Gideon Spanier
2020年4月09日

DANのグローバルCEOにDDB・クラーク氏

人選の決め手は、クライアントとエージェンシーの双方で経験を積んだウェンディー・クラーク氏の稀有なキャリアだった

ウェンディー・クラーク氏。電通グループの海外スタッフ、42,000人の指揮を執る
ウェンディー・クラーク氏。電通グループの海外スタッフ、42,000人の指揮を執る

DDB(オムニコムグループ)でグローバルCEOを務めるウェンディー・クラーク氏が、電通イージス・ネットワーク(DAN)のグローバルCEOに就任することが決まった。

DANは現在、メディアやCRM(顧客関係管理)、データなどの分野で専門性を高め、クリエイティビティーの拡充を図る。過去にコカ・コーラやAT&Tでシニアマーケターも歴任した同氏の起用は、画期的かつ「極めて重要な決定」(電通スポークスパーソン)だ。

同氏も、「DANのこれまでの優位性に今後はクリエイティビティーを加えることができる」とコメント。

入社後はDAN取締役会議長兼CEOのティム・アンドレー氏の下、国外に点在する電通グループ社員42,000人の指揮を執る。

クラーク氏は卓越したリーダーとして、すでに世界の広告業界で名を知られた存在だ。コカ・コーラ在籍中は電通のクライアントでもあった。

アンドレー氏がクラーク氏にグローバルCEOへの就任を打診したのは昨年のこと。クリエイティブ側とクライアント側、双方で働いたクラーク氏の経験が「相互補完となって素晴らしい結果を生む」と両者は話す。

アメリカン・エキスプレス、ディズニー、ゼネラルモーターズ、マイクロソフト、P&Gといったクライアントを持つDANは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以前から経営変革の必要性に迫られていた。昨年の収益は1.9%減少、12月には海外7市場における構造改革を発表した。

「この重要な時期にDANに加わることに、大変な名誉と大きな責任を感じています。世界で未曾有の変化が起きている今、ブランドや企業、消費者に向けて価値あるアイデアを提供することはこれまで以上に重要。それは確かな情報に基づいた、インサイトに富んだものでなければなりません」とクラーク氏。

転職が決まる過程では、多くの電通の人々と接触した。「皆とても勤勉で、知性に溢れ、思いやりがある。グループ全体の能力にも感銘を受けました」。

DANは近年、177件の買収を成立させた。最もよく知られる案件は、データマーケティング会社「マークル(Merkle)」の株式取得だ。「DANは過去数年、最新のマーケティングソリューションを実現するため、的確なアセットや人材、能力の獲得に資金を投じてきた。今後の市場の動向を考慮した場合、取るべくして取った戦略です」。

この9月には電通の執行役員にも就任する。「企業運営の面でも、日本と海外の差を縮めていきたい」。

クライアントとクリエイティブ

2019年1月にジェリー・ブルマン氏がDANのCEOを退任、その後任として取締役会議長も兼ねるアンドレー氏は、「我が社の意欲的なアジェンダをウェンディーと推進していくのが楽しみ」とコメント。

「今回の決定に関しては、電通は世界規模で徹底した人材の調査を行った。グローバルなクリエイティブエージェンシーで指導力を発揮しつつ、クライアント側企業で働いたこともある彼女の経験は候補者の中で突出していました」

「DANの今後10年の成長プランにとって、彼女の経験は非常に有意義。長年電通の優位性だった統合的ソリューションを生む力とクライアント重視の姿勢が、今後は鍵となるからです」

アンドレー氏は昨年7月、CampaignのインタビューでDANのクリエイティブ力を伸ばす必要性について語った。「クリエイティブエージェンシーは、クライアントのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)レベルに直接的なアクセスを持っていることが多い。その方がデータやメディアに限らず、より幅広いサービスを売り込めるのです」。

同氏は健康上の理由で2月から休職していたが、先週から「段階的復帰」を果たした。

DANではブルマン氏の辞任以来、離職者が相次いだ。ある観測筋は、「電通はクラーク氏が新たな優秀な人材を呼び寄せることに期待している」と話す。クラーク氏は前回の米大統領選の際、コカ・コーラを休職して、ヒラリー・クリントンの陣営でアドバイザーとして活動したキャリアも持つ。

