Campaign Staff
2018年8月03日

世界マーケティング短信:顧客体験を重視するアジア市場

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

中国・四川省で荷物を運ぶドローン。
中国・四川省で荷物を運ぶドローン。

顧客体験向上に注力するアジア太平洋地域

顧客体験(CX)向上のためのツール導入において、アジア太平洋地域が世界をリードしていることが、ベイン・アンド・カンパニーの調査で明らかになった。20ツールの使用について世界700社の経営幹部を対象に実施したこの調査によると、アジア太平洋地域の回答者の28%(世界平均は19%)が、過去5年間に少なくとも1つのツールを使用したことがあるという。またアジア太平洋地域の回答者の会社では、平均6つのツール(世界平均は5つ)を使用していた。

最も広く使われていたのは、予測分析、製品やオペレーションのセンサー、パーソナライズド・エクスペリエンスといった類のツールだった。配達用ドローンのような新しいツールは導入率が低いものの、これらのツールがもたらす利益や、潜在的な競争優位を感じさせることから満足度は高かった。パーソナライゼーションのためのツールは、今後3年間で大きく成長すると見込まれている。よりパーソナライズされた顧客体験の実現(70%)、一人ひとりに合わせた「One to One」な販売やマーケティング(63%)、意思決定を自動化するエンジンの導入(57%)などに関心が寄せられている。

顧客体験の重要さについて、多くの経営幹部があれほど多くの時間を割いて議論してきたことを鑑みると、CXツールの導入率は比較的低く、やや驚きだ。CXは今後間違いなく、ブランドの重要な差別化要因となるはずだ。とはいえ、ツールの導入によって何かが保証されるわけではない。顧客へのアプローチ姿勢こそが、ブランドを際立たせるのだから。

来年度の予算増を見込むCMO

電通イージス・ネットワーク(DAN)の調査によると、来年度の予算が増えると見込んでいるマーケターは6割に上るという。この調査では全世界のCMO(最高マーケティング責任者)1000名を対象に、アンケートを実施。見通しが楽観的なのはテクノロジー、金融サービス、ヘルスケア分野であった。テクノロジー分野のCMOの75%が予算増を見込んでおり、31%は5%以上の増額を見込んでいるという。

一方で、戦略遂行のために必要な長期投資を確保するのに苦労しているマーケターは48%、デジタルへの投資を管理できないと回答したマーケターは40%であった。自分たちの存在価値を証明し、予算と自律性を十分に確保することは、マーケターにとって常に課題。だがデータの使用がますます複雑になっているという事実も、この課題の解決に役立っていない様子だ。61%のマーケターは、リアルな顧客インサイトをデータから把握することが困難だと考えており、その背景にはデータ量の膨大さや、GDPRなどのデータ保護規制が挙げられる。

グーグル、中国政府の方針に従い批判が集まる

ブルームバーグが報じたところによると、グーグルは中国向けに検閲済みの検索エンジンを準備中だという。このプロジェクトは「ドラゴンフライ」というコードネームで呼ばれており、言論の自由を認めない中国政府に従うことが中国で成功する唯一の術であることを、米テック企業大手が認めた形になる。この動きにグーグル社員は怒っていると報じられているが、インターネットユーザー数が今なお急増中の巨大なマーケットに進出したいと同社が熱望するのも無理はない。株主からの要求と、理想との折り合いのつけ方は、上場しているメディアやテクノロジー会社にとって難しい問題なのかもしれない。

シンガポールの独立系エージェンシーの元トップ、WPPを提訴

2010年にWPPが買収、その後倒産したシンガポールのデジタルエージェンシー「ヨーク(Yolk)」の元社長が、WPPとグレイを相手どって訴訟を起こした。訴えの内容は、WPPがヨークを少数株主として不当に扱い、グレイのニルビク・シンCEOがヨークの資産とスタッフを収奪して「抜け殻にした」というもの。また、買収の際に合意した株式取得の最終分支払いも受けていないという。

買収劇が常にハッピーエンドとならぬのは世の常だが、WPPに「細心の配慮」があるという話はおよそ聞いたことがない。余談ながら、マーティン・ソレル卿は自身の新会社「S4キャピタル」が単一のP&L(損益計算書)の下、クライアントの意見を誠実に聞き、柔軟なアプローチをとっていくと述べているが、観測筋は疑問符を投げかける。

同氏に批判的なWPPの社員たちは、S4キャピタルの方針を冷笑。なぜなら、WPPのクライアントは「グループ企業を横並びにし、各々が利益を競い合う重荷から解放されるような構造改革を」とソレル氏に要請してきたが、同氏はそれを再三無視してきたからだ。頑迷な老人も、結局は新しいことを学べる(Old dogs can learn new tricks)ということなのか。

クリエイティブの人材発掘にひと役買う、新たなソーシャルメディア

TVドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で知られる英国人女優メイジー・ウィリアムズが、クリエイティブ業界を活性化させるソーシャルメディアをスタートさせた。「デイジー(Daisie)」と呼ばれるこのアプリは、様々なバックグラウンドを持つクリエイターたちが交流し、互いに学び合い、コラボレーションができる仕組み。同プラットフォームのコミュニケーションディレクター、リューベン・セルビー氏はCampaignに対し、「クリエイティブエージェンシーにとって新たな人材を発掘する効率的手段となるでしょう」とコメント。そのプロセスは多分に「運任せ」だが、仕事の分散化が常識となりつつある今、多様な人材をまとめるシステムは有用なだけでなく、必須のものだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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