David Blecken
2017年10月19日

マッキャンのAI-CD、楽曲の無いミュージックビデオに挑む

ミュージックビデオの制作に、音からのインスピレーションは必要なかったようだ。

マッキャン・ワールドグループの人工知能クリエイティブディレクター(AI-CD)が、またもや動きを見せた。今回挑戦したのはなんと、楽曲の無いミュージックビデオだ。

AI-CDは、賞を獲得した過去のCMを構造分解してデータベース化し、成功に至った要因を解析する。人間によるクリエイティブディレクションをサポートすることを目指して開発された技術で、人間から仕事を奪おうというものではない。

今回のプロジェクトは、ポニーキャニオン所属のアイドルグループ「マジカル・パンチライン」の、新曲プロモーション映像の制作だ。だが、楽曲はまだ無い。そのため、楽曲から着想を得て映像を制作するのではなく、音楽系のテレビCMを分析して構想したというのが、通常の制作ステップと大きく異なる点だ。

分析の結果、AI-CDが導き出したのは、「狩猟本能を学園モチーフで、擬物化を使いアンニュイなトーンで、ドキッとする映像で伝えろ」というディレクションだった。

マッキャンによると、「人工知能による映像先行型の楽曲制作は世界初」とのこと。真否は不明だが、あえてこのような冒険をする人は、そういないだろう。似た例で思い浮かぶものといえば、電通が昨年制作したブライアン・イーノのミュージックビデオになるだろうか。

楽曲が無いため、ダンスやリップシンク(歌っているシーン)については工夫を要した。制作スタッフは、BPM(楽曲のテンポ)を135に設定し、ダンスを振付師に依頼。歌っているシーンについては、口元をやや隠して撮影した。

Campaignの視点:
まず浮かぶのは、「一体なぜ?」という疑問だろう。だが、面白くて興味をそそられる企画だ。特に、AI-CDの初作品が凡庸なものだったことを考えると、今回の作品はなかなかの仕上がりだ。楽曲が無くても、暗い雰囲気の演出することができている。

個人的には、高校生を用いた表現は飽和気味だと感じるが、過去の作品を分析するAI-CDが学園モチーフを選んだのは無理のない話だ。とはいえAI-CDに企画を任せる際には、黒いフードを被った人物で狩猟本能を表現するなどといった、他作品に酷似した演出にならないよう留意する必要があるだろう。過去の作品との関連性は残しつつ予想外の見せ方をするなど、うまくバランスをとることが、今後AI-CDを活用していく上で大切だ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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