David Blecken
2016年5月23日

シーメンスの教訓:ブランド再構築は一夜にしてならず

シーメンス ヘルスケアは先日、ブランド再構築を行ったが、多くのメディアは当初これを何かの冗談ととらえた。同社がよりダイナミックな側面を打ち出すべく選んだ新社名は「ヘルシニアーズ」だ。

シーメンスの教訓:ブランド再構築は一夜にしてならず

社名変更は、予定されていた株式上場に先立って行われた。5月12日にシーメンスがYouTubeに投稿した動画では、タイトな全身タイツに身を包んだパフォーマーたちが歌に合わせて踊り、ブランド再構築を発表するローンチイベントの様子が紹介されている(動画は後日取り下げられたようだ)。

動画の下には「シーメンス・ヘルスケアをどれくらいご存じですか」「新しい社名は、ヘルスケア産業における私たちのパイオニア精神とエンジニアリングの専門性を表しています」とのメッセージが挿入されている。

しかし、批判的な意見もある。フィナンシャル・タイムズのルーシー・ケラウェイ氏は、このパフォーマンスを「考え得る限り、史上最も恥ずかしい新社名発表イベント」と評した。イベント参加者がYouTubeに投稿した動画のコメント欄には、ドイツ語で「一番イタいのはどれかな。ダンス、歌、それとも『ヘルシニアーズ』って名前?」との書き込みがなされた(シーメンスは自社動画のコメント機能をオフにしている)。

また、「サイエントロジーのマーケティング部隊でも雇ったのか?」という書き込みも見られた。


英語圏でない方には、「ヘルシニアーズ」という新社名のばからしさ加減がピンとこないかもしれない。しかし多くの人にとっては、ディズニーの「イマジニアーズ」を連想させるものなのだ。ヘルスケアは真剣なビジネスだ。エンターテインメントやテーマパークを手掛ける企業をまねることでヘルスケアの重みを軽やかに見せようというのは、控えめに言っても良くは思われない。

しかし、他業界の企業にとっても、ここから学ぶべきことがある。シーメンスがYouTubeでコメントをブロックするのも不思議はない。この動画があざ笑いの対象となった大きな原因は、古風で重々しい企業がある日突然「クール」になろうとしたことにあり、そんな試みが上手くいくはずがないからだ。

サムソンもまた、スタートアップ企業のように事業運営すると宣言して笑い物になったばかりだ。堅苦しいスーツを着た5人の重役が手を挙げてこれを発表する姿は、スタートアップの文化とまるで相容れない。実際、韓国の内外を問わず、サムソンは権威主義のはびこる会社というイメージが強い。変革志向は称賛に値するが、同社が掲げたよりも長く困難な道のりとなることは間違いない。

ただ、何も大企業が「クール」になれないと言っているわけではない。アップル、グーグル、テスラのような例もある。違いは、これらの企業はクールさを声高にアピールしていない点だ。彼らに対する肯定的なイメージは、ビジョンを持ったリーダーと企業文化によるところが大きい。それはコーポレートソングで急に何とかなるものではない。ブランドと同様に、企業文化を築き上げるには時間と努力を要するのだ。

皆がしゃれた会社を目指す必要もない。重要なのは強みを見出し、それを生かすことだ。日産のグローバルマーケティング、ブランド戦略担当常務執行役員のルー ドゥ・ブリース氏は先日、キャンペーンの取材において次のように語った。「日産は設立して82年の会社。テスラのようにはなれないし、なろうとする必要もない。しかし、電気自動車の領域で強力な競合相手になることはできる」

ヘルスケア事業に真摯に取り組むシーメンスの資質を問うつもりはないが、そのブランディングのやり方には疑問符が付く。新社名「ヘルシニアーズ」は前進ではなく、後退だ。嘲笑が収束するまで、まだしばらくかかりそうだ。

(編集:田崎亮子)
 

提供:
Campaign Japan

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