David Blecken
2019年6月21日

世界マーケティング短信:カンヌライオンズ2019

今年のカンヌライオンズで特に印象的だった話題を、5本お届けする。

世界マーケティング短信:カンヌライオンズ2019

記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

今年のカンヌライオンズは例年よりも、やや控えめな印象だ。自画自賛は少なめで、社会の変化やその影響についての意見が多く聞かれた。

情報を見逃すことの喜び: スマートフォン依存への関心が社会一般で高まっていることを反映し、会場ではソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える負の影響が繰り返し話題に上った。特に写真家のジョン・ランキン氏は、自身が「無限のブラックホール」と化したインスタグラムのようなプラットフォームを「SNS断ち」し、これがクリエイティビティーの再発見にいかに役立ったかを詳細に語った。同氏は現在、「見逃すことの喜び(joy of missing out)」を謳歌しており、孤独ではないという。

大量消費社会への反省: 日ごろから消費者にいかにモノを買ってもらうかを仕事にしている人たちが、所有物を少なくする独自のメソッドを提唱する近藤麻理恵氏の話を聞こうと会場に押し寄せたというのは、なんとも皮肉だ。だが、よりシンプルでサステナブルにという要望の高まりは、マーケターにとって無視できない。本当に良い商品を数少なく、そして本当に良い広告を数少なく、というのが未来の消費者カルチャーの特徴となるだろう。希望的観測に過ぎないが…。

「煙のない社会を」: フィリップ モリス インターナショナルが、今年もカンヌライオンズに戻ってきた。今回の打ち出し方は、とてもミニマルなもの。IQOS(まだ危険性は否定できないと思われる)を市場に売り込むため、クリエイティブ業界に訴求するという試みだが、その訴求方法は非常に慎ましく、かえってアグレッシブともいえるほど。ブランディングも、強引な売り込みも無く、人が立ち寄って会話できる大きなラウンジが用意されていたのみだったのだ。「煙のない社会を実現するためのアイデアをどれだけ多くの人が持ってくるかで、成功か否かを判断します」とヤツェク・オルチャックCOOはCampaignに語ったが、これは皮肉を込めたコメントではないだろう。昨今は銀行や自動車などさまざまな業種で、あたかも従来からの本業(それもどういうわけか近年あまり望ましくないものとして映るようになった)とは全く別の事業のように訴求するポジショニングの例は数多くみられ、これもその一例といえる。

偽善的なブランドパーパス訴求広告の惨状: 世の中を良い方向に変えると約束しながら、実際のアクションには何らつながっていないキャンペーンが増えており、これが広告業に損失を与えていると、ユニリーバのアラン・ジョープCEOは指摘。社会に貢献すると謳いながらも実際には何も変わらないようなブリーフは拒否するよう、エージェンシーに求めた。社会問題に取り組むかのように装う「woke-washing」は、環境配慮をしているように装うグリーンウォッシング(greenwashing)に相応すると考えられる。エージェンシーがそのようなブリーフを拒否できるのかは、正直なところ懐疑的だ。特にその案件で賞を獲得できる見込みがあるような場合には、難しいといわざるを得ない(審査員ももっと厳格に審査するべきではあるが)。それでも、それだけの根性があってほしいと望んでやまない。

ステップアップするCMOたち: 今年のカンヌライオンズで見られた前向きな変化といえば、CMO(最高マーケティング責任者)たちが積極的に参加するようになったことだろう。つまりカンヌライオンズは、広告エージェンシーのための祭典としての意味合いが薄まっていることを意味しており、それは決して悪い兆候ではない。「5年前は、CMOたちはエージェンシーの費用負担でカンヌに招かれていました。そしてほとんどの時間を、エージェンシーの人たちと過ごすか、ミーティングに参加していたものでした」と、カンヌライオンズのチェアマンであるフィリップ・トーマス氏は振り返る。「でも今は全く違います。CMOは自分たちのお金で、大人数を引き連れて来場し、そして会場内で過ごしています」

世界最大級の広告・クリエイティブの祭典にマーケターが興味を持つまでに、これほど長くかかったことは奇妙にも思えるが、これまでおそらくエージェンシーの圧倒的な存在感が阻んできたのだろう。テック企業やコンサルティングファームといった新しいプレーヤーが徐々に参入してきたことで、マーケターたちも居心地が良くなったのではとみられる。結局のところ、多様性が多様性を生み出すのである。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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