Ryoko Tasaki
2019年6月03日

情報過多時代に大反響を呼んだ『みんなで筋肉体操』

たった5分間の深夜番組が、放送直前からSNSで大きな話題に。その秘訣を担当ディレクターたちが、アドバタイジング・ウィーク・アジアで語った。

(左から)博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 吉川昌孝所長、
NHK 勝目卓ディレクター、NHK梅原純一ディレクター
(左から)博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 吉川昌孝所長、 NHK 勝目卓ディレクター、NHK梅原純一ディレクター

昨年8月27~30日の4日間、23:50から5分間だけの深夜枠で放送されたNHK『みんなで筋肉体操』。同局で長年放送されてきた体操番組を想起させるセットの中で、武田真治(俳優)、庭師、弁護士が一声も発することなく、黙々と体操に取り組む番組だ。「筋肉は裏切らない」という決めゼリフが流行語大賞の候補に選ばれたり、紅白歌合戦で演歌歌手が熱唱する傍らで真面目に筋トレを行うなど、SNS上でも継続的に話題となった。年明けからスタートした第2弾には、歯科医師もメンバーに加わった。

また今年1月には、大阪放送局が『まだ間に合う筋肉体操』を公開。こちらも篠原信一(柔道家)の他、僧侶、67歳の宮大工が出演していることから、SNSでは「どこから人材を見つけてくるのか?」と盛り上がっている。

情報過多といわれる時代にこれだけ注目されるコンテンツは、どのようにして生み出されたのだろうか。

●プラットフォームの特性に合わせた「撒き餌」をたくさん用意する

「筋トレは繰り返しやらないと意味がなく、ウェブと親和性があるコンテンツ」と語るのは、NHKの勝目卓ディレクター。深夜5分間だけの番組枠で視聴率を狙うのは困難だが、結果を残さないと生き残れない。そこでツイッター、フェイスブック、インスタグラム、NHK広報のサイト、番組ホームページ、プレスリリース、さらには自身が担当する朝の情報番組内など、「出せるプラットフォームすべてにコンテンツを出した」と振り返る。

勝目氏と共に番組を制作した梅原純一ディレクターも「クスっと笑えて話題にしてもらえるようなフックを、撒き餌としてたくさん用意しました」と語る。例えばツイッター用には、番組を宣伝する短い動画は3種類用意。番組ホームページには出演者が筋トレを始めたきっかけや魅力、好きなプロテインの味、音声コンテンツなど、レアな情報が満載だ。「このページまでたどり着く人は熱意のある、一番のお客さま。ここでしか手に入らない、知ったら誰かに言いたくなるような情報を発見してもらえるようにしました」(勝目氏)

●あえてテレビの文脈から離れてみる

だが「この番組は一体何?」とネットでざわついてほしいとの思いから逆算して考えた結果、「妄想と雑談と検索の余地を残す」スタイルに行き着いた。例えば、番組内では出演者のプロフィールなどをあえて説明していないが、これは音声と文字を駆使しながらより多くの情報を伝えようとするテレビの文脈とは真逆だ。そのため、編集が終わった番組を上司に見せたところ、「本当にこれでいいんだよね?」と念押しされたのだとか。

また、第二弾の初回放送分でも、番組冒頭で「お待たせしました」といった挨拶はせず、全員で黙ってお辞儀をするのみにとどめた。「ウェブで番組と出合った人は、10月に出合ったかもしれないし、12月かもしれないから」と、あらゆる経路で到達してくれた人にとって違和感のない番組作りを心掛けたためという。同様の理由で、季節感も一切出さないようにしているとのことだ。

●芯となる部分は大切に

笑いを誘う要素が非常に多い番組ではあるが、「本当に役立つ筋トレを目標とした番組」という軸は決してぶれないよう、細心の注意を払っている。「我々もハードルを高く設定していましたが、(番組内で指導にあたる)谷本道哉先生のハードルはそれよりはるかに高く、ものすごい緊張感の中で収録しています」と勝目氏は打ち明ける。

ただし、谷本氏は「筋トレのメニューにかかわる部分以外は、何も言わない」とも。そこで制作側も、番組の宣伝などでは笑える要素をふんだんに盛り込むが、「“筋肉を裏切らない”という不文律があり、どんなに面白いことでも、筋トレの邪魔になることは一切しないようにしています」と勝目氏。

それを象徴しているのが、体操の合間に入る休憩時間もしっかり尺をとっていることだ。「テレビを見ながら一緒に筋トレをするガイドであるというのが、一番大事な部分。効果がある筋トレを行うためには休憩も必要なので、ここは譲れなかった」と勝目氏。

また、紅白歌合戦への出演の話が来た際には、「紅白への出演は宣伝になるが、筋トレの品質を守るガードマンとしての谷本先生には、あえて出てほしくなかった」と梅原氏。他の3名に紅白出演はお願いし、「筋トレさえ邪魔しなければ、何をしてもいいですと送り出しました」。

当セッションのモデレーターを務めた吉川昌孝氏(博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長)から、「情報過多時代の“満足”の作り方とは?」と問われ、梅原氏は「芯を作ること」と回答。情報過多時代にいかに視聴者を「連れてくるか」はもちろんだが、「連れてきたものの、中身に筋が通っていないと一過性になってしまう」ためだ。「連れてくることと、連れてきた人を逃さないこと、この2点を意識しています」

また、「必然性があるコンテンツであることが重要」と勝目氏は語る。「『テレビ体操』『みんなの体操』を60年間作り続けてきたNHKが作るからこそ、『みんなで筋肉体操』には意味がある。NHKらしくないとか、攻めていると言われますが、本質の部分はとてもNHKらしい番組なのです」

(文:田崎亮子)

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