David Blecken
2016年7月28日

パブリック・アフェアーズがグローバル化に果たす役割 ― リクシルの取り組み

日本の建築材料・住宅設備機器業界で最大手のリクシル。同社がコミュニケーションとグローバル化の両面で実践するアプローチは、実に啓発的だ。

リクシルの子会社にはアメリカン・スタンダード、グローエ、イナックスなどがある
リクシルの子会社にはアメリカン・スタンダード、グローエ、イナックスなどがある

日本では、多くの企業がブランディングのコンセプトや重要性を十分に理解していない、という話をよく聞く。ましてや、パブリック・アフェアーズの本質的な意味を理解している企業など、ほぼ皆無だろう。だからこそ、日本のビジネスの未来を担うと目される企業が世界的な成長を目指し、この二つを直接的に組み合わせて推進していることは非常に興味深い。

東京に本社を置き、グローエやアメリカン・スタンダードといったブランドを傘下に収める建築材料・住宅設備機器会社のリクシル。これまでそのブランド戦略は、社長兼最高経営責任者(CEO)であった藤森義明氏(今年6月に退任)が社内で最も「グローバルな機能」と呼んだ、パブリック・アフェアーズ部門が原則的に担ってきた。

リクシルは2011年、5つの企業が合併して誕生した。以来、積極的な拡大戦略を推し進め、多くの有名企業を買収。リクシルという1つのブランドの確立には、今やっと乗り出したところだ。

その過程で、なぜパブリック・アフェアーズに重点を置くのだろうか。2014年にGSKからリクシルへ移り、チーフ・パブリック・アフェアーズ・オフィサーに就任したジン・モンテサーノ氏は、同社にチーフ・マーケティング・オフィサーのポジションがないのは、「リクシルとはどのような企業か、パブリック・アフェアーズの見地から明確化する戦略的アプローチが最も重要、と藤森氏が考えたから」と言う。広告への投資などより、まずはパブリック・アフェアーズ。それこそがリクシルという企業の本質や存在意義を定め、ステークホルダー(利害関係者)との双方向の対話を実現させるというのだ。

「明快な戦略は不可欠です」とモンテサーノ氏。「外に向けて言いたいことを言うだけではダメ。強靭なブランドとは、広告やプロモーションから生み出されるわけではありません。ステークホルダーとの約束を果たし、継続的対話を行っていく能力をもちあわせてこそ、達成できるのです」

ブランディングの明確化へ

モンテサーノ氏曰く、広範なリクシル・ブランドを定義するのは、社内のあらゆるレベルのスタッフからのインプットをともなう、長期間に及ぶプロセスだったという。それまで発信されていたブランド・メッセージは迷走気味で、リクシルは建材のサプライヤーのようにも、日本版イケアのようにも映っていた。同社の事業が最先端の便器の販売からシャネルの店舗の内装、カリフォルニア州クパチーノ市のアップル新社屋の建設プロジェクトへの参加にまで及ぶことを考えれば、それは致し方ないことだろう。それまでリクシルは、経営陣からのインプットに基づいて「後付け」のブランディングを行っていたのだった。

企業が方向性を変える際には、従業員一人ひとりがその意図をよく理解していなければならない。そのために重要なのは社内コミュニケーションの確立で、リクシルは世界中にいる8万人の従業員をつなぐ「リクシル・リンク」を作り上げるという大仕事を成し遂げた。
「日本企業のほとんどが、いまだに社内を統制することにほとんど無関心です。ゼロから社内コミュニケーションの機能を立ち上げた我が社は一歩進んでいるかもしれませんが、(以前在職した)GSKに比べればまだ3分の1程度の規模です」とモンテサーノ氏。

リクシルには2つの側面がある。有名な消費者ブランドを中心に据え、日本では消費者向けと企業向けに事業を展開する一方、海外では企業向け事業に特化する。だが、その基本精神は共通している。モンテサーノ氏は新生リクシルを、「より自信に満ち、革新的で人を重視する企業」と表現する。

意識改革が生み出す変化

グローバル化へのアプローチとして、リクシルは意識改革に注力した。当初は「グローバル」という言葉の使いすぎで、「それがどういうことを意味するのか、実は誰もわかっていなかった」とモンテサーノ氏。同氏の「グローバル」の定義とは、「国を超えること」。すなわち、本社がどこにあろうと一貫した事業運営を行い、その企業が創立された国には様々な意味で縛られすぎないということだ。リクシルにとってこのコンセプトの実践は、日本人スタッフが往々にして抱く「日本は異質」という感覚を排し、「日本もグローバル社会の一員」という認識を醸成することだった。リクシルの株主はかつて90%が日本人投資家だったが、今ではその比率が60%となり、40%を外国人投資家が占める。そうした観点からも、この変革は極めて重要になる。

意識改革の浸透には時間がかかる。しかしこれまでのところ、日本人スタッフはそれを柔軟に受け入れている、とモンテサーノ氏。「(GSK時代に勤務していた)ベルギーでグローバル化を推進したときの方が100倍難しかったですね。彼らは非常に誇り高く、グローバル思考や変革の必要性に迫られていることを認識していませんから」

CEOの「右腕」として

パブリック・アフェアーズ、広報、そしてマーケティングが社内で強い影響力を発揮するためには、これらを戦略的機能と認識し、耳を傾けてくれる経営陣の存在が欠かせない。その点でリクシルは、平均的な日本企業とは一線を画す。取締役会の一員であるモンテサーノ氏の役割は、CFOと同等に見なされているのだ。

パブリック・アフェアーズに対する通俗的な見方には、モンテサーノ氏は否定的だ。「都合の悪いことに対処するのがパブリック・アフェアーズではありません。はじめから正しい選択をするよう経営陣に働きかけ、より良い組織づくりに貢献し、それを情報発信することがパブリック・アフェアーズの役割です」

昨年、リクシルの中国子会社が不正会計で破綻し、リクシルは多額の損失を被った。だがこうしたパブリック・アフェアーズの精神があったからこそ、リクシル本体へのダメージを一定限度にとどめることができたと言える。「先見性のあるリーダーシップと透明性を心がけて事態に対処したので、不祥事の原因追究のため、周囲から突き上げられるようなことにはなりませんでした」とモンテサーノ氏。

企業やブランドの広報機能を拡大する意義を、具体的に提示することに苦労している人々は多いだろう。そうした人々には、モンテサーノ氏の明快な言葉が答えになるかもしれない。「信頼の確立は、広報やPR会社が責任をもって担うものです。そして信頼こそが、企業が長期的に事業を行っていけるための必須要素なのです」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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