David Blecken
2016年5月17日

「企業存続の危機に瀕することは、めったにない」~ 日産の新任CCOが語る

自動車メーカーによる排ガス不正問題が相次ぐ中、日産自動車が韓国環境省に告発された。同社のチーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)として就任したジョナサン・アダシェク氏は、今年初めの「PRWeek」のインタビューで「大企業では問題はよく起こるものだ」としつつ、会社の存続がかかるレベルの危機に陥ることはめったにないと話した。また、なぜ日産が「選挙キャンペーンの精神」を必要としているのかについても説明した。以下、同インタビューの日本語版をお届けする。

ジョナサン・アダシェク氏
ジョナサン・アダシェク氏

マイクロソフトと日産自動車は共にグローバルなハイテク企業だが、それ以外の共通点はあまりなさそうに見える。2009年にサイモン・スプロール氏が日産のコミュニケーション担当部門からマイクロソフトに転職した時も、「勝手が違い過ぎた」とわずか7カ月で戻ってしまったものだ。

だが、ジョナサン・アダシェク氏がマイクロソフトから日産に移籍した理由は違う。2015年9月にジェフ・クルマン氏の後任として現職に就いた同氏は、マイクロソフトでの業務には満足していたが「優秀な人たちが凄い仕事をしている」日産の環境と、同社の方向性を世界中に伝える機会に魅了された、と話す。

自動車業界にとっては新参者のアダシェク氏だが、ジョン・ケリー上院議員(当時)の大統領選挙キャンペーンやクリントン政権を支えるなど、その経験は多岐にわたる。特に記憶に残っているのは、東ティモール民主共和国の独立支援だという。

否定的な意見もあるかもしれないが、同士は、重要なのは深い専門知識よりも、効果的に情報を伝えられる能力だと話す。

「私はマイクロソフトに入社する前はテクノロジー産業にいたことがありませんが、優秀なコミュニケーターだったらどの業界でも通用します」と同氏。「例えば危機管理のエキスパートのような、専門性を持つメンバーを置くことはプラスになりますよね。私は日産で、コミュニケーション機能を向上するためのエキスパートを集めたチームを作ろうとしているのです」

オープンな意見交換を

日産自動車、ダットサントラック、インフィニティといったブランドを担当するアダシェク氏だが、就任してからの半年間は、業務の理解と人脈形成のために費やした。状況をきちんと把握するまでは、新規事業や変更の指示を行わない姿勢だ。

「入社してすぐ、現状分析にしっかり時間をかけることなく、変更ばかり実施すると必ず失敗します。ああしろこうしろと独裁体制を敷くことは簡単ですが、私のスタイルではありません。各分野の専門家が集結したチームが私の武器であり、全幅の信頼を置いています。でも、この考え方も、米国では理解されるからといって、ブラジルでも浸透するとはかぎりません」

ブランドにとっての効果的なコミュニケーションは、送り手と受け手双方を意識したものであり、そのためには社内のあらゆる階層と日ごろから意見交換を行うことが重要だ、という同氏の考え方は、多くの経営者が考慮すべき点だ。現場のことに細かく干渉するマイクロマネジメントではなく、他人の意見を聞き入れ、彼らが正しいと思うことについては裁量権を与えるという姿勢だ。

米国の政界出身ということもあり、アダシェク氏が必要と考える改善の根底には、「広い意味での選挙キャンペーン的な考え方」がある。業務の在り方が明確になるからだ。

日産のコミュニケーションとマーケティングの連携はうまく機能しているようだが、同氏はこの体制をより強化していく考えだ。「コミュニケーションとマーケティングは異なる機能ですが、私たちの業務に非常に近い位置にあります。CMOのルー・ドゥ・ブリースと私のオフィスが隣同士なのも偶然ではありません。重要なのは、コミュニケーションとマーケティングのアプローチを幅広く活用していけば、さらに多くのことを達成できるのだと、私たち全員が理解することです」

そのためには、スタッフが関心を持って参加することが大事だ。「当社のスタッフのやる気が十分になければ、キャンペーンは成功しません。自社スタッフが関心を持っていないのに、自分たちのことを理解しろと外の世界に求めるのは無理がありますよね」

価値があることの証明

アダシェク氏はKPIの側面においても、コミュニケーションがどのようにビジネス目標の達成に直接寄与できるかを模索している。エデルマンでウォルマートの事案に携わっていた際、「製品の売り上げにまったく貢献できないものに価値はない」という、シンプルだが大事なことを学んだ。「だからこそ、売り上げにつながるストーリーを伝えなければならないんです」とし、日産のグローバルメディアセンターの存在が重要になってくると語る。「2019年までに、インターネット上のコンテンツの90%が動画ベースになるといわれており、メディアセンターの重要性は計り知れません」

フォルクスワーゲンが排ガス不正問題で苦戦を強いられる中、同氏は存続危機にはならないと静観する。「そこまで大きな危機ではないと思います。もちろん問題は山積みでしょうが、存続の危機というほどではないでしょう。競合相手について言及しませんが、一般論として、事業全体に悪影響を与える問題の場合は、存続危機となりえるでしょう」

問題の対処には、第三者委員会の外部の視点が非常に重要だと同氏は強調する。「カギとなるのは対応の質です。“ノーコメント”は避けたほうがいいですね」

ケッチャム、ストラタコム、テネオ、エデルマンといった、協働しているコンサルタンシーに、アダシェク氏が求めているのは積極性、クリエイティブシンキング、そしてコラボレーション能力だ。しかし実際には、こういった資質を備えているところは希少だ。

「エージェンシー同士が協力し合わなければいけない場面というのはあります。忘れてはいけないのは、私たちは皆、日産の株主、顧客、従業員のために一緒に動いているということ。この点をしっかり理解できるかどうかが重要です。なかなか難しい時もあるのですが、逆にすごくうまくいったこともあります。最初からオープンな意見交換ができる状態だと、うまくいく気がしますね」

ジョナサン・アダシェク - 略歴

  • 2015年 日産自動車 チーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)に就任
  • 2012年 マイクロソフト SMSG 戦略・コミュニケーション担当ジェネラルマネージャー
  • 2005年 エデルマン エグゼクティブ・バイスプレジデント兼グローバル・クライアント・リレーションシップ・マネージャー
  • 2002年 米国大統領選挙 ジョン・ケリー候補 戦略ディレクター
  • 最初の車 - ホンダ アコード
  • 現在の車 - 日産 エルグランド

(編集:水野龍哉)

併せて読みたい 日産が排ガス不正を否定。韓国政府は課徴金を科す方針

 

提供:
Campaign Japan

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