David Blecken
2017年12月21日

労働時間削減に向けたピュブリシス・ワンの試み

金曜午後の退社は、日本の広告会社にとって効率的に働くためのきっかけなのかもしれない。

まだ明るい時間帯に退社するという、新たな贅沢を初めて知った社員も。
まだ明るい時間帯に退社するという、新たな贅沢を初めて知った社員も。

日本の外資系広告会社は、規模や文化、ビジネスモデルなど多くの点で、国内の大手代理店とは異なる。しかし、顧客からの要求や社員の疲弊といった課題に直面している点において、両者の間に大きな違いは無い。都内のある人材コンサルタントによると、外資系広告会社の残業時間は、控えめに見積もっても1日平均3時間。週末に顧客対応が突発的に発生することもある。最近では、大手多国籍エージェンシーに最近入社した社員から、週60時間以上の残業があったと苦情を言われたという。

日本で存在感を放つ外資系ネットワーク「ピュブリシス・ワン」は、そんな働き方の変革に挑む企業の一つだ。ビーコンコミュニケーションズ(ピュブリシス・ワンの傘下)の株式を33%保有する電通や、ADKなどの企業と比べれば、その対策のスケールはずっと小粒だろう。だが、解決すべき問題があることを認識する、重要な一歩であることには変わりない。

同社は残業の抑制方法をいくつか検討する中で、勤務時間を超えて働くことを許可制にするというシンプルな策を導入した。さらに、終電を逃したという理由で月4回以上タクシーを使ったら、マネージング・ディレクターのフロリアン・トリポリノ氏に直に報告しなくてはならない。ミーティングは20分、40分、60分の時間枠を決めてタイマーを使い、極力20分以内に終わらせるよう奨励している。

小さな対策ではあるが、時間の使い方を慎重に考えるよう工夫されている。また今年は夏季と冬季の期間に、金曜日は午後3時に退社することを奨励する「季節時間」を導入した。新制度が必ずしもまだ全社員に浸透しているわけではないが、7月と8月の残業時間が2割削減されたとトリポリノ氏は語る。

「対策には戒めるタイプと、インセンティブを与えるタイプの2種類があることが分かりました」とトリポリノ氏。そして、長時間労働の是正には「戒めよりも奨励の方が、ずっと効果があります」とも。今までは日中に退社した経験のない社員もいたが、「やってみると早く退社することの良さが分かります。早く帰れるメリットを自覚できれば、結果的に効率よく仕事するようになるのです」

出社時間も、従来通りの10時や10時半でなく、9時出勤を奨励している。まだ始まったばかりの試みだが、早く退社できる見通しがあると社員の集中力が高まり、午前中により多くの仕事をこなそうとする傾向が見られるという。総じて、仕事を終わらせることに対して意欲的になるのだとか。「翌日が短時間勤務であることを念頭に、木曜日の仕事を完了させる。このことで、新しい1週間の流れが生まれています」。ミーティングも効率化が進んだだけでなく、出席者が「今までより冴えている」という。

国際的な企業が大半だというピュブリシス・ワンの顧客もこうした試みを肯定的に捉え、退社時間以降のメールや電話連絡を控えるなどサポートしてくれている。トリポリノ氏によれば、勤務時間の短縮による業務への悪影響は無いとのことだ。

同社にリモートワーク制度はないが、子育てや介護に忙しい社員の負担軽減を視野に、月6日まで自宅勤務ができる制度を試験的に導入。現在45名の社員が利用中で、1月からは正式にこの制度を開始する予定だ。

こうした対策が、働き方改革の前進に寄与していることは間違いない。しかし、勤務時間内ではこなしきれない量の仕事を抱えている社員はまだ残っていることを、我々が同社でのミーティングに参加した際にはっきりと感じ取った。この問題を完全に解決するには、さらなる効率化や、社員の増員もおそらく必要だろう。トリポリノ氏によると、理想的なのは7~10時間あれば十分にこなせる仕事量を保つこと。カギとなるのは柔軟性だ。

「1日の仕事量が10時間分の日もあれば、その翌日は6時間分ということもあり得ます。必要ない労働時間を足し算することをやめ、よりシンプルなワークフローにすれば、目標を達成できます。ワークフローの中には、クライアントのビジネスに多大な影響を及ぼす業務もあれば、影響の少ない業務もあります。価値のいかんに関わらず、すべての業務を一緒くたに扱っていることが問題なのです」

ミーティングも「20分でまとまるならば、1時間も費やす必要はありません」。こうした発想の転換を、管理職が率先して取り入れていくことがポイントだ。「残業する部長の下には、残業する部下がいるもの。勤務時間内に仕事を終わらせる能力を持った管理職が、ロールモデルになることが重要です。上司が既に退社していれば、部下だって退社しやすいのです」

広告業界は「楽しい」業界であり続けることが重要だというのが、トリポリノ氏の考えだ。もし社員が能力の限界を超えて働かせられれば、これが不可能になってしまう。「人々を楽しませる仕事なのに、仕事が楽しくなくなってしまっては無意味です。適切なワーク・ライフ・バランスは、会社が社員に負う責任。しかし、もし効率化に成功しなければ、5年後には廃れているでしょう。効率化は、単なる社員の福利を超えた必須条件です。全社を挙げて取り組むべき課題だと思います」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)

この記事は、国内広告界における働き方改革を紹介するシリーズの一環です。

提供:
Campaign Japan

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