Jason Herndon
2017年10月30日

音声アシスタント機能が、マーケターの新しい相棒になる理由

アマゾンの「アレクサ(Alexa)」や、「グーグルホーム(Google Home)」といった音声アシスタント機能を持つスマートスピーカーは、ディスラプション(変革に向けた破壊的イノベーション)と有用性とをうまく両立させるもの――。ニューヨークのデジタルコンサルティング会社「レイン」のテクノロジーイノベーション担当ディレクターは、このように語る。

ジェイソン・ハーンドン氏
ジェイソン・ハーンドン氏

マーシャル・マクルーハンは1964年、マーケティングやコミュニケーション、そして社会の多くの面において新時代を象徴することとなる『メディアはマッサージである』を発表。「広告メディアは中立的なものではない」という、シンプルかつ革新的な考えを論じた。

ショッピングセンターの外に置かれた看板を例に考えてみよう。もしちょうどその場所を探していたのなら、看板のおかげで店の場所が簡単に分かる。看板はシンプルで機能的、有用的だ。では、ポップアップ広告の場合はどうだろう。あるサイトを見ていると、いろいろなサービスや製品、ウェブサイトなどの広告が次々に現れる。どれも、探していたものの広告ではないかもしれないが、そんなモノやサービスが存在するのを知ることができる。

これらの例は、「有用性」が広範囲に及んでいることを物語っている。非常に有用だが見落とされる可能性があり、何の広告なのか、見る者に確実に伝わるとはいえない「看板」と、有用とも有益とも言いがたいが必ず気付いてもらえ、情報を提供できる「ポップアップ広告」は、「有用性」の中で対極に位置する。

マーケターにとって関心があるのは、このディスラプションと有用性の折り合いをどのようにつけるかだろう。では、最良のソリューションを提供するのは、どのメディアなのか? 今日では、アレクサやグーグルホームのような音声アシスタント機能を持つデバイスこそが、その答えだといえる。

音声アシスタント技術は、単なる最新テクノロジーではない。これまでのプラットフォームと本質的に異なり、まず消費者に話をさせるという、真に有用なことをするのだから。

フェイスブック上で、自社の製品を見てもらいたいならば、フェイスブックに広告を出せばよい。あまり実利的ではないかもしれないが、少なくとも見てはもらえる。見てもらえないならば、スポンサー記事はどうだろう?  有益な情報がフェイスブックに掲載されているように見える(実際は広告なのだが)。スポンサー記事への反発が気になるというのなら、ブランドアンバサダーを使い、商品を使っている様子を、そうとは分からないように(またはそれほど分からないように)インスタグラムに投稿してもらえばよい……。これらは全て、「有用性」で「邪魔さ」をごまかす方法だ。

だが問題がある。結局は、見抜かれてしまうのだ。ツイッターのタイムライン上に表示されるスポンサード投稿や有償コンテンツには、反発が生じる。インフルエンサーを起用し、「究極の贅沢」を大々的に謳った音楽フェス「ファイアフェスティバル」が、開催当日になって無期延期を発表して混乱が広がった件は、有償コンテンツについて考え直させる、あるいは少なくとも一度立ち止まって考えさせるきっかけとなった。

結局のところ、有用に見えるだけでは不十分で、消費者ファーストでなければならないのだ。ラジオCMやテレビCM、ツイッター広告、道路脇の看板などには、広告媒体からの余分なメッセージが入り込む。音声アシスタントはその仕組みのおかげで、現時点では消費者の反発を買うことなく、有用なメッセージを好印象で伝えることができる。

では、なぜ音声なのだろう。そして、なぜ今なのか。 現代自動車(韓国)は、同社の自動車をグーグルホームからの音声操作に対応させた。タイド(洗濯洗剤)のアレクサスキル(アレクサに対応するプログラム)を使えば染み抜きの方法が分かり、スターバックスの「リオーダースキル」を使えばコーヒーを簡単に注文できる。確かに、有用性が高いとはいえないスキルもあるし、失敗作とも呼べそうな「スマート」スピーカーもある。だが今起きているのは、トラクターが農業の発展に貢献したように、生活の中で労力を要することを音声によって自動化しようというテクノロジーの地殻変動であり、人間の進化における大きな一歩だ。音声は、これまでにないスケールで有用性を高めたインターフェイスなのだ。

だからもう人々の生活に、求められない形で割り込むようなものを考えるのは、やめたほうがいいのかもしれない。消費者は、広告主に邪魔されることを望んでいないのに、実際にはそうなってしまっているのだから。いつかは、アレクサやグーグルホームといったプラットフォームにも情報が溢れ、新たな「邪魔者」になる日が来るのかもしれない。しかし今のところ音声は、消費者とのインタラクティブな関係を築くことができる、実に便利な媒体だ。旧来の、どちらかといえば干渉型の広告手法を揺るがせるものになっている。

効果は、金銭的な価値だけで測られるべきではない。肝心なのは、スポンサード投稿が短期的に売上をもたらすかどうかではなく、消費者に対して企業の立場をより良いものにできるかどうかだ。それこそが、マーケターが本当に考えるべきことなのではないのだろうか。顧客獲得に必要なのは、より良い看板ではなく、ブランドへの顧客ロイヤルティーを高める、より良い仕組みではないだろうか。

もしそのようにお考えなら、音声アシスタント機能を持つデバイスを検討してみるべきだ。

ジェイソン・ハーンドン氏は、レインのテクノロジーイノベーション担当ディレクター。

(編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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