David Blecken
2018年11月01日

日本の「制作」を刷新する

新たな発想でスタートした制作会社「コネクション」。目指すのは、個々の芸術的才能の重視と効率性のアップだ。

大槻ティモ光明氏
大槻ティモ光明氏

プロデューサーをまとめ役ではなく1人のアーティストとして位置づけ、ディレクターの役割をより重視する −− コネクションが掲げるのは、制作現場の一新だ。

このベンチャーを率いるのはカッターズ・スタジオ(Cutters Studios)東京でエグゼクティブプロデューサーを務めた大槻ティモ光明氏とディレクターの柿本ケンサク氏、前プロデューサーで現在は人材業を営む原田英機氏の3名。同社が全面的に機能すれば(大槻氏は来年を見込む)、ディレクター10名、エディター6名、VFXアーティスト6名、そして映像ディレクター1名という陣容になる。

大槻氏はコネクションを「制作に関するあらゆる要素のハイブリッド」と表現。「仕事の流れを効率化し、シンプルなポストプロダクションから予算をかけた大掛かりなディレクションまで、あらゆる角度からプロジェクトを担っていけるようにするのが目的。実験的な工房のように新たな試みを行い、我々や業界にとって何がベストか、何が機能し、何が機能しないかといったことを追求していきます」。

同社は人材という視点から、エージェンシー的役割も志す。アーティストをはじめ、映像に関してクリエイティブなスキルを持つ人材、彼らがパーソナルブランドとして確立できるようサポートできる人材などをマネージングしていく。キーワードはあくまでも「アーティスト」。「日本ではポストプロダクションに関わるスタッフの芸術性が見落とされている」と大槻氏。

「彼らはむしろオペレーターと思われています。だが実際は、より強いメッセージを持っている。だから我々はアーティストと呼びます。クライアントも、単なるオペレーターを雇うようなことはしません。米国や英国、豪州などでは考え方が違う。アーティストにお金を払うのであって、作業室や機材に払うのではありません。我々は彼らにアーティストとして育って欲しいし、もっと敬意を払われるようサポートしたいのです」

CM作品は、エディターによって出来栄えが大きく変わる。広告代理店や広告主にそれを理解してもらうため、同氏は広告賞の共催やコンテストの開催にも関心があるという。「シンプルなオリジナル映像を土台にして、編集を競い合う賞があってもいい」。

コネクションと他の多くのプロダクションとの大きな違いは、経験を積んだディレクターの存在。柿本氏以外のディレクターは伊東玄己、丸山健志、TAKCOM(土屋貴史)、稲垣理美、田向潤、佐藤有一郎、ケビン・バオ、大澤健太郎の各氏。

日本の広告代理店は、プロジェクト管理や予算編成でディレクターよりもプロデューサーに依存しがちだ。こうしたプロセスは納得できない、と大槻氏。「ディレクターが誰になるかも分からないのに、予算の計上をプロデューサーに任せることはできません。プロジェクトのコーディネーションをするプロダクションマネージャーの経験は大抵5年ほど。それでは不十分なのです」。「プロデューサーをハブにしてコミュニケーションをとるのは非効率的。スキルに応じて権限を与えることがスタッフにとっては好ましいでしょう」。

「広告代理店のクリエイティブには、まず最初にディレクターを決めて欲しい。それからプロジェクトを練り上げれば、予算組みも多少変わってきます。プロデューサーを中心に据えるよりもクリエイティブの人間と直接コミュニケーションをとる −− そうした流れにしていきたいのです」

「一流ディレクターが制作会社に所属することは、残念ながら日本ではまだ一般的ではありません」。こう話すのは、ピュブリシスワン東京支社で制作トップを担うブレンダン・クラヴィッツ氏。米国では対照的に、「プリティーバード(Prettybird)」「キャビア(Caviar)」「ファーラインド(Furlined)」といった最も優れた制作会社の基本的スタイルだという。「制作会社は予算を見極めつつ、ディレクターやクリエイティブを全面的にサポートするのです」。

「こうした制作会社はブランドイメージや評価に直結するので、最終的な成果物に細心の注意を払う。コネクションのようなクリエイティブブティックのメリットは、こうした点にあります。彼らが日本のCM制作にどのような影響を及ぼすか、非常に興味深いですね」。

イノベーションの欠如で「個人」が台頭

「日本の広告代理店が自社の価値を再考し、環境の変化に適応しようとする一方、ほとんどの制作会社は仕事のやり方をまったく変えようとしていない」と大槻氏。「CM素材はマニュアル(プリントのフォーマット)からオンラインに変わりつつありますが、その対応もほとんどなされていません。これまでプリント業務で利益を上げてきた制作会社にとっては、大幅な収入減なのですが」。こうした変化は多くのプロデューサーにとって、会社との関係を保ちつつ「独自の道を歩むきっかけになるのでは」とも。

かつて、一流制作会社や広告代理店の社員が「安住」できる環境を捨てることは滅多になかった。だが今ではクリエイティブ意識の高い人々が離職するのは珍しくなく、「己のブランディングにより熱心」。広告界全般でフリーランサーが増えていることは、「業界が経験しなければならない通過点」だという。

ただし、フリーランサーが増えすぎると「若者にとっての学びの場が減ってしまう」という危惧も。「誰もがお金を稼げるようになるのは結構なことですが、若い人々の雇用をあまり考えていません」。結果として小さな組織や、個人がオフィスやアシスタントなどのリソースを分かち合う「共同体」が増えつつあるという。

「我々は、様々な制作プロセスがあることを示していきたい。広告代理店より下のレベルでは、様々な形があり得るということです」

これからも制作会社は、「ブランドから直接クリエイティブの委託を受ける」。だがブランドが「広告代理店を排除するようなことにはならないでしょう」。「大手広告代理店の規模は小さくなり、もっと効率的になる。変革が起きても、業界が心配しているほどの規模ではないと思います。我々はそれに対応していきますが、影響を受けるのは現在の業務の30%以下では」。コネクションは「極めてニュートラルな立場で、幅広い企業と協働していきます」。

では、日本でなかなか進まない広告送稿のオンライン化についてはどうか。「大きな期待はしていません。今ではポストプロダクションを担う多くの企業、更にクライアントレベルの企業でもオンライン化を進めています。だがこれら企業は対抗し合っている。大企業でビデオテープを作成していた部署は、送稿専門の子会社が取って代わります。ゆえにそうした大企業と仕事をすれば、その子会社経由で、ということになるでしょう。DVDとブルーレイのような見苦しい争いになるかもしれません。皆がまとまって1つの解決策を出せれば、より健全です」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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