David Blecken
2016年5月10日

海外展開を阻むのは、日本企業の国内と国外を分ける考え方

日本企業がグローバルブランドになるために必要なものは何か。ADKグローバルのアジア太平洋地域ヘッド、大森健一郎氏に聞く。

海外展開を阻むのは、日本企業の国内と国外を分ける考え方

日本企業にとってマーケティングは、製造と比較してどれくらい重要ですか?

一般的な日本企業にとって、製造の方が取り上げやすいのです。製造よりマーケティングを軽んじている訳ではないのですが、グローバルなマーケティングの経験も人材も不足しているという問題があります。

日本のブランドの海外展開はどのように変化してきていますか?

日用消費財、化粧品、小売業などを扱う企業の中には、主軸となるブランディングやマーケティングに集中的に投資しようというところもあります。それに応じてこのような会社では、そういう会社は、海外事業を全般的に統括できるグローバルエージェンシーを探し始めています。

変化に対応するために、日系企業では珍しいことでしたが、日本人以外の責任者を採用する動きも出てきました。しかし日本と欧米では商慣習が異なり、試行錯誤が続いています。

よくある間違いには何がありますか?

歴史的に、多くの日本企業でマーケティングは、各国・各地域の販売会社の裁量に任せてきました。そして、それら現地のリーダーたちは東京や大阪にいる日本人の管理職よりも、国際的な環境での経験が豊富にある傾向が見られます。東京で理論的に立てた戦略が、日本の外では機能しないこともよくあります。

マーケティングへの投資を集中管理しようとした会社もありましたが、ほとんどがうまくいきませんでした。なぜなら、本社と現地責任者との間で、実施前に十分な議論がなされず、コンセンサスが得られていなかったからです。

限られたマーケティング予算しか持っていないチャレンジャー企業が、大手会社が作ったトレンドを追従する傾向も見られます。例えば、社内にマーケティングを統合する能力が無いのに、複数の専門エージェンシーに業務を細分化して委託してしまうなどです。

さらに、このような企業の多くがいまだに媒体手数料でエージェンシーを使っています。外部リソースのモチベーションを上げ、結果を出す努力をさせるにはどうすればよいか、再考する余地があるでしょう。

日本ブランドのマーケティングの部署は、海外事業をするためにうまく構成されていますか?

そうとは言いにくいですね。多くの日本企業はいまだにマーケティング部門を、日本国内と海外とで分けています。例えばほとんど全ての自動車ブランドで、国内と国外のマーケティング部門の間には大きな壁があります。

多くの場合において、海外事業のトップは製造やセールスの出身ですし、ブランドや顧客満足などの定性的なKPIがあるとも限りません。売り上げ重視の体制になりがちです。

日本企業が海外でブランドを構築するために、重要なことは何でしょうか?

多くの後発組が「ノーリスク、ノーサクセス」、つまりリスクを避け、適切な投資ができないため、成功例もなかなか出てこない状況にあります。一方、韓国の企業はリスクを取り、将来に向けて積極的に投資しています。何も私は、日本企業はもっとお金を使うべきだと言っている訳ではありません。現状を否定する耳障りな意見にも耳を傾け、流れを変える新たな戦略を模索することが必要です。そしてチャレンジ精神を共有できる、ふさわしいパートナーを探すべきなのです。

(編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

併せて読みたい

1 日前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

3 日前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

3 日前

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。