David Blecken
2018年8月03日

フィリップ・モリス、「アイコス」キャンペーンに新たなエージェンシーを起用

これは、たばこ会社と広告代理店との関係が新たな段階に入ったことを示している。

写真:シャッターストック
写真:シャッターストック

フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)は加熱式たばこ「アイコス(IQOS)」の新キャンペーンを、マッキャン・ワールドグループホールディングス(MWG)傘下にある日本の独立エージェンシー「サーティーン」に委託した。

マッキャン・ワールドグループ・アジアパシフィックのプレジデントで日本法人CEOを務めるチャールズ・カデル氏は、「サーティーンは独立したエージェンシーで、このPMIのプロジェクトのために『チームIX』という専門チームを社内で立ち上げた」と語る。チームIXのスタッフはマッキャン・ワールドグループ・ジャパンから選ばれる予定だという。同氏はこれ以上のコメントを避けた。

こうした個別プロジェクトの契約が、長期でないとは言え行われたことは、PMIが今後協働する代理店を増やしていく可能性を示唆する。日本で同社の大部分の業務を担ってきたのはピュブリシスワンで、2014年に発売されたアイコスのキャンペーンも担当した。PMIは電通アイソバーとも、日本市場でアイコスに関して協働。「I quit original smoking(私はこれまでのたばこをやめます)」の頭文字をとった煙を出さないアイコスはその後市場を拡大し、現在世界38か国で販売されている。

ピュブリシスやWPP(最大のクライアントはブリティッシュ・アメリカン・タバコ)など、いくつかの代理店グループにとってたばこ会社はビジネスの根幹だ。だが、たばこ業界は長きにわたり物議を醸してきた。一部の代理店は倫理的配慮やイメージ低下への懸念から、たばこ会社との仕事を削減。IPGはヘルスケアビジネスを重視することで知られており、この業界を長年避けてきた。しかし健康への害を減らす製品に取り組むたばこ会社のイノベーションが、状況を変え始めたと言える。

アイコスをはじめとする加熱式たばこや電子たばこは、グレイゾーンの製品だ。だが多くの人々はたばこの新しい方向性として、どちらかと言うと肯定的に捉える。たばこ会社も従来のものより安全性が高いとして(まったく害がないわけではないが)セールスに注力。ニコチンは含むが、有害な化学成分を抑えているところが特徴だ。

評論家は、加熱式たばこの長期使用による弊害を指摘する。出す蒸気の有害性も判断が難しい。サンフランシスコを拠点とする電子たばこの会社「ジュール(JUUL)」は、安全性をアピールしていたにもかかわらず利用者にニコチン中毒を引き起こし、詐欺の疑いで訴訟に直面している。

それでもこのイノベーションは、ニコチンという課題を解決する将来への布石になるだろう。アイコスの日本におけるたばこ市場の占有率は約10%。今でも“マルボロマン”のイメージが強いPMIは、「全ての喫煙者により良い選択肢がある世界を作り上げる」と明言した。

これらの製品に対する広告・マーケティング上の規制はまだ存在するが、PMIや競合他社が取り組む積極策は、たばこ業界を敬遠していた代理店に「受け入れ可能なビジネスソース」として再考を促しているようだ。

アイコスのマーケティング活動は体験的イベントを重視し、販売スペースでは製品の科学的正当性を強調してきた。今年のカンヌライオンズでは、PMIはフェイスブックやツイッターなどとともに海辺に大規模なブースを開設。こうした派手なキャンペーンは異例なことだ。

その理由は2つ考えられる。

まず、「これまでカンヌでメディアやクリエイティブ業界の喫煙者に煙の出ない製品を提供し、社会的変革を促してきたPMIの存在感」(同社広報)。

そして、たばこのポジティブで新たな側面を強調することで、世界のたばこ業界をリードしていく戦略の強化だ。代理店には、潜在力の高い主要クライアントとしてPMIが再浮上したことを明快に示すことになろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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