Rahul Sachitanand
2021年6月03日

ネスプレッソはパンデミックで得た成長をいかに維持していくのか

長年にわたりジョージ・クルーニーをアンバサダーとして起用してきたキャンペーンの最新作に続き、ネスプレッソの最高ブランド責任者アンナ・ ランドストロム氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらした急成長を踏み台に、製品ラインナップを深化させ、ブランドパーパスを強化していきたいと述べた。

アンナ・ ランドストロム氏
アンナ・ ランドストロム氏

食品大手のネスレは2021年第1四半期の決算発表から、ネスプレッソ事業部門の業績を他の事業と分けて公表し始めた。この2年間は、消費者が多くの時間を自宅で過ごしていたことから、好調な業績を予想するかもしれない。ロックダウンの影響が深刻化するにつれて、新しいキッチン用品にお金を使うことが、家に閉じ込められた閉塞感のよい気晴らしになった可能性はあり、以前まで通勤中に手にしていた紙コップが、ネスプレッソのマグカップに変わったかもしれない。

実際に数字を見ると、そうした予想は当たっていたようだ。ネスプレッソの発表によると、第1四半期、収益のオーガニックグロースは16%となり、売上全体(コーヒーマシーンと専用コーヒーポッド)も前年比で20%以上増加している。

このように業績は上向いているものの、ネスプレッソの最高ブランド責任者、アンナ・ ランドストロム氏は、世界が正常な日常を取り戻したとしても、パンデミックによってもたらされたこの成長が持続できるよう、これをサステナブルブランドの構築の足がかりにしようと、懸命に取り組んでいる。

ランドストロム氏は、「家庭におけるコーヒーの消費が非常に増えた」ことを認めたうえで、次のように語った。「私たちは幸運だった。事業開始当初から消費者に直接販売するモデルを採用していたため、(中略)消費者とのつながりを保つのに、これが実に役に立った。また、消費者とのつながりをいかにしてさらに発展させるのかを考える契機にもなった」

そのために、ネスプレッソとランドストロム氏はまず、2006年から起用している俳優のジョージ・クルーニーに再び目を向けた。ネスプレッソが先ごろ開始した「Made with care」キャンペーンは、「ネスプレッソの一杯一杯に込められている人間としての深い思いやりを示す」ことを狙っているとランドストロム氏はいう。このキャンペーンを通して「思いやりというこのメッセージを、消費者にしっかりと理解してもらう方法を見つけたかった」と同氏は言う。

ランドストロム氏はクルーニーの魅力だけでネスプレッソのブランドと事業を世界中に広めたわけではない。同氏は次のように述べている。「2020年には、消費者が自宅でコーヒーを楽しむ時間を、消費者にインスピレーションが訪れる時間にしようと考えて、Nespresso Editionsというデジタルエンゲージメントプラットフォームを開設した。アーティストやシェフ、ミュージシャンなど、さまざまな人を起用して、インスピレーションが生まれる瞬間を提示することで、消費者とのつながりを強化することを目指している」

ブランディングエージェンシーのスーパーユニオン(Superunion)でシニアストラテジストを務めるセシリア・グレンドウィッチ氏は、パンデミック前、コーヒーを飲む人には非常に多くの選択肢があったと言う。ネスプレッソは他