David Blecken
2019年6月14日

TikTok、「マーケティング新時代」を切り拓くか

動画共有アプリはオーディエンスを理解するだけでなく、共感を得ることが大切 −− 電通・前クリエイティブディレクターで今はTikTokを先導する鈴木瑛(あきら)氏がその戦略を語る。

鈴木瑛氏。バイトダンスの東京事務所にて
鈴木瑛氏。バイトダンスの東京事務所にて

日本で急成長を遂げるTikTok(ティックトック)。バイトダンス(Bytedance)傘下のこのプラットフォームはティーンエイジャーだけでなく、経験豊かな業界人をも惹きつける。電通のクリエイティブディレクターとして高い評価を受けていた鈴木瑛(あきら)氏は今年初め、バイトダンスに移る決断をした。

現在はXデザインセンターの責任者を務め、ブランドがTikTokを最大限活用できるようサポートする。TikTokは他の主要ソーシャルメディアとは反対に、比較的広告が目につかない。よってブランドの存在があるにもかかわらず、ユーザーフレンドリーというイメージが定着している。広告主はユーザーの楽しみを妨害してはならず、むしろ増幅させるべき −− そんな方針が底流にあるからだ。

このコンセプトは極めて理にかなっているが、オンラインプラットフォームではまだ珍しい。鈴木氏がバイトダンスに移ったのも、消費者のメディアとの接し方をより理解し、新たなマーケティングの開発で先陣を切りたいと考えたからだ。「バーティカル(特化型)メディアを本当に理解している人はまだいません。AISAS(注意→関心→検索→購買→情報共有を意味する消費者の購買行動プロセス)はALSAS(アルゴリズム→共感→購買→情報共有)にアップグレードされなければならない」。

「アルゴリズムは消費者が膨大なデータの意義を理解するために必要なのです」。つまりコンテンツを提供する側は、受け手側の視点で考えることが求められる。簡潔に言うなら、「TikTokをオーディエンスに共鳴できるメジャーなマーケティングツールにしたい」。

では、クオリティーが伴わないブランドコンテンツをTikTokはブロックするのだろうか(おそらく現在掲載されている広告の95%がそれに該当する)。「コンサルティングを行うことで、それぞれのブランドコンテンツを最適化していきます」。TikTokのオーディエンスに訴求する鍵は、自身もユーザーである独立系のクリエイターと協働することだという。

グリコによるオリジナル音楽とダンスの動きを入れたポッキーのキャンペーンでは、ポッキーを食べる真似をする人々の動画が殺到した。このコンテンツは決して多くの意図を含んでいるわけではなく、積極的にポッキーを売り込むわけでもない。「『だから何?』という内容ですが、楽しいブランドというイメージを作り出しています」。

「消費者のニーズや需要に対し、マーケターは往々にして自らの希望や思いつきで応えてしまう」。さまざまな欠点を探し出すのも旧式のアプローチと考える。「これからは楽しいものを提供する、という視点を大切にしていきたい」。

電通時代、視覚障がい者向けの選挙情報サイト「聞こえる選挙」を開発した同氏の発言としては意外だが、TikTokの軽やかな世界ではこうした思考が合うのだろう。コンテンツはたとえユーモアが欠けていても、エンターテインメント性を帯びていなければならない。多くのコンテンツは商品ではなく、ブランドに焦点を当てる。最近ロレアルが行った傘下のブランド「メイベリン」のキャンペーンは一見ユーザーが作ったコンテンツのようだが、もちろん純粋な広告。それでも「ブランド認知度は80%、好感度は48%アップした」という。

観測筋が指摘するように、TikTokはテレビで放映されているコンテンツの補足手段にもなり得る。もしプラットフォーム上の多様なコンテンツに共通のスレッドがあるなら、ユーザーは緩やかなルールの受け入れを厭わないだろう。そうなれば誰彼構わず、いかに創造的な発想をし、プロフェッショナルに具現化するかが焦点となる。

一方で日常生活や旅、スポーツ、簡単なマニュアルに関する投稿も増加傾向にある。「広告主はこうしたユーザー行動のトレンドにまだ対応できていません」。これはユーチューブ上でよく見られる猫などの動画を指すわけではない。「たとえペットの動画であっても、投稿者はそれにちょっと変わった味つけをする。ただ『可愛い』だけではなく、付加価値が必要なのです」。

こうしたコンテンツを作るにはある種のスキルが求められる。「コンテンツの『民主化』という、大きな流れを代表するソーシャルメディアがTikTokです」。レコメンデーションシステムが基盤となったフォーマットでは、他のユーザーの関心を得るためにインフルエンサーである必要はない。「他のソーシャルプラットフォームではコンテンツのクオリティーの高さが再生回数に反映されるわけではない。優れたコンテンツでも、フォロワーが少なければ見てもらえませんから」。

TikTokはこの4月、新人ミュージシャンをサポートする「スポットライト」というプロジェクトを始めた。オリジナルの楽曲を募集し、審査を通過した者を音楽レーベルに紹介する取り組みだ。

理屈の上では、誰が作ろうと優れたコンテンツはきちんと見返りを得る。ブランドにも同じ論理が当てはまるだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

Premium
世界マーケティング短信: 電通、1月から「電通グループ」に社名変更
Premium
3 日前

世界マーケティング短信: 電通、1月から「電通グループ」に社名変更

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

Premium
クリエイターに、ECDより高い報酬を払ってみては?
Premium
3 日前

クリエイターに、ECDより高い報酬を払ってみては?

非常に優秀だが昇進には関心がないというクリエイターを、なぜ不利な立場に置くのか?

Premium
変わるインフルエンサーマーケティング
Premium
3 日前

変わるインフルエンサーマーケティング

インフルエンサー効果を把握するため、エージェンシーやブランドが利用する測定基準。実は、目的にかなっているわけではない。

Premium
「日本で最も価値あるブランド」はトヨタ
Premium
2019年11月12日

「日本で最も価値あるブランド」はトヨタ

WPPと調査会社カンターが、初めて日本ブランドの価値ランキングを発表した。ブランドパーパス(存在意義)とイノベーションを評価する一方で、エクイティ(資産)のギャップも指摘する。