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2018年12月20日

世界マーケティング短信:ソーシャルメディアの傑作

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

コリン・キャパニック選手を起用したナイキの広告は、社会的大義を扱って世の中に強い影響を与えた、数少ない広告の一つだった
コリン・キャパニック選手を起用したナイキの広告は、社会的大義を扱って世の中に強い影響を与えた、数少ない広告の一つだった

電通イージス・ネットワークのAPAC新リーダー

電通イージス・ネットワーク(DAN)のアジアパシフィックCEOを10年近く務めたニック・ウォータース氏が英国に戻ることとなり、後任の日比野貴樹氏が1月から就任する。ウォータース氏は引き続きDANで役員を務める。日比野氏は新しい役職でとる戦略について何も明かしていないが、同社の地域事業は良好であるため、今後も同様の状況が続くと期待できる。アジア太平洋地域は1-9月の間に、2%強のオーガニック成長を達成。一つ確実に言えるのは、電通に35年間在籍してきた日比野氏にとって、本社とのやりとりは、ウォータース氏よりもはるかに容易だろう、ということだ。

日比野貴樹氏

テレビCMはおかげさまで好調

マーケティングインテリジェンス会社「WARC」の予測によると、主要な12市場(米国、英国、日本、中国、インド、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、カナダ、ブラジル、豪州)で、ディスプレイ広告費の約42%(140億ドル)をリニアテレビ(従来型のテレビ)が占めているという。これは2017年と比較すると1%増加しており、モバイルよりも25%も高い。

不動の地位を築いていたテレビだったが、それもここ10年ほどの間で揺るがされているのは確実だ。それでもWARCによると、テレビの視聴時間は減少傾向にあるものの、広告主からの需要は減っていないという。主要市場で95%の生活者に届けることができるためだ。また英国では、広告によって生み出された利益のうち71%がテレビ広告によるものだとも指摘している。

この分野の最先端は、スマートテレビなど個人情報を特定できるテクノロジーだが、これが特効薬となることは、まずないだろう。企業による個人情報の誤用や乱用が原因だ。米国の生活者の6割以上が、自分との関連性が高い広告を受け取るのと引き換えに、個人情報を提供することを好ましくないと回答している。

「成功するまで騙し続けろ」

インフルエンサーマーケティングにおける不正行為は今年の大きな話題だったが、たいていは偽フォロワーやスポンサーの存在の不透明性についてだった。そして今、新たに奇妙な現象が起きている。米「アトランティック(The Atlantic)」誌によると、著名とは言えない“スター”が、ブランドのスポンサーシップを受けているかのようなコンテンツを投稿し始めたというのだ。首を傾げざるを得ないが、よく考えればこの行為にもロジックはある。その目的は、自分にブランドからの需要があるように見せかけ、実際のスポンサーを惹きつけるため。ではやがて、正規のスポンサーがいるインフルエンサーたちはブランドとの契約書のスクリーンショットも載せるようになるのだろうか? 2019年はあり得ないことなどないのだ。いずれにせよ、インフルエンサーに対する監視が強化されることだけは間違いない。

2018年にツイッターで生活者の心をとらえたのは?

ツイッター社(米国)が昨年に引き続き今年も、ツイッター上で注目されたブランドをさまざまなカテゴリーに分けて選定した。戦略的かつ一貫した姿勢で「真実性があって楽しく、洒落っ気もある」発信をし続けてきたブランドアカウントに贈られる、「ベスト・ブランド・ボイス」を獲得したのはKFC。笑えるツイートで話題になったブランドにはウェンディーズ、6秒動画のフォーマットを最もよく活用できたブランドにはタイド(洗濯洗剤ブランド)が選ばれた。社会的課題を扱い、誠実かつ信頼性の高い手法で文化へと昇華させた「ベスト・ブランド・パーパス」は、コリン・キャパニック選手を起用したナイキに贈られた。生活者との関係構築において最も効果的にツイッターを活用したCEOに選ばれたのは、アップル社のティム・クックCEO。(逆に失敗例を体現したトップとして、我々はテスラ社のイーロン・マスク氏を推したい)

ツイッター社は日本のブランドについても発表。「もっとも使われたアカウント」は(1位から順に)ローソン、アサヒビール、AbemaTV、マクドナルド、セブン-イレブン。また「もっとも使われたハッシュタグ」には、ローソン(こちらでも選出)、コカ・コーラ社(ジョージア、アクエリアスなど10件中6つを獲得)などが選ばれている。

ユーチューブで最も視聴された広告

キャパニック選手を起用したナイキ「クレイジーな夢を(Dream Crazy)」は、視聴回数が多かった動画としてユーチューブでもランクイン(再生回数は2700万ビュー以上)。だが1位に選ばれたのは、再生回数が5000万ビューを超えたアマゾンの「アレクサ、声をなくす(Alexa Loses Her Voice)」であった。1~10位は以下の通り(ウォール・ストリート・ジャーナルより)。

1. Alexa Loses Her Voice(アマゾン)
2. Open the World of Music (ユーチューブミュージック)
3. Real Support Makes Real Hero (欧珀(Oppo))
4. Dream Crazy (ナイキ)
5. Safety Video With Lego Movie Characters (トルコ航空)
6. Who Wouldn’t (グルーポン)
7. Moving On (サムスン電子 Galaxy)
8. Welcome Home (アップル)
9. Heart of a Lio(ゲータレード)
10. Rescue Blue the Dinosaur (レゴジュラシックワールド)

ユーチューブはまた、同プラットフォーム上で話題になった動画などをまとめた、毎年恒例の「Rewind」を今年も制作。だがこの動画がユーチューブ史上、最も低い評価なのだ。米ファストカンパニー誌の記事が引用した、ある人気ユーチューバーのコメントによると、今年のRewindは広告主を引きつけようという意図が明らかで、あまりにもきれいにまとめ過ぎているとのこと。ブランドセーフティーの議論が続く中で、今回のように注意深くなるのは理解できる。だが、ユーチューブのコミュニティーではもう少し荒削りなものの方が好まれるようだ。

来年への課題:生活者はあらゆるものに疲弊している

ゼニス(Zenith)のストラテジック・インサイト・ディレクター、ダニエル・ベイカー氏がCampaignに寄せた記事によると、2019年は「手一杯な年」と予測される。人々はテクノロジーと、多すぎる情報量に疲労困憊しており、だらだらとした消費をやめて本当に大切なことに集中しようという動きが、これまで以上に加速するというのだ。消費者側がより自己抑制をきかせるようになると、ブランド側にはより一層の慎重さと丁寧さが、メディア戦略においても具体的な発言内容にも求められることを意味する。

ブランドは「コンテンツ工場」であるべしという、近年浸透してきた概念には、深刻な欠陥があるというのが我々の見解だ。ブランドが生活者と24時間365日、常につながっていなくてはならない理由は無い。ブランドが作るコンテンツの多くは、生活者が求めているものでなく見当違いで、イライラさせるだけだ。もしブランドが人格を持った人間のように振る舞いたいのであれば(そうあるべきだとマーケターはよく言うものだが)、実際にどのような人が好かれるのかを考えてみよう。デリカシーがあり、感情移入できて、誠実で、ユーモアがある人…といったところだろうか。自分自身について延々と喋り続けるのは、逆効果である。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)

今号が、2018年最後の「世界マーケティング短針」となります。年明けは、1月11日より配信いたします。

皆さまには日ごろよりご愛読いただき、大変感謝しております。どうか良いお年をお迎えください。2019年も皆さまのさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。

提供:
Campaign Japan

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