David Blecken Jenny Chan
2016年6月30日

カンヌライオンズ2016 ~ 日本勢の活躍と、「社会的善」という課題

6月18日から25日にかけて開催された、2016年の「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」。アジア・太平洋地域から参加した国々は輝かしい成績を収めたとは言えないが、日本勢の健闘は称賛に値した。新たな議論も呼んだ、今年の大会を振り返る。

「Life is electric」
「Life is electric」

大会を通じ、日本は計46の賞を獲得した。これは昨年よりも18多く、アジア・太平洋地域では70の賞を受けたオーストラリア、57のニュージーランドに次いで3番目の成績。アジアの2大マーケットである中国は9、インドは27とやや残念な結果に終わった。

フィルム部門の新たな可能性

大会前から話題を呼び、下馬評の高かった資生堂の「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」は審査員から高い評価を受け、フィルム部門とフィルムクラフト部門で金賞を獲得した。

この作品を手がけたのは、制作会社のワッツオブトーキョー(Watts of Tokyo)。同社はクリエイティビティーが広告代理店だけの専売特許ではないことを、あらためて証明した。
また、クライアント側のPRに対する考え方や、メディアの賢明な活用法についても好例を示したと言える。テレビ広告ではなくオンライン・ビデオにしたことで、細部までストーリー性を盛り込んだメッセージの伝播を可能とし、さらにはそれが話題を呼んでテレビでも繰り返し取り上げられた。膨大な予算をかけることなく、テレビでの効果的な露出を実現させたのである。

このようにブランドと制作会社、独立系ディレクターが直接手を組む作品はまだ珍しいが、企業はオンライン・コンテンツの可能性に目覚め、自社のクリエイティブ・チームにあらためて予算を使うようになってきているようだ。今後、このような作品はさらに増えていくだろう。

ニットーとギークピクチュアズが手がけたLED照明「Ocedel(オセデル)」の「Firefly Man(ホタル男)」は、フィルム部門で金賞、フィルムクラフト部門で銅賞を受賞した。AOI Pro.のチーフ・クリエイティブ・コーディネーター、ジュリー・トーマス氏も先ごろの
Campaignのインタビューの中で、この作品を「見るたびに新しい発見がある」と評している。

新設されたエンターテインメント部門では、日本は「台湾経由」でさらなる成果を上げた。ADK台湾が手がけ、金賞を獲得した統一企業公司(Uni-President)の「House of Little Moments(小時光麺館)」は、人生の悲喜こもごもをラーメンのレシピで表現した心に沁み入るようなシリーズ作品。グランプリを受賞したのは、ロサンゼルスのVRSE.WORKSが制作したニューヨーク・タイムズのバーチャルリアリティ・プロジェクト「The Displaced(強制退去)」だった。

音楽部門は、ビヨンセの圧勝。日本勢は精彩を欠いたが、アジアで健闘したのはBBDOバンコクが手がけたLMG保険の「Safe and Sound Music Player(安全・安心な音楽プレイヤー)」。携帯プレイヤーで音楽を聞きながら歩いていると、周囲への集中力が低下して交通事故に遭いやすくなる。こうした事故を少しでも減らそうという目的で制作されたものだ。

サイバー部門とモバイル部門では、高度なテクノロジーを誇る日本勢の活躍を期待した人が多かったかもしれない。だが、両部門でアジア・太平洋諸国は苦戦し、金賞はサイバー部門で3つ(米国は13)、モバイル部門では1つ(DDBシドニーが受賞)にとどまった。TBWA\HAKUHODOによるオーストラリア政府観光局の「Giga Selfie(ギガセルフィー)」がサイバー部門の3つの金賞の1つを、モバイル部門で銅賞を獲得した。

メディア部門では日本は上位に食い込むことができなかったが、他のアジア・太平洋諸国は健闘した。中国、オーストラリア、タイ、ニュージーランドが金賞を獲得し、グランプリはY&Rニュージーランドが手がけたバーガーキングの「McWhopper(マックワッパー)」に。このキャンペーンは国連の国際平和デーを記念するハンバーガーを、バーガーキングがマクドナルドに共同で作ろうと呼びかける大胆なもの。予想通りマクドナルドはこれに応じず、結果的にバーガーキングの方がはるかに進歩的なブランドであることをアピールした。

電通イージス・ネットワークCEOのニック・ウォーターズ氏はCampaignへの寄稿で、この作品を「大手ブランドが迅速かつ大胆に、しかもずうずうしく、自社ブランドより大きな競争相手に仕掛けた見事なキャンペーン」と絶賛している。
その優れた点は、「もっと作り込みたいという欲求を抑えていて、アイデアも明瞭、やり方もシンプルです。そして最も評価すべきところは、行動の大胆さ」と述べている。

PR部門では、電通が手がけた2作品、日清の「10 Minute Noodle(10分どん兵衛)」とトヨタの「Open Road Project(オープンロードプロジェクト)」が銅賞を獲得した。この部門で日本勢はあまり目立たなかったが、審査員を務めたオグルヴィPRアジア・パシフィックの社長兼CEOであるスコット・クロニック氏は、エントリー作品の中でも日産の「Knock Knock Cats(猫バンバン)」は受賞こそ逃したものの、「日本のマーケットに対する深い洞察力がある」と評価した。その一方で、アジアの作品は「全体的にもっとユーモアを使ったメッセージがあってもよかった」とし、他の審査員も同様の意見だったと述べた。

