Yuhei Hatano
2017年7月13日

デジタル動画広告元年における、「正解」の活用方法とは?

昨年から今年にかけ、何年にもわたって言われ続けてきた「デジタル動画元年」もいよいよ到来したように思われるが、実際の使われ方を見ると、まだまだ広告を出稿すること自体が目的化していることも事実だ。本稿では、現状での限界を踏まえた「正解」の活用方法を考える。

波田野雄平氏
波田野雄平氏

「どんな目的でも効く」は、特徴を理解できていないことと同じ。本当に使うべき場合は?

「リーチから刈り取りまで何にでも効く」。デジタル動画広告の販促を狙うプレイヤーから頻繁に耳にする言葉だ。さまざまな事例で有効性が示されているが、フォーマットとしての動画の特性と、ターゲット別に露出するクリエイティブを出し分けられるというデジタルの特性活用を、混同した説明が多いように感じる。

媒体社はなぜ動画フォーマットを推し進めたいのか。理由は単純、CPMが高くなるからだ。ターゲティングをかけた時点でCPMは高くできる。それに動画というフォーマットを使うことで、さらに高いCPMを得ることを期待できるのだ。

であれば、クライアントやマーケッターにとっては、二重の意味で高いCPMをかけてでもアプローチする価値がある場合にこそ、デジタル動画広告を使うべきだ。翻って考えると、ターゲット性が薄い場合や、他フォーマットが低CPMで出稿可能で成果も変わらない場合には、デジタル動画という手法は推奨されるものではない。特に昨今、前者の、ターゲット性が薄いにもかかわらず実施自体が目的化してしまい、デジタル動画が選択されるケースが増えているように思われる。

「ターゲットを考慮すると、テレビではなくデジタル動画で考えている」という相談をたびたび受ける。単純なリーチ観点で考えたとき、コア層に設定したユーザー群のターゲットCPM観点ではデジタルが優位なことが一義的な理由だ。

この時、二つの問題が頻繁に起きる。一つ目の問題は、商品の販売目標数から各ファネルの目標数を計算した結果、配信対象としなければならない周辺ターゲットへの配信量が多くなり、ターゲット含有率を加味しても、元のCPMが廉価なテレビの方が成果への期待値が高くなるというものだ。

デジタル動画広告の活用は、配信者全体のターゲットCPMが他メディアより下回り、また、テレビの持つ露出インパクトをデジタルのターゲット別のメッセージ出し分けが機能しそうな場合にこそ、行うべきである。具体的には、商品購入理由から読み解いたニッチなニーズ・悩み解決に応える場合や、そもそもの商品設計がピンポイントのターゲット向けにされているような場合が考えられる。

投資たるデジタル動画広告の出稿をする上で、見るべき指標は?

二つ目の問題は、リーチという指標の意味だ。「広告の接触によって、商品がどの程度売れ、利益がもたらされたかを見たい」というニーズが無いクライアントはいないだろう。他方このニーズに全量をもって完璧に答える方法が無いのも、また事実である。結果として、媒体側だけで把握でき提供しやすい再生数やクリック数、それぞれの単価をもってKPIとしている事象がまだまだ散見される。

では、サイト誘導が目的ではない動画の場合に、どのようにして事業成果を推し量るかといえば、量と質を掛け合わせてみるほかはない。

量はリーチであり、実際の視聴者数である(サイト誘導が目的でない以上、クリックにはなり得ない)。質は、来店や購買といった行動指標や、想起や特性理解といった心理指標が、動画広告の接触・非接触によってどう変化したかである。特に、短期でなく将来の行動をも目的とする動画フォーマットを用いる場合、中間に心理指標を設定することで、より継続的な改善をもたらし得るため、行動指標のみでなく、これらの指標も用いるのである。

先ほど、リーチが指標として適正かについて、問題提起をした。特にグローバルクライアントでは、国をまたいだ質の評価の難しさから、量の指標であるリーチそれ自体を目的化しているケースが見受けられる。事業成果との相関性が認められる場合においては否定はできないが、日本においては、媒体提供のものも含め、質を評価する調査が行いやすい環境にあることから、心理指標も含め、時系列的に見ることが推奨される。

デジタル動画広告のクリエイティブの制作は誰が行うべきか?

また、ユーザーが実際に接するクリエイティブは、必ずしもリーチという量の指標だけでは測れないものである。

デジタル広告は、その多くがスマートフォン上で接触され、またスマートフォンが他メディア以上にパーソナルな空間であることは言うまでもない。そのような空間の中で、ターゲティングの影響もあって、同一クライアントの広告に相当な回数、接触することが当たり前になっている。クリックはせずとも、意識し始めると、非常に気になるものだ。気になるものであるからこそ、それがブランドにとってポジティブなものであり、また、ブランドの方向性が間違って伝わらないようにしなければならない。

媒体によっては、その出稿上のアルゴリズムから、頻繁な広告差し替えを迫られる場合があるが、その掲出物全てに対しマーケターは、ブランドの観点から確認を行わなければならないのである。デジタル動画広告のクリエイティブにおいては、「2~3秒以内に結論」「音声の自動再生が無いのでテロップは必須」といった制作上のテクニックが過度に強調され、また、いかに安く複数パターンを作るかに注意が向き過ぎているように感じる。

ブランド価値というのは、蓄積が難しいからこそ扱いには十二分に気を付け、ブランドのコンテクストを理解した制作をしなければならないが、毎回異なる制作者にそれを期待するのは難しいのではないだろうか。デジタルならではのポイントをきちんと理解する、予算は事前に確保する、といった基本は押さえながら、ブランドと長く付き合える制作体制を構築することが必要なのではないだろうか。内製・外注を問わず、制作物全てにブランドが持つ共通の世界観を持たせられるディレクターなくしては、常に新しい媒体やメニューが現れるデジタル動画広告を活用し続けるのは困難であろう。

変化に対応しながらも、正しい指標を追って、共通した世界観を発信し続ける。これこそが真にブランドが求めるターゲットへの効果的なアプローチに寄与するものではないだろうか。

(文:波田野雄平(電通デジタル ソリューション企画部)   編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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