Shawn Lim
2022年8月26日

ファーストパーティデータで有効なインサイトを

サードパーティクッキーが廃止されることで、ファーストパーティデータの重要性が増している。顧客データプラットフォームやツールをいかに活用するか、マーケターやブランドにとっては喫緊の課題だ。

ファーストパーティデータで有効なインサイトを

ファーストパーティデータの価値がこれまで以上に上がっている。ブランドが顧客をひき寄せるには、パーソナライズ化された顧客エクスペリエンス(CX)の提供が欠かせない。その創出に重要な顧客インサイトが、サードパーティクッキー廃止によって収集しにくくなるからだ。

米・クラウドコミュニケーションサービス会社トゥイリオ(Twilio)が今年行った調査では、世界の消費者の62%がCXのパーソナル化を望んでおり、それが実現できないブランドはロイヤリティを失うという結果が出た。

また、アジア太平洋地域(APAC、日本を含む)のブランドの78%がマーケティング戦略をサードパーティデータに依存しているという結果も。

サードパーティデータが活用できなくなれば、顧客とのインタラクションや彼らのニーズを理解するために重要となるのはタッチポイントだ。

ゼンデスクのマルコム・コー氏


カスタマーサービス管理(CSM)ツール「ゼンデスク(Zendesk)」でCX担当グローバルディレクターを担うマルコム・コー氏は、「様々なタッチポイントを活用することで、パーソナライズ化は重層化される。表層的なデータポイントを有効化し、顧客を完璧に理解することができます」と語る。

「顧客のニーズを把握することで、企業はインサイトを得られる。その結果、最適なCXを継続的に提供できるのです」

CRMCDPの役割

ブランドにとって最も一般的なファーストデータパーティは、顧客関係管理(CRM)と顧客データプラットフォーム(CDP)だ。この2つの主な違いは、CRMが顧客とのインタラクションを統括・管理するのに対し、CDPはブランドの製品やサービスに関する顧客の行動データを収集する。

ブランドはCRMによって顧客の名前や販売チームとのインタラクション履歴、サポートチケットの使い方など様々なデータを把握できる。一方CDPは、顧客エンゲージメントの1つひとつの過程 −− ブランドを見つけたチャネルから製品の使い方に至るまで −− を明確化する。

CRMであれCDPであれ、顧客にとって魅力あるエクスペリエンスを生み出すには、ファーストパーティデータの活用が不可欠だ。

トゥイリオ・セグメントのカトリーナ・ウォン氏


トゥイリオ・セグメントのマーケティング担当ヴァイスプレジデント、カトリーナ・ウォン氏は、「顧客を理解する上でファーストパーティデータの重要性は圧倒的に高い。それは様々なタッチポイントでの直接的なインタラクションに基づいているからです。ファーストパーティデータを活用すれば、ほぼ正確に顧客のことを理解できる」と語る。

ファーストパーティデータは販売までのプロセスを明らかにするので、ブランドはオーディエンスに対しリターゲティング広告が可能となる。

「現代の一般消費者は実生活でもデジタル空間でも、あらゆるタッチポイントで氾濫するマーケティング戦略にどっぷりと浸かっている。情報があふれる中、ブランドにとってどの情報源よりも顧客の正確な理解に役立つのはファーストパーティデータ。顧客が喜ぶパーソナライズ化されたCXの創出には欠かせません」

「広告ID(クロスアプリ識別子)やサードパーティクッキー廃止の流れの中、マーケターはプライバシーを優先した『顧客ファースト』のアプローチを強めていく。我々の調査結果では、APAC消費者の69%がプライバシー保護の強化とデータ活用の透明化を求めていることがわかりました」

ファーストパーティデータを実用的インサイトに

CRMから得られるデータはマーケティングや販売、カスタマーサポートなど、顧客と直接的なやり取りを行う部署に効果的だ。

ファーストパーティデータを精査すれば顧客のより正確な分析が可能となり、より効果的なマーケティングが実現できる。そして、顧客のニーズや嗜好に即したエンゲージメントの構築を実現する。

「ファーストパーティデータによってマーケターは顧客1人ひとりのプロフィールの特定と細分化ができる。ゆえに、本当の意味でパーソナライズ化された広告やメッセージ、サービスが提供できるのです」(ウォン氏)

同氏は、CRMが主に「顧客のトランザクションや消費行動を把握できるファーストパーティデータ」であるのに対し、CDPは「より魅力あるCXの創出に役立つ」と指摘する。CDPは様々な情報源からデータを収集するので、顧客の特徴とニーズを完璧に理解できるのだ。

例えば、ある顧客が実店舗で靴を買ったとしよう。あらゆるデータを収集するCDPならば、この顧客に対し同じような靴の広告を送るのではなく、その靴に合った服のコーディネーションを提案する。顧客の過去の消費行動に照らし合わせ、さらなる商品提案を行うことで、サービスの拡張化を実現するのだ。

「10のショッピングジャーニーがあれば、そのうちの6つはオンラインから始まる。極めて正確なパーソナライズ化で魅力あるCXを生み出すCDPは、企業にとって大きな武器になります」

「2つのシステムの違いは、通常のCRMが24時間毎にアップデートされること。したがってリターゲティング広告に活用するにしても、リアルタイムのインタラクションを反映しているとは言えません」

トークウォーカーのベンジャミン・スービーズ氏


データ分析プラットフォーム「トークウォーカー」のAPAC担当マネージングディレクター、ベンジャミン・スービーズ氏は、「今日のブランドは無数のデータポイントを保有しているので、マーケターは大量の情報にアクセスができる。しかし、企業内のデータのほとんどは眠ったまま」と話す。

