Gideon Spanier
2022年9月01日

電通、オフショアリングで競争力強化

電通インターナショナルがコストの安い国々への業務移管を進めている。すでに従業員の2割近くが転出。インフレが進む中、コスト削減を模索するクライアントへの対策だ。

電通インターナショナル・グローバルCEOのウェンディ・クラーク氏
電通インターナショナル・グローバルCEOのウェンディ・クラーク氏

電通インターナショナルが大規模なオフショアリング(事業の一部を他国に移管すること)に注力している。コスト削減に追われるクライアントへの対応策で、「競争力を飛躍的に高める」(同社)ためだ。

電通の海外事業を担う電通インターナショナルは、日本国外に4万5000人の従業員を有する。その約17%に当たる7500人がすでにコストの安い国々に転出。今年末までに1万人ほどの転出を予定する。

親会社である電通グループの五十嵐博・代表取締役社長は、先月の第2四半期連結決算発表時にオフショアリングの概要と必要性について言及、その重要性を示唆した。

同グループはそれを担う部門として新たに「電通グローバルサービス(Dentsu Global Services)」を設立。世界18か所に「デリバリーセンター」と称する拠点を設け、コスト削減に向けた事業を推進していく。

オフショアリングは通常、クライアントや消費者から遠隔地にあたる海外の国と国内(周辺国も含む=ニアショア)への移管を並行して実施するケースが多い。

電通グローバルサービスが取り仕切る最大のオフショアリング先はインドで、全人員の3分の2を配置。アジアでは他にフィリピンも重要な移管先となる。

EMEA(欧州・中東・アフリカ)のニアショアとして重視するのはブルガリアとポルトガル、スペイン。米州ではアルゼンチンとブラジルが要所となる。欧州では他にチェコやセルビア、米州ではコロンビアなどが移管先となっている。

同部門の人員配置はインドに6000人、APAC(アジア太平洋地域)500人、EMEA850人、米州300人。

電通インターナショナルはすでに7500人強のオフショアリングを完了したが、電通グループは移管先の国々で700人を新規に雇用予定。今年末までに合わせて1万1000人近くが新たな職場で仕事を始めることになる。

コスト削減へのプレッシャー

電通インターナショナルのグローバルCEO、ウェンディ・クラーク氏は「クライアントに対しては徐々にオフショアリングの件を説明していく」とコメント。「弊社でもコスト削減のプレッシャーが強まっており、新たな事業の可能性を高め、優れた人材へのアクセスを広げていくことは極めて重要な課題」

「オフショアリングの推進は弊社の優位性を高める。競合するグローバルエージェンシーのオフショアリングの実施率は、今のところひと桁台の低い数字にとどまっている」

「クライアントがコスト削減を模索する時代にあって、オフショアリングは弊社にとって大きな差別化要因となる。優位性は飛躍的に高まると考えています」

電通インターナショナルが競う相手は、他のグローバルエージェンシーだけではない。インドに多くの人材を配し、強力に事業を推進するアクセンチュアのような巨大コンサルティング企業も然りだ。

電通グローバルサービスのエグゼクティブスポンサーを務めるのは、電通インターナショナル傘下のカスタマーエクスペリエンスエージェンシー、マークルのマイケル・コマシンスキー・グローバルCEO。

電通グループは主要サービスラインとしてクリエイティブ、メディア、そしてカスタマーエクスペリエンスの3つを挙げており、2024年までに日本国外の収益の50%をカスタマーエクスペリエンスから上げる目標を掲げている。その達成に向けて重要な役割を担うと考えられているのが電通グローバルサービスだ。

サービスの向上

五十嵐氏は、オフショアリングによって「質の高い広告やマーケティング、アナリティクス、テクノロジーといったサービスの提供と、クライアントの費用対効果向上を実現できる」と語る。

「オフショアリングの中心となるインドでの事業は今後、大きく拡大する。全ての英語圏の市場をカバーし、24時間体制でサービスラインを提供していく」

「ニアショアの重要性も高い。時差がなく、地域特有の言語やデータプライバシーといった市場ニーズを満たすことができます」

「弊社には新卒者からベテランまで、短期採用者や今後採用予定の者、現在トレーニングを受けている者も含め、専門性に長けた人材プールがある。オフショアリングはクライアントのみならず、弊社の従業員や事業にも大きな恩恵をもたらします」

さらに「思考の多様化や市場拡大の迅速化、人材プールの拡大、科学技術力の進化」といったメリットも挙げる。

オフショアリングが促す業界変革

電通インターナショナルのCFO(チーフファイナンシャルオフィサー)、ニック・プライデー氏は「価格面での競争力を強化していくという点で、デリバリーセンターの重要性は非常に高い」と話す。「彼らの取り組みは全体的な事業の効率化にもつながります」

移管先でコスト削減の実現や新たな人材発掘ができれば、そのプロセスをグループ全体で「世界レベルに標準化できる」とも。

「そうすることで透明性が増し、マネジメント力も高まることは明らか。弊社では利益の最大化のため、KPI(重要業績評価指標)やBSC(バランススコアカード)を多用する。適切なコストで質の高いサービスが提供できているか念入りに確認しつつ、引き続き全体的なサービスコスト削減に注力していきます」

電通グループには日本を含め、6万5000人の従業員がいる。巨大エージェンシーとしてはWPP、ピュブリシスグループ、オムニコムに次ぐ世界第4位の規模だ。この4社にインターパブリックグループ、ハヴァスを加えたいわゆる「ビッグ・シックス」の総従業員数は40万人を超える。

オフショアリングが業界の大きなうねりになれば、世界のマーケティングサービスに構造変革が起きる可能性がある。コストの高いロンドンやニューヨーク、東京といった世界的ハブの役割が縮小していくからだ。

(文:ギデオン・スパニエ 翻訳・編集:水野龍哉)

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