Surekha Ragavan
2021年1月04日

2020年、信用を失ったブランド

前例のない、特異な1年となった2020年。世界的規模の異変の中で、対応に失敗したブランドを見つめる。

2020年、信用を失ったブランド

新型コロナウイルスのパンデミックは多くのブランドや民間団体、政府系組織などに結束を促した。しかしその一方、不可解なマーケティング戦略やサービスの提供を打ち出すブランドもあった。また、昨年は社会・制度的不正義を告発するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動も地球規模で拡散。そのうねりに乗じたものの、期待した成果を得られなかったブランドもあった。では、こうした事例を見てみよう。

モンデレーズ:人間味をうたう、人間味に欠けたアプローチ

米製菓大手モンデレーズは昨年11月、「ヒューマニング(humaning)」と銘打った世界的キャンペーンを開始した。「消費者重視のユニークなマーケティングアプローチで、リアルかつ人間的、そして目的を持った関係性を消費者と構築する取り組み。消費者向けキャンペーンというより、人とのつながりを創出していくもの」と同社は声明を発表。

だが、このネーミングは業界で広く嘲笑の対象となった。ソーシャルメディア上では、「『ヒューマニング』はまさに現実に即したマーケティング。マーケティングへの愛とそのばかばかしさがよく表れている」「ロボットもキャンペーンに出ていたよね?」などといったコメントがあふれた。

モンデレーズのマーティン・ルノーCMOはこうした声に反論、PRウィーク誌に対し、「一つの言葉の裏にはたくさんの意味がある。このネーミングも消費者が陳腐な流行語と勘違いして、疑問視したのでしょう」とコメント。

「機会があれば、是非このコピーについて皆さんと深い議論をしたい。『言葉の本当の意味を考えよう』といった反響が少なかったのは残念です。私は喜んで他者から学ぶ。双方向の会話を望んでいます」

広告・マーケティング専門のブログ「アド・コントラリアン(The Ad Contrarian)」のオーナー、ボブ・ホフマン氏は、このキャンペーンを「実にナンセンス」と一刀両断。「モンデレーズは以前はおそらくリスやアヒルといった類いの動物と関係を構築していたのだろう。これほどばかげたキャンペーンを受け入れる業界は他にどこにもない。まともな業界ならば、こんなものを作り出した『犯人』は真っ当な大人によって排除され、徹底的に糾弾される」と極めて手厳しい。

シンガポール航空:「地上戦」で苦戦

シンガポール航空は、これまで一貫して市場に合ったセンスの良いキャンペーンを展開、様々な意味で同国のマーケティングに変革をもたらしてきた。だが、コロナ禍の9月に始めた「フライツ・トゥ・ノーウェア(Flights to nowhere)」 −− チャンギ国際空港を出発し、空を周遊して3時間後に再び戻るプラン −− は大きな失敗に終わった。旅気分を楽しみたい人々を満足させるだけで、ジェット燃料が環境に及ぼす影響を考慮していないという批判が国中に広がったのだ。

同社はプランを変更し、世界最大の旅客機エアバスA380を「レストラン」として食事を楽しめるサービスを開始。最高価格はプライベートスイートの600シンガポールドル(約47000円)に設定した。さらに、機内食の宅配にも着手。だがこのサービスは、PR専門家が指摘したように、価格帯が近い有名レストランの宅配との差別化という課題に直面している。

ファッション、ビューティーブランド:浅はかな対応の数々

米国で起きたBLM運動は人種差別と構造的な不正義に関して世界的論議を呼んだが、アジアも例外ではなかった。カラリズム(同民族・人種内で肌の色の濃淡で差別すること)や黒人差別はアジアでも大きな課題で、多くのファッション、ビューティーブランドは方向性の転換を迫られた。

その一例が、インド日用品大手ヒンドゥスタン・ユニリーバ。美白化粧品「フェア&ラブリー」を「グロウ&ラブリー」と改名した。だが、美白クリームの販売が反カラリズムとどう結びつくのか消費者への説明はなく、名称を変えただけで同じ製品を売り続けた。

また、ユニリーバはスリランカ版コスモポリタン誌の前編集長キニータ・シェノイ氏から告発を受けた。同氏が編集長時代、ユニリーバは美白化粧品を取り上げるよう再三迫り、断られると同氏を解任するよう出版元に圧力をかけたというのだ。

「カラリズムは根深い問題。歴史や植民地主義、長年の悪しきマーケティング慣行といった要素が絡み合って社会に根を張っています」とシェノイ氏。「名称変更などといった表面上の対処では、決して解決できません」。

さらにロレアルも6月、インスタグラムに「声を上げることに価値がある」と投稿、騒動を巻き起こした。投稿は以下のように続く。「ロレアルパリは黒人社会と連帯し、あらゆる不正義に反対します。我々は正義の実現に尽力することをNAACP(全米黒人地位向上協会)に誓います。#BlackLivesMatter」。