未来を見据えるデザイン部門の受賞作品

日本勢がデザイン部門で力を発揮したのは驚くまでもないが、全111の賞のうちグランプリ1つと17の賞を獲得した。グランプリは電通によるパナソニックの「Life is electric(ライフ・イズ・エレクトリック)」。他に注目を集めたのは、成田国際空港第3ターミナルに陸上トラック的要素を取り入れたPARTYの発想、魅力を引き出すのは一見不可能に思えるマスキングテープを題材にした、イヤマデザインが制作したカモ井加工紙の「MT EX」、一流の外科医になる可能性をもった医学生を見出す採用プロセスを再考した、TBWA HAKUHODOが手がけた倉敷中央病院の「Surgeon Tryouts(研修医実技トライアウト)」など。

「Surgeon Tryouts」

審査員を務めた北京のブランド・コンサルティング会社創業者であるシェン・イーウェン氏は、日本のデザインは「世界最強」と評価する。同氏は、「日本の最も優れたデザインは、企業の壮大なビジョンの中に埋め込まれています。製品を売ることや、キャンペーンの結果といった目標を超えたところに目線を向けている」と語る。

こうしたアプローチには賛否両論があるだろうが、他の多くの国々と比べてより長期的視点をもち、より忍耐強いという日本の文化的特徴が表れていると言えようか。シェン氏曰く、電通の審査員はグランプリを獲得したパナソニックの作品に関してこう語ったという。
「人々の考え方や行動、電気やエネルギーに対する概念を変えていこうという作品です。こうした変化は、パナソニックの製品の購入には直接繋がらないかもしれない。しかし、もっと先の未来を見据えています」
「日本のデザインは現在ではなく、確実に将来を見ています」とシェン氏は感嘆する。

「社会的善」は是か非か

毎年恒例ではあるが、今年もカンヌライオンズでは大きな議論が巻き起こった。参加者からは、近年は「大義を掲げた」、つまりブランドに社会問題を絡めた作品が溢れていることに批判の声が上がった。
その理由の一つに挙げられるのが、それらに対する「倦怠感」だ。そうした作品は確かに社会に積極的な貢献をするかもしれないが、とどのつまり、価値あるものがすべて「深刻」でなくてもよいのではなかろうか。多くの人が、広告にはもっと軽やかでユーモラスな作品があってもよいと考えている。

こうした傾向を後押しするのは、社会問題を解決するかのような実効性のない「慈善的作品」が、皮肉にも審査員の心を掴んで賞を受けてしまうことだ。
グレイ・シンガポールの「I Sea(アイ・シー)」は、海を漂流する移民たちを見つけて救援するのに役立つアプリという触れ込みだったが、ノミネート自体が批判された。このアプリは銅賞を受賞したが、グレイがブランドのためではなく、自社の慈善事業部門であるグレイ・フォー・グッドのために制作したアプリだったからだ。しかも「I Sea」はほとんど機能しないというユーザーからの苦情で、アップルはアップストアからこのアプリを排除した。グレイはこれに対し、「アプリはまだテスト段階で、解決すべき人工衛星の問題がある」とコメントしている。

カンヌライオンズはグレイの賞をまだ剥奪していないが、テリー・サヴェージ会長はこの事案を調査する予定だという。
ニューヨークを拠点とする広告代理店KBSのグローバルCEO、ガイ・ヘイウッド氏は「詐欺まがいの作品を振るい落とす対策を強化して、慈善的作品と商業的作品を分けて評価するべき」と語る。

「児童労働に反対するキャンペーンと洗剤のキャンペーンを比べても、リンゴとミカンを比較するようなもの。もっと早くからこれらを分けて考えるべきだったのです。作品のマーケティング費用を公開するのも一案でしょう。私はクリエイティブ・エフェクティブネス部門のグランプリが最も価値があると考えていますが、この賞はふさわしい評価を受けていません。もっとも、作品がどれだけ効果があったか証明するのは都合が悪いでしょうが……」
因みにこの部門では日本勢の受賞はなく、グランプリはDDBロンドンが手がけた百貨店、ジョン・ルイスのキャンペーン「Monty’s Christmas(モンティのクリスマス)」が獲得した。

今大会では、審査の対象外のところでいくつかの不適切な行為も見られた。ヴェイナーメディア(VaynerMedia)が主催したパーティーの招待状には「魅力的なオンナ限定」と記され、サーチ・アンド・サーチの元クリエイティブ・ディレクターであったボブ・イシャーウッド氏は「イスラム国」(IS)の兵士に扮装した役者に誘拐されるという、奇をてらった演出をアピールした。
これらは紛れもなく不快な出来事だが、グレイのアプリが偽物だと判明すれば、より重大な不祥事となることは間違いない。

( 文:デイビッド・ブレッケン、ジェニー・チャン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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