John Woodward
2016年5月17日

日本で活躍するグローバリスト - ブランドの価値とは

『日本で活躍するグローバリスト』は、日本におけるマーケティングを海外の視点で検証する連載コラムです。

ジョン・ウッドワード
ジョン・ウッドワード"

連載第1回となる今コラムでは、マッキャン・ワールドグループ ジャパンのチーフ・ストラテジー・オフィサーであるジョン・ウッドワード氏が、フォックスコンと業務・資本提携することとなったシャープの例を挙げ、なぜ企業がブランド構築にもっと投資をしないのか、という疑問に答えます。

『Campaign Asia-Pacific』では先日、台湾のフォックスコン・グループ(鴻海科技集団)がシャープブランドをどのように扱うのか検証する記事を掲載した。

これは、シャープ自身が自社ブランドについて近年何をしてきたか、という問いにつながるものだ。インターブランドによるとシャープは(日本で最も知名度の高い企業のひとつでありながら)、日本国内のブランドのトップ30に入っていない。また、世界における日本系グローバルブランドのトップ30にも入っていない。

ここから、同社にとってブランド構築の優先度が低かったことが垣間見られる。もちろんシャープにとって、解決しなければならない問題は多くあっただろう。しかし海外で成功する企業の多くは、ブランド構築こそがコモディティ化を避ける最良の策だと認識していた。 まさにシャープが陥った罠でもあった。

他方、サムソン電子とレノボは何億ドルという資金を消費者ブランドの構築につぎ込んだ。その結果、サムスンは世界7位のブランド価値を持つ企業へと成長した。GEやIBM、マイクロソフトといったBtoBブランドは、コカ・コーラ、フェイスブック、グーグルなどのBtoCブランドと共に、グローバル企業のブランド価値ランキングの上位に名を連ねている。世界的に成功した部品会社も強いブランドを誇っており、インテルの企業価値は現在$350億ドルに達している。

そこで問題となるのは、なぜシャープのような日系企業(そして、おそらく多くの日系企業)がグローバルブランドを構築できないのか、ということだ。なぜなら、今日、日系企業がグローバルビジネスで成功するためには、グローバルブランドの構築が必要不可欠だからである。

この問題には歴史と文化が絡んでくる。

大手と呼ばれる日系企業の多くは、戦後数十年間の復興期に、すぐれた生産力と流通能力によって基盤を構築した。高品質な製品を適正価格で販売すれば間違いなく売れる、と信じられていた時代だ。これが、営業力よりも職人の技術力が重視されてきた日本特有の文化に合致し、実質剛健を好む国内の消費者のニーズを満たした。

バブル崩壊により市場の性質が大きく変わった後も、多くの企業が国内市場を重視していた。人口減少や経済の停滞が顕著となった今、ようやく海外に目を向けざるをえなくなったのである。

しかし、その間に世界は待ってくれてはいなかった。1980年代当時、グローバル化していた米国企業はほんの一握りだった。ほとんどの企業は海外で存在感を示せておらず、グローバル化していた企業もせいぜい他国で事業を行う子会社を有していた程度だった。

ところが今日、多国籍企業は米国や欧州だけでなく、中国、インド、ブラジル、トルコ、そして中東から参入してきている。もちろん、高品質と低価格だけでは競争に勝てない。厳しい市場環境で競争するために、発展途上国の企業でさえも、高度なブランド構築戦略を用いているのだ。こういった企業では、世界的なブランド構築プロジェクト経験が豊富なトップクラスのマーケターを引き入れ、強固な経営構造やガバナンス体制を敷き、人材、リサーチ、ブランド資産価値といった部分に数十年以上にわたって投資を行なってきている。

だからといって、日本のマーケターも海外と同じことをしろと言っているのではない。素晴らしいグローバルブランドを構築した日系企業もある。だが、グローバルブランドのマーケティングというのは、生産や研究開発と同様、専門性が非常に高いものだ。日本の製品が世界で愛され、日系企業が躍進するためには、この専門技術の習得は必須になってくる。

そのためには、まず、マーケティングとブランド構築には投資価値がある、という強い信念を持つことが大事だ。これは財務畑や製造畑を歩んできた経営者には、ピンとこない概念かもしれない。ブランドの価値というのは、製品機能の特徴や明確なファクトと比べ、やや抽象的なものに感じることもあるからだ。大手日系企業の中には、コンシューマーエクスペリアンスの担当ディレクターどころか、マーケティングディレクターさえ置いていない企業もあるほどだ。また、現地法人に任せ過ぎる傾向もみられる(おそらく海外市場に対する自信の無さの表れだろう)。

日系企業がプロダクトアウトからマーケットインへと舵を切るには、相当な企業努力を必要とすることになる。それでも2020年の五輪開催を控えた今こそ、日系ブランドが自らの運命を操る、またとない機会ではないだろうか。

ジョン・ウッドワード氏は、日本のマッキャン・ワールドグループのチーフ・ストラテジー・オフィサーで、過去には英国、フランス、イタリア、オーストラリア、香港にてグローバルブランドに携わってきた。その経験に基づいて日本におけるのマーケティング事情を海外の視点で検証する。

提供:
Campaign Japan

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