Brandon Doerrer
2023年12月07日

「ワッツアップ」活用、3つの課題

メタのメッセージングプラットフォーム「ワッツアップ(WhatsApp)」。マーケターはメタとはやや異なる視点で、その利点を見ているようだ。

「ワッツアップ」活用、3つの課題

20億人以上のユーザーを持つワッツアップは、世界でも有数の人気を誇るアプリだ。しかし米国ではiMessage(アップル)やメッセンジャーの人気に押され、ワッツアップのユーザーは9800万人と比較的少ない。それでもソーシャルメディアのマーケターは、このアプリにまだ秘められた可能性を見る。

先月初旬、ワッツアップ部門責任者のウィル・キャスカート氏はブラジルのメディアに対し、「業界が待望するアプリ内広告は、まだ実現可能だ」と語った。また、「広告はユーザーのインボックスではなく、(インスタグラムのストーリーズに相当する)ステータスに表示されるようになるだろう」とも。

だがそうなると、広告配信とプライバシー保護が両立するのかという課題が浮き上がる。ワッツアップの利点はメッセージがエンドツーエンドで暗号化され、プライバシーが確保されていること。広告主がユーザーのデータや私的メッセージにアクセスできるようになれば、それに反することになる。

キャスカート氏は、アプリ内広告がいつ実現するかについては明言しなかった。同氏はこの種の発言を5年以上も前から繰り返している。今回の発言も、額面通りに受け取るべきではないのかもしれない。

ヴェイナーメディアのEVP(エグゼクティブバイスプレジデント)兼投資部門責任者、ジョン・モーゲンスターン氏は、「メタからの(ワッツアップに関する)新しい情報は来ていません」と話す。「通常、プラットフォームが新しいことを始めるときは我々に向けて盛んにPRをする。メタはまだ何もアクションを起こしていません」

いずれにせよ、アプリ内広告が実現するまでメディアバイヤーは手をこまねいているわけではない。

ソーシャルメディアの専門家は、アプリ内広告の有無にかかわらず、ワッツアップは活用する価値があると指摘する。では、そのためにどのような点を留意すべきなのか。3つのポイントを挙げる。

メッセージングの潜在力

広告を配信する最適のスペースについて、ワッツアップと広告主とでは意見が異なる。ソーシャルメディア専門家は、ワッツアップの根幹であるメッセージングを活用することがユーザーにリーチする最善の手法と見る。

メッセージングは有料の広告インベントリには含まれない。だが、広告とは異なるやり方でアプローチが可能だ。

例えば、ブランドがコミュニティーをつくり、ユーザーを招き入れればディスコード(Discord)やレディット(Reddit)のように機能する。ユーザーと直接的に交流し、キャンペーンに関するフィードバックがリアルタイムで得られるのだ。

「ソーシャルメディアでは昨年、非常にニッチなコミュニティーやサブカルチャーへのアプローチとしてこの手法が注目された。ワッツアップは間違いなく新しいやり方です。キャンペーンの効果も長く持続する」。こう話すのはVMLY&Rのソーシャルメディア戦略ディレクター、グレース・ホリー氏だ。

だが、コミュニティーの維持には一連のモデレーション(投稿されたコンテンツのチェック)が必要になる。

「リスクもあります。ツーウェイコミュニケーションが一体どのようなものになるのか、予想が難しい。どのブランドもまだ積極的な導入には二の足を踏んでいます」

広告以外、「近道」はなし

企業がワッツアップに自社のアカウントを開設すれば、製品の販売やカスタマーサポートの提供ができる。だが、アプリ上でより存在感を発揮するにはコミュニティーの構築が欠かせない。言い換えれば、成果がすぐに出せる簡単な方法はないのだ。

TikTok(ティックトック)用に制作したショート動画は、手早くインスタグラムのリールやユーチューブショートに流用できる。同様に、X(旧ツイッター)への投稿はコピーアンドペーストでメタのスレッズに用いることができる。

ワッツアップはこれらのプラットフォームに比べ、よりプライバシーを重視する。ゆえにコミュニティーの構築と維持は容易ではない。特にニッチなもの、サブカルチャー向けのものはなおさらだろう。

ワッツアップは、アプリ内広告が実現するまでコミュニティーの活用には細心の注意を払うよう促している。

モーゲンスターン氏は、ステータス内の広告が遅れている理由として、「メッセージングでのAI活用をメタが優先しているからでしょう」と話す。

暗号化と広告は両立せず

ワッツアップのアプリ内広告が実現しても、広告主はターゲティング広告に苦労するはずだ。特に、直接的なメッセージが交わされるインボックスではなおさらだろう。

ワッツアップはユーザーのデータプライバシー保護のため、暗号化を実現して他のメッセージングサービスとの差別化を図った。広告主にユーザーのデータや私的メッセージへのアクセス権を与えてしまえば、この最大のセールスポイントに相反することになる。

「ワッツアップはプライバシー保護をうたって今のポジションを築いた。『あなたのチャットは完全に暗号化されています』とユーザーにうたうことは、『我々はあなたのチャットの内容を監視しないし、知る由もない』ということを意味します。しかしターゲティング広告を配信すれば、『本当は、あなたのチャットを少しだけ見ています』ということになってしまう」。こう話すのはマッキャンのチーフソーシャルマーケティングオフィサー、モニカ・テイラー氏だ。

「ユーザーが『どうしてチャットの内容がわかったのだろう』と疑問を持った途端、ブランドレピュテーションは傷ついてしまいます」

まずは、ステータス内での広告配信が可能になるのを待つ。そうすれば、「メッセージングなど他のスペースに広告が配信されるようになっても、ユーザーは自然に受け入れるでしょう」と同氏は説く。

(文:ブランドン・ドーラー 翻訳・編集:水野龍哉)

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