この投稿の後、トランスジェンダー女性のモデル、マンロー・バーグドルフ氏は「ロレアルは世間を欺こうとしている」と非難。同氏は2017年、米・シャーロッツヴィルでの人種差別抗議デモに白人至上主義者が車で突っ込んだ事件に関して政治的意見を投稿し、ロレアルとの契約を解除された。同氏はロレアルを「本当は人種差別主義の、信用できないブランド」と呼び、同様に流行にのって形だけBLM運動を支持するブランドを批判した。

ディズニー:2つのボイコット運動と、大いなる沈黙

ディズニーが公開した実写版『ムーラン』は、昨年最も話題を呼んだ映画だろう。主演女優の劉亦菲(リュウ・イーフェイ)氏は2019年、民主化デモを弾圧する香港警察への支持を中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」上で表明。この醜聞で映画は公開前から話題を集め、香港では映画へのボイコット運動が起きた。

昨年8月、ディズニーは劇場に先んじ、自社の動画配信サービス「ディズニープラス」上で映画を公開。視聴のための29.99米ドルというプレミアム価格は映画ファンの間で賛否を呼んだ。さらには、映画のエンドロールで新疆ウイグル自治区の政治機関に謝意を表明していることが発覚。これらの機関はウイグル人のイスラム教徒弾圧に加担しており、今度は海外市場からボイコットの声が上がった。

ロイターの報道によると、中国当局は国内主要メディアに対し、ムーランに関する記事の配信を禁じたという。

では、こうした逆風にディズニーはどう対応したのか。それは、全く説得力のないものだった。同社のクリスティン・マッカーシーCFO(最高財務責任者)は長い沈黙の後、「多くの問題を生んだ」とコメント。「撮影に協力してくれた国や地方の政府に映画のクレジットで謝意を表すのは当然のこと。この件はすでに多くの議論とメディアの関心を呼んだ。(話題にするのは)もうこれくらいでやめておきましょう」。

ディズニーが新疆ウイグル自治区の強制収容所について言及しなかったことにも、映画ファンは非難の声を上げた。

アマゾン:「利便性」の代償

パンデミックの最中、アマゾンのサービスが大いに役立ったという人はもちろん多いだろう。だが、社内の安全性や社員の健康を後回しにして会社の施策を推し進めるとどういうことになるか、同社は負の一面も明快に示した。

10月、米国で働く2万人のアマゾン社員が新型コロナウイルスに感染したと報道。パンデミックで利益を上げながら、創業者ジェフ・ベゾス氏とeコマースの巨大企業は従業員の健康を守れなかったのだ。

アマゾンへの規制・監督の強化を求める米国の活動家グループの一つ「アテナ(Athena)」は、同社を早急に捜査するよう米公衆衛生当局に要求。アテナのディレクター、ダニア・ラジェンドラ氏は声明の中で、「アマゾンは自社施設内で新型コロナウイルスを山火事のように広げ、何万人という社員とその家族や友人、そして近隣に住む人々の健康を危機にさらした。アマゾンは明らかに、公衆衛生に対する脅威だ」と述べた。

また5月には、ベゾス氏が「2026年までに世界初の1兆(ドル)長者になる見込み」という報道も。おりしもパンデミックが何十万という人々の命を奪い、長年の課題である経済格差を悪化させていた時期だっただけに、このニュースは実に後味の悪いものとなった。

好む好まざるにかかわらず、アマゾンは弱者をより困窮させ、強者をより富ませる資本主義モデルの弊害を証明する。昨年のこうした出来事が、改めてそれに光を当てたと言えよう。

ダーリー:笑顔に潜む「邪悪さ」

BLM運動に火が付いた6月、米日用品大手コルゲート・パルモリーブはアジアで展開する人気歯磨き粉「ダーリー(Darlie)」を「見直し、進化させる」と発表した。ダーリーはもともと「ダーキー( Darkie)」という黒人を蔑視する名称で、抗議を受けて1989年に綴りを一字だけ変え、パッケージにあしらった黒人男性の肌の色も修正。それでも中国名は、「黒人牙膏(黒人の歯磨き)」のままだ。

Campaignのマネージングエディター、マシュー・ミラーは弊誌コラムの中で「ブランドの力は強大で、シンボルの使い方次第で人々を簡単に傷つける」と書いたが、批判を浴びても方針を変えなかったり、問題の解決に消極的だったりするブランドはいまだに後を絶たない。

ダーリーは、圧力を受けてやっと修正に応じたブランドの一例だ。ネーミングやシンボルが長年批判を浴びてきたにもかかわらず、一字だけ綴りを変えたり、パッケージの男性の肌を白くしたりと「腹が立つほど些細で姑息な対応しか取らなかった」(ミラー)。もしすべてのマーケティングキャンペーンを発表から半年以内に見直していたら、同社は消費者から敬意を集めつつ、速やかなリブランディングに成功していたことだろう。

(文:サレハ・ラガヴァン 翻訳・編集:水野龍哉)

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