「こうした使われないデータでできることは山ほどある。しかしそれらを処理する手法や発想、ツールをブランドは持ち合わせていないのです」。さらに、その目的がマーケティングであれ商品開発であれ、多くのブランドではこれらのデータを扱う部署がはっきりしていないという。

「誰が担当するのであれ、ブランドはこうした情報を有効活用してインサイトを得なければならない。顧客の見直しにデータを役立てようとするクライアントは増えています。ブランドは消費者の評価や、その影響をもっと知りたいのです」

「そのために活用できるのが、CRMのようなファーストパーティデータ。カスタマーサポートチームが得たデータは通常、CRMプラットフォームやカスタマーサポートのソフトウェアなどに活用されるでしょう。しかしAIを活用すれば、全てのデータは即座に統合される。マーケターはそれを念頭に課題をつき詰め、解決に必要な時間を把握せねばなりません」

データによる信頼構築

データプライバシーへの規制がますます強まるなか、ブランドが直面する重要課題はデータの取り扱いで顧客から信頼を得ることだ。

自分たちのデータは保護されている、と顧客が盲目的にブランドを信用していた時代は過ぎ去った。トゥイリオが今年行った調査では、B2Cブランドの95%が「顧客はデータの取り扱いを信用してくれている」と答えたが、それに同意した消費者は65%に過ぎなかった。

さらにAPAC消費者の69%は、ブランドはプライバシー保護対策をもっと強化し、データ活用に関する透明性を高めてほしいと答えた。

「我々はこうした現状を『パーソナライズ化とプライバシーのパラドックス(パーソナライゼーション・プライバシー・パラドックス)』と呼んでいます。顧客の大多数がパーソナライズ化を望んでいるにもかかわらず、『ブランドは責任を持ってデータを扱っており、データは安全』と答えた人は40%にも満たなかった」(ウォン氏)

「このパラドックスの解決はブランドにとって難しい課題ですが、不可能ではない。まず第一に、ブランドは透明性の向上を強く打ち出さねばなりません。それにはデータが何のため、どこで、どのように使われるか顧客が管理できるようにすること。そうすることで顧客との関係を再定義できる。さらに個人情報を得ることの見返りに、その価値を顧客に対して常に認識させることが重要」

オクタのジョン・ジッシモス氏


ネットワーク認証サービス「オクタ(Okta)」のチーフマーケティングオフィサー、ジョン・ジッシモス氏は、1つのソリューションとして「顧客ID及びアクセス管理(CIAM)」を挙げる。

CIAMは安全性とCX、アナリティクスが基本になっており、オンボードやログインもユーザーにとってはスムーズで、コンバージョン率や顧客ロイヤリティの向上にも効果的だ。

「CIAMを使えばブランドは顧客に関する知識をさらに活用でき、顧客のニーズに即した効果的なCXを提供できる。自社内のシステムやサードパーティなど、様々な情報源から得たユーザーのデータを統合・集中化でき、顧客のプロフィールや嗜好を360度の角度から把握できるのです」(ジッシモス氏)

「1人ひとりの顧客とそのニーズをより深く理解すれば、それぞれに合ったアプローチやキャンペーンを実行できる。効果的なマーケティング戦略を可能にすることは言うまでもありません」

データの相互運用性

デジタル上でのインタラクションはこの2年間でますます増加傾向にあり、ブランドはあらゆるタッチポイントで顧客の日々の動向を把握しようと必死だ。

マルチチャネルアプローチは決して悪いアイデアではないが、往々にしてデータをサイロ化し、CXを分断してしまう。それを補うには、顧客がどこにいてもインタラクトできる継続性とパーソナライズ化を実現せねばならず、ブランドにはオムニチャネルCXの創出が求められる。

オムニチャネル戦略を実現するには、ブランドは拡張性の高いデータインフラストラクチャーを構築し、顧客データを統合してリアルタイムで対応することが欠かせない。こうしたデータインフラストラクチャーの構築は、顧客のデモグラフィックや関心、行動データに基づいた「ハイパーパーソナライズ化」されたCXの創出につながる。

データは「生きもの」であり、常に変化する。複数の個別データ処理は単調なバックエンド作業で、アップデートに時間を要する。それを解決するために有効なのがデータ管理システムで、サイロ化されたデータの統合と最適化を実現するのだ。

特にCDPはプライバシー保護を実現する上で極めて重要で、同時に顧客エンゲージメントをパーソナライズ化できる。さらに潜在顧客へのリターゲティング広告を可能にし、ブランドはファーストパーティデータによって集めた顧客のみに広告を展開できるのだ。

ブランドは、様々な情報源から収集したデータを1つにまとめるソリューションを見出さねばならない。そうすることで全ての部署が必要なデータを共有でき、2つのCRMプラットフォームのデータの共有も可能になる。

「CDPを活用すれば、ブランドはデータを送りたいウェブサイトの1つひとつにアプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)を設定することができる」(ウォン氏)。加えて、オフラインの情報源から得たデータも追加できるのだ。

APIを設定し、オフラインからのデータも取得すれば、ブランドはユーザーのセキュリティーを侵害することなくパーソナライズド広告を展開できる。つまり、パーソナライゼーション・プライバシー・パラドックスをクリアできるのだ。

「異なる部署のチームが顧客のあらゆるデータを共有し、有用な意思決定に役立てられる。情報は常にアップデートされ、時間のかかるデータのインポートやエクスポートに煩わされずに済むのです」

(文:ショーン・リム 翻訳・編集:水野龍哉)

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