David Blecken
2020年2月12日

日本のPR業界の将来に向けて

ベストプラクティスを理解する人材を育て、PR機能に柔軟性を求める企業とマッチングさせる −− 元ブルーカレント・ジャパン代表の本田哲也氏が牽引する新たな試みがスタートする。

本田哲也氏
本田哲也氏

日本のPR企業2社が連携し、より質の高いフリーランスのPRパーソンを育てていく取り組みが始まる。

「SCALE Powered by PR 」と名付けられたこのサービスを提供するのは、本田事務所(本田氏が昨年創設)と総合PR会社ベクトル(本社・東京)。今回の立ち上げについて本田氏は、「日本ではフリーランスとして働くPRパーソンが増えているにもかかわらず、体系的かつ継続的な教育を受ける機会がないことを危惧した」と話す。

サービスの中心となるのは人材データベースの構築。対象者はフリーランス及び副業を行っているPRパーソンで、SCALEに登録すれば無料で教育プログラムが受けられる。PR業務を委託したいクライアント企業には、その中から最適な人材を紹介するという仕組みだ。プログラムは、本田氏自身の経験や朋輩たちからの助言に基づいて作成されたコンピテンシー(行動特性)モデルがベース。同氏曰く、様々なステークホルダー(利害関係者)と関係性を構築できる効果的なPR力は5つの基本的要素から成り立つという。すなわち、「背負い力(スポークスパーソンシップ)」「変動実行力」「見立て力」「ナラティブ力」そして「マルチ憑依力」。

プログラムは、ベクトル本社で半年以上にわたって催される。客員講師陣には本田氏自身を含め、資生堂CMOを務めた音部大輔氏ら、PR・マーケティング業界を代表するプロフェッショナルたちが揃う。開講は4月を予定。

本田氏は、こうしたコンピテンシーモデルの欠如で一貫した教育システムが存在せず、日本のPR業界は損失を被っているという。「メディアへのアプローチやプレスリリースの書き方といった技術的なことは会得できても、ベストプラクティスに関してはスタンダードがないのです」。2017年に設立された社会情報大学院大学のような教育機関が提供するカリキュラムも、「優れてはいますが、十分ではありません」。

今回のサービスの収益源となるのは、企業への人材の仲介。クライアント企業はプロジェクトにより異なる月会費を支払い、その見返りに適したフリーランスの人材の紹介を受ける。「企業は往々にして、PRパーソンの資質を判断することができない。それが原因でミスマッチが起きてしまうのです」。

「コーポレートコミュニケーションに長けた人材を求めても、結局見つかるのは消費者マーケティングのスペシャリスト的人材、といったことが多々ある」。データベースに登録されたフリーランス人材がカリキュラムを受けてスキルアップを果たし、企業と契約を果たしていくことで、「マッチングサービスが効果的に機能するようになります」。

日本では既に、「クラウドワークス」のようなプラットフォームが様々な分野でフリーランサーとクライアントとの橋渡しを行っている。しかし人材のクオリティーの保証や、直接的な仲介サービスは提供していない。

では、資質を持つフリーランサーをどのように選り分け、システムの質を維持していくのか。応募者は、面接などの選考過程を経てから登録される。「誰もがこのコンピテンシーを経て完璧な人材になるとは考えていません。ただ少なくとも、我々は彼らの長所や短所をトラッキングすることができます」。

現時点でのクライアントについて本田氏は明かさなかったが、スタートアップを含め、潜在的なクライアント企業にベクトルの営業チームがアプローチを始めているという。

同氏は自身の会社を興してから、フリーランスの優秀なPRパーソンを推薦してほしいという数多のリクエストを受けた。「フリーランサーたちもプロフェッショナルとしてより高みを目指し、それに見合う高い収入を得たいと模索していました」。

東京で活動するフリーランスの女性PRパーソンは、「若手のPRたちにとって、こうしたサポートシステムはとても有益でしょう」と話す。同氏はエージェンシーで働いた経験から、「多くの人々がエージェンシー内部での環境を打破したいと考えているはず」という。「(私がエージェンシー在籍時には)常に多すぎるクライアントに対応せねばならず、個々のクライアントに十分なサービスを提供できませんでした」。いちどきに12社ものクライアントを持つことも決して珍しくなかったという。だからと言って独立する選択肢も、「全てを一人で担っていくリスクや収入の不安定さなどを考えると、今の人たちは思いとどまらざるを得ないのではないでしょうか」。それゆえ、日本でフリーランスのPRを志向する人が増えているとは思っていない。

しかし本田氏は、需要は確実にあるという。「クライアントはより柔軟性を求めています。一つのプロジェクトのためにエージェンシーを指名することは時に仕方がないとしても、不必要にコストがかかりすぎるのです」。東京にある多国籍企業でインハウスのコミュニケーションマネージャーを務める女性(匿名希望)は、「従来のPRに限らず、ソーシャルメディアやマーケティングなどの分野で質の高いサービスを提供してくれる個人とアクセスができるプラットフォームは歓迎」と話す。

「この業界でフリーランスの人材が増えるのは良いことですが、こうしたシステムがなければそれも難しいでしょう」と本田氏。「教育システムなしでは、やがて才能ある若い人たちが再び日の目を浴びなくなってしまう。彼らの成長が止まり、生活のために望まない仕事を選ばざるを得なくなってしまうのです。クライアントは彼らの査定ができず、業界はどんどん萎んでいってしまう。こうした事態は避けなければなりません」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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