Barry Lustig
2019年3月12日

リストラと闘うために

「今の仕事を失うかもしれない」……もしあなたがそんな不安をお持ちなら、自分自身の価値を高めればいい。会社にとってのメリットを示すことこそ、サバイバルへの道だ。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

多くの大手広告代理店グループがクライアントや株主によって「手術」を強要される近頃の状況は、決して不可思議ではない。マージンや予算は縮小し、クライアントからは新たな能力を求められ、統合・整理で数多くの無駄が露呈する広告代理店。この数か月で仕事を失った友人がいないという人は、あなたの回りにほとんどいないだろう。

ほぼ全ての人々は、キャリアパスのどこかでレイオフやリストラを経験する。この事実を率直に認める人はほとんどいないのだが。あなたの上司もまたその上司も、過去に職を追われたことがあると断言してもいい。

レイオフは極めて個人的な出来事だが、仕事を失う理由はたとえ不明瞭であっても決して個人的なものではない。経営陣が退屈な「ライトサイジング(社員のレイオフやリストラ)」を説こうとも、大手広告代理店は「メス」ではなく「なた」を使って社員を切ってしまうのだ。

広告代理店の大量解雇は数年以内に切りがつくだろう。そして生き残った者たち −− 社員同様、企業も −− は「筋肉質」となって競争力を身につける。これはまた別の話になってしまうが。

業界のベテランにとって、プロのマネージャー(その存在の是非にかかわらず)でいる日々は終わりを告げた。リストラはあなただけの問題ではない。働きやすいはずのオープンプランオフィスに居心地の悪さを感じている社員を尻目に、ガラス張りのオフィスに悠々と座っているエグゼクティブとて同じことだ。広告やメディアに生きる我々にとって、自分たちの価値は結局スキルでしかない −− これが厳然たる事実だろう。

自ら仕事をこなす

もしあなたがまだ雇われの身で、人事部や上司からの呼び出しにビクビクしているのなら、今のポジションをもう一度見直すタイミングだ。

プランニングの責任者なら、他のスタッフの仕事振りをソーシャルメディアに投稿するのはやめ、外の世界に目を向けるべきだろう。クリエイティブのためにデータ分析の結果が説明できても、自分自身でデータ分析ができなかったり、より悪いことに数字自体が理解できないのであれば、直ちに自分を変えるべきなのだ。

エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ECD)かコピーライティングの責任者であれば、自分のスタッフと同じように積極的かつ淀みなくコピーを書くべきだろう。どんな小さな仕事であっても決して見逃すべきではない。

そして、どうしたら定量的な消費者インサイトをもっと取り入れられるか真剣に考えるべきだ。この考え方をどう思おうが、あなたがジョン・へガティー(BBH創業者)でない限り、要領の悪い人々(皮肉を込めて言うわけではない)と密に仕事をしなければならなくなる可能性がある。やがてそれらの人々は、あなた(、そして皆)の上司になるかもしれないのだ。だからこそ、巧みに仕事をこなすことが肝心だ。

私の言っていることをわかっていただけるだろうか。

社会人向け講座を活用する

幸運にも、今は一流大学が幅広いオンライン講座を開催している。どれも受講料が手頃で、信頼し得るものだ。デジタル戦略、ソーシャルメディアマーケティング、データ分析……テーマは実に幅広い。例えばこのようなものがあるので、チェックしてみてはいかがだろう。https://www.coursera.org/

スキル向上のために実際に講座を受ける(これには宿題やクラスディスカッション、資料の閲読などが課せられる)利点に関しては、説明不要だろう。つまりそれは今の地位を維持するためだけではなく、プロとしての生存を賭けることなのだ。

新たなテーマを探すならば、自分の能力を無駄なく発揮できるように知識とスキルが応用できる分野を選ぶのが賢明だろう。面接官に漠然と「コンサルティングをやっています」などと言えば、相手は目を白黒させてしまうだけだ。

もしあなたが既にレイオフされていたり、それを恐れているのなら、学校の同級生などと異分野について語り合ってみるのも一案だ。新しいアイデアは向上心や適応力を刺激してくれるだけでなく、沈んだ気持ちや仕事のスランプを振り切る助けにもなる(こちらの方がより重要かもしれない)。

こうして私が書いてきたことに、「何を当たり前のことを言っているんだ」と思う方もおられよう。だが、次の点を挙げれば驚く方が多いのではないか。CEOの次に位置するマネージャーのほとんどが、自分が主導してきた分野の基礎的スキルすら持たずに次の仕事を探しているのだ。言い換えれば、職を失うかもしれないと恐れている人々の何人が、競争力をつけるために新たなスキルの取得や向上を考えているだろうか。

あなたの回りにいる信頼の置けるヘッドハンターに尋ねてみるといい。きっとこうした状況を話してくれるだろう。

長く働ける安定した仕事を見つけるには、「味つけ」よりも「実」が大切なのだ。もう一度考えてみるといい。チームにインスピレーションを与えてきちんと管理し、アイデアを具現化し、効率的に仕事を進める自分の能力は、現場で実践する力(と意志)がなくても新たなリーダーより魅力的かどうか。

テック企業が徐々に業界に参入してきた間、広告代理店が高を括って何も努力をしなかったことは非難されるべきだろう。だが公平に言えば、あなたが競争力を維持するためにスキルを磨く努力をしなかったとしても、それは広告代理店の責任ではない。

当たり前すぎる言い方をすれば、失業の恐れや痛みを和らげるための最善策は、現在の仕事でもっと能力を発揮できるよう惜しみない努力をすることだ。

もしあなたが他のポジションに円滑に移ることになっていても、急速な異動は長く生き残るための対策により大きく、不愉快な問題を投げかけるだろう。遅かれ早かれ、自分の基本的な弱さは克服せねばならないのだ。

あなたが聡明かつ才能豊かで、知的な機転が利くのなら(いつもそう言っている人間に限ってそうではない)、それは充実した仕事をする前例のない機会となるはずだ。もちろん、人間的にいち早く進歩できることと同様に。

プライドを飲み込んだとき、あなたを気にかけてくれる人々はあなたの支えとなってくれるだろう。利害関係が個人的なときこそ、重要なのはこういった人々だ。

あなたが仕事への不安から眠れなくても、期待される希望の星であっても、今はこれまで以上に時間を無駄にしてはいけないときなのだ。

(文:バリー・ラスティグ 翻訳・編集:水野龍哉)

バリー・ラスティグは東京を拠点とするビジネス及びエグゼクティブサーチ戦略コンサルティング会社、コーモラント・グループのマネージングパートナーを務める。

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