだ。

だからこそ、AIを活用しようとしまいと、検証可能な影響がデジタルの華やかさよりも重視されなければならない。

クリエイティビティーは「素晴らしい」だけでなく、検証可能でなくてはならない

AIの時代において生き残るために、カンヌライオンズは見せかけよりも結果が重視されるよう基準を見直す必要がある。現在、ケースフィルムは履歴書のように精選され、装飾を施され、印象に残るよう最適化される。

だが、カンヌライオンズが真実を重視する旨を、あらかじめ奨励したらどうなるだろうか? キャンペーンの進行中にノミネートされるような、新しい応募方式を想像してみよう。パフォーマンスデータは安全にリアルタイムで提出され、第三者機関やプラットフォームのベンチマークによって検証される。結果が自明であれば、事後の物語を捏造しようという動機は無くなる。完璧ではないかもしれないが、それが出発点だ。そして、素晴らしいケースフィルムを制作すること以上に意味のある仕事をしている人々に、報いることになるだろう。

応募と審査の基準の厳格化に向けて、いくつかの前向きな措置が講じられたのは、2025年のカンヌライオンズの功績だ。これがアイデアに関する動画だけでなく、アイデアそのものを評価する方向へとシフトしていく兆候であってほしいと願っている。

カンヌはAIに脅かされてはいない。AIによって進化している

これはAIの危機ではなく、フォーマットの危機だ。クリエイティブの評価において最も信頼されてきた有力な手段としてのケースフィルムは、その役割を終えたのだ。コンテンツが安価になり、捏造が用意になった世界では、実際の影響よりも見せ方を高く評価し続けていては、クリエイティビティーの真の目的からますます遠ざかってしまう。

AIをスケープゴートにするのはやめよう。今こそ、真実に基づいて功績を讃える仕組みを再構築する機会としよう。

もしもデイビッド・オグルヴィが今日ここにいたならば、きっとこう言っただろう。「ChatGPTが見出しを書いたかどうかは気にしない。その見出しで商品が売れたかどうかが重要だ」。

私もまったく同じ意見だ。


ラマクリシュナン・ラジャ氏は、マーケティング会社「レゾナント(Resonant)」のプリンシパルで、Campaign Asia-Pacificに定期的に寄稿している。

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