David Blecken
2018年5月29日

パルムドール受賞、AOI Pro.が描くエンターテインメントの将来

今年のカンヌ国際映画祭で最高賞に輝いた「万引き家族」。その制作を担ったAOI Pro.(アオイプロ)の社長が、広告界におけるエンターテインメント制作のスキルの重要性を説く。

カンヌでの中江康人氏(右端)と是枝裕和監督。
カンヌでの中江康人氏(右端)と是枝裕和監督。

東京に本社を置くAOI Pro.(アオイプロ)は、テレビCMの制作会社として知られている。故に、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」を制作したと聞けば、驚く方は少なくないだろう。

これまでパルムドールを獲得した日本映画は5本。今回の受賞は21年振りのことだった。AOI Pro.にとっては長編映画による初の受賞。同社は20年にわたり長編映画制作に関わってきたが、これまで目立った成功は収めてこなかった。

「うまくいかないことの方が多く、多くの失敗を経験しました」と話す中江康人社長。8年前にはエンターテイメントコンテンツ事業をあきらめる寸前までいったという。だが今や、コンテンツ制作は同社のビジネスで重要な地位を占めている。

同氏は社長就任以前から、エンターテインメントコンテンツを事業として確立させようと取り組んできた。ビジネスとして採算がとれるようになったのは、「やっと昨年辺り」という。エンターテインメント分野への参入は極めてハードルが高かったが、「会社の将来のためには必要な挑戦でした」。

「広告ビジネスは以前ほど盤石ではありません。一方で広告コンテンツはますます純粋なエンターテインメントになっていくでしょう」。よって優れたコマーシャルコンテンツを生み続けるには、「長編映画の制作に必要なスキルを養っていかなければならない」。

「広告映像制作者が今後もクライアントの良きパートナーでいたいのなら、よりクリエイティブに思考することが必要です。残念ながら日本のように15秒の広告映像がメインの国では、十分なスキルを持った人材はまだ少ない」。

「シナリオを開発し、長尺で楽しませるエンターテインメントを作る職人技と、15秒広告を作るそれとは似ているようでまったく違います」。それでも、広告映像制作とエンターテインメントコンテンツの境界線は「いずれ曖昧になるでしょう」。

「我々が数年後もリーディングカンパニーであり続けるには、エンターテインメントコンテンツ事業のスキルは不可欠」。日本のCMプロデューサーはラインプロデュース(各制作工程の管理)とプロジェクトマネジメント力には極めて優れているが、「様々なビジネスモデルやリソースを活用し、事業をプロデュースする力ではかなり遅れをとっている」。故に、「これまでのエンターテインメントコンテンツ事業で試行錯誤した経験を受け渡すことで、業界の発展を支えていきたい」とも。

「これまでは広告のビジネスモデルが盤石でした。ですから今までのような仕事の進め方でも良かったのですが、様々なチャンスがあふれる時代にそれでは、もったいない。チャンスと巡りあうことが多いテレビCMプロデューサーにコンテンツビジネスのスキルがあれば、事業拡大の可能性は無限大です」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

2 日前

人員削減はビジネス上の理由 リストラから迅速に再出発するには?

人員削減がクリエイティブ業界の構造を変えつつある中、人員整理は今やビジネスにおける現実となった。2026年に向けて再出発し、新たなポジションを見つけ、採用されるための実践的なロードマップを、採用ディレクターのディーン・コネリー氏が紹介する。

2025年11月28日

アサヒGHDへのランサムウェア攻撃 最大190万件の個人情報が流出か

アサヒはシステム障害への対応に注力するため、通期決算発表を遅らせると発表した。

2025年11月28日

世界マーケティング短信:オムニコムのIPG買収が完了

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2025年11月27日

電通データ漏えい 150人超の元社員らが法的措置を検討

英国で起きた電通の大規模なデータ漏えい事件を巡り、元社員たちの間で不満が高まっている。中には「退職から10年以上経過しているのに、なぜまだ自分のデータを保持していたのか」と不信を抱く人もいる。