「世界がこれまで経験したことがない難局に直面する時に、ウェンディーはDANに加わることになる」とアンドレー氏。

「彼女の強い指導力と幅広い経験は、必ずやDANのスタッフに大きな刺激を与え、クライアントのブランド力を高めてくれるでしょう。急速に変わるエコシステムの各パーツにも優位性を与えられる。我々が目指す統合的なグローバルソリューションを、より推進してくれるはずです」

伝統が生む「魅惑」

メディア・コングロマリットとしての電通の歴史は、1901年にまで遡る。

「電通には過去100年の間、イノベーションを怠らず、業界を牽引してきたという素晴らしいレガシーがある。その一助となることにとても大きな魅力を感じます」とクラーク氏。

「私はこれまで、素晴らしい伝統を持つブランドや企業で働く機会に恵まれてきた。その経験から学んだのは、偉大なブランドも企業も、過去と未来の足跡から大きな恩恵を受けるということです」。コカ・コーラやAT&Tも同じく19世紀の創業だ。

「電通が1世紀にわたるノウハウと経験を持っていることは、とても大きなアドバンテージ。それらが礎となり、ベンチマークとなって、会社の継続的な発展に寄与しています」

エージェンシーという存在の重要性については、楽観的に捉える。コカ・コーラ時代の7年間をはじめ、クライアントとしての立場をよく承知しているからだ。だが、「(エージェンシーが)古い働き方に固執している」と警鐘も忘れない。

DANへの転職が決まった際、同氏は山本敏博・電通グループ代表取締役執行役員に、「米国人女性が会社を牽引することに抵抗感はないか」と尋ねた。山本氏は、「あなたが選ばれた理由はあくまでもスキルセット、と答えてくれた。とても感銘を受けました」。

山本氏は以下のように話す。「DANと電通はクライアント並びに社員の恩恵を考え、さらなる一体化を目指している。今は我々の事業にとって、非常に重要な時期です」。

「『イノベーションは誰からも、どこからも生まれる』というのが我々の信条。クライアントの課題解決のため、常に新しい、より良い手段を見つけ出す −− ウェンディーもその情熱を我々と共有している。電通の世界のネットワークに、良い刺激を与えてくれるでしょう」

「グローバルマーケティングの経験も持つ彼女は、理想的なリーダーになれる。重要な点は、我々のワールドクラスの能力をクライアントのニーズに応じて整理し直せることです」

DDB時代、クラーク氏はマクドナルド専用の総合エージェンシー「We Are Unlimited」をシカゴで立ち上げた。食品会社マース(Mars)や英百貨店ジョン・ルイスといった大手ブランドとも協働。昨年のカンヌライオンズでDDBは広告エージェンシーとして2番目に多くの賞を受けたが、同氏の尽力があってこその結果だ。

現在は米ジョージア州アトランタに在住。今後はDANの本社があるロンドンをはじめ、ニューヨークなど世界各地に足を運ぶことになる。

父親は英国人で、母親は米国人。12歳まで英国で育ち、今も英国に多くの親類がいる。

2012年から19年5月までアダム&イブ/DDBのCEOを務め、DDB UKの運営を担ったジェームス・マーフィー氏はこのように話す。「グローバルエージェンシーの世界で、ウェンディーほど斬新でダイナミックなリーダーはそうそういない。クライアントとしての経験からメディアを熟知する、素晴らしいビジネスパーソンです」。

DDBは、オムニコムが新しい人選をするまで前グローバルCEOのチャック・ブライマー会長が暫定的に指揮を執る。

オムニコム会長兼CEOのジョン・レン氏はこのように話す。「今はクライアントも我が社も、新型コロナウイルスの影響で難局にある。そんな時期にウェンディーが去るのは残念ですが、チャックという極めて有能なリーダーが指揮を執る限り、DDBは安泰です」。

(文:ギデオン・スパニエ 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign UK

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