David Blecken
2018年4月06日

広告代理店コンサルティングチームの「戦略性」

博報堂に続き、電通もコンサルティングユニットを立ち上げた。大手広告代理店が取り組む新事業の将来性を、グローバルな視点で占う。

国見昭仁氏
国見昭仁氏

「ビジネスモデルの再構築」という重圧を受ける広告代理店各社は、将来への生き残りをかけて事業の多角化に余念がない。

確かに、クリエイティブな広告やメディアサービスへのニーズがなくなることはないだろう。だが、こうした仕事から代理店が得られる収入は減少傾向にある。先月、世界最大のマーケティングサービスを誇るWWPは2017年が2009年の金融危機以来、最悪の年になったと発表した。

マーケターが今、代理店に何を求めているかは定かでない。P&Gのマーク・プリチャードCBO(最高ブランド責任者)は、「クリエイティブに必要ないものは全てカットする」と発言した。これは根本的に、代理店のクライアント担当者を排除することを意味する。仕事のプロセスを重視するP&G(そして、他の大手消費財メーカー)にとって、彼らは不要な存在と言っていいのだろう。

一方で、クリエイティビティーには様々な形があることも確かだ。プリチャード氏の警鐘は、クライアントがよりハイブリッドなクリエイティブ −− 企業のトップとも広告人とも同じように話ができる人材や、自身のクリエイティビティーをコミュニケーションブリーフ同様、ビジネス面にも応用できる人材 −− を求めているとも解釈できる。

日本の代理店も、こうした流れに適応するため小さな1歩を踏み出した。直近では、電通が「ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)」と銘打ったクリエイティブコンサルティングユニットを設立。博報堂も昨年、同様の趣旨で「TEKO(テコ)」をスタートさせた。BDSはその規模を上回る70人体制で、電通が長年にわたり適宜対応してきたコンサルティングサービスを公に提供していく。

今年はじめCampaignの取材に応じたR/GAアジア太平洋地域責任者のジム・モファット氏も、東京にコンサルティング機能を置く可能性に言及した。

電通や博報堂にとって、こうした事業モデルは既存の有料サービスから脱却する重要な意味合いを持つ。代理店は基本的に無償でクリエイティブを提供し、メディアセールスから対価を得る。BDSエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの国見昭仁氏によると、同ユニットは「クライアント、特にスタートアップと共同事業を行うことで収益を上げていく狙いもある」。電通が現在コンサルティング業務から得る収益は少なく、「全体の1%」(同氏)に過ぎない。R/GAの場合は、世界全体の収益の15%だ。

「経営コンサルティング会社からの脅威を感じてこのユニットを設立したわけではありません」と国見氏。とは言っても、BDSの掲げる目標はコンサルティング会社のそれと酷似しているように思える。「クライアントのニーズが変わってきたことが立ち上げの要因です。大きな目的は、マネジメント側の眠っているクリエイティビティーを目覚めさせること」。企業は一定規模の成功を収めると、その原点を見失いがちだ。BDSの使命は彼らを原点に立ち帰らせ、新たなビジネスの成功へと導くことにほかならない。現在は関連性の深い外部企業と協業を進め、フロッグ(Frog)やネンド(Nendo)といったデザイン会社と正式な提携関係を結んでいる。

国見氏は現在のクライアント名を挙げることは控えたが、「キャンピング用品ブランドやテレビショッピングチャンネルなど」という。また、代理店の通常のクライアントには稀なB2B企業との協働にも「大きな可能性を見出している」。では、クライアントが専門的なコンサルティング会社やデザイン会社よりも電通を選ぶメリットは何なのか。「我々はビジネスに対する理解とクリエイティビティー、そのどちらか一方ではなく、2つを統合することができます」。

他の代理店も同じようなセールスポイントを口にするが、首を傾げる向きも多い。なぜなら代理店のコンサルティング業務を担うのはあくまでも代理店のスタッフが主であり、ビジネスの専門知識に関して(広告のそれとは対照的に)疑問符がつくからだ。更にある観測筋は、「メディアと戦略双方のセールスは、社内に利害の衝突を生む」と指摘する。

元銀行マンである国見氏自身もビジネスコンサルタントとしてのキャリアはなく、電通に入社してから広告戦略とクリエイティブを学んだ。それでも、「ビジネスやマネジメントを常に考慮するのは私の仕事では当然」という。

更なる疑問は、十分な投資をせずにコンサルティング業務を始めることは代理店にとって時期尚早ではないか、という点だ。口先だけの約束で実際のサービスが伴わなければ、確実にしっぺ返しを食らう。

アナリストもそうした可能性に危惧を抱く。だが、その将来性も買っているようだ。ピボタル・リサーチ・グループ(Pivotal Research Group)で広告とメディア、インターネットのシニアアナリストを務めるブライアン・ウィーザー氏は、「現段階で彼らが提供するサービスの真の価値を測ることは難しい」という。同時に、マッキンゼーやベイン・アンド・カンパニー、ボストン・コンサルティング・グループといったコンサルティング会社が提案するマーケティング戦略の本質的な価値を評価するのも「同じく困難です」。

「マーケティングに関する選択が含まれたソリューションであれば、代理店の方がコンサルティング会社より優れているでしょう」。代理店はこの分野への投資を続けるだろうが、そうであっても「直ちにマッキンゼーと競い合うつもりはないのです。収益の構造が急激に変わることもないでしょう」。この動きは、これまで代理店に閉ざされていた「より高度なビジネスの領域に入っていくための取り組み」とも指摘する。

「これまでの常で、高度な戦略的アドバイスをしてきた代理店であっても、広告主の業界が成熟するとその助言は戦略的はでなくなり、戦術的になってしまいます」と同氏。「代理店は必ずしも、クライアントの戦略が決定する組織の高いレベルに入れる『許可』をもらっているわけではありません。それでも日常接するクライアントの戦略性を高め、高いレベルで影響を及ぼすことはできるのです」。

代理店の導き出す成果が「売り文句」と符合するかどうかは、「時のみぞ知る」だろう。

「多くの約束はいつもリスクをはらんでいます」と話すのは、ロンドンに本社を置く投資銀行リベラム(Liberum)でメディア及びデジタルエクイティ調査の責任者を務めるイアン・ウィテカー氏。「代理店はこの5年ほどでもっとデジタルを学習できた、と思う人もいるでしょう。できそうにもないことを約束すれば、クライアントはその結果を決して評価しないのです。最近は(代理店も)だいぶ謙虚になっているように思います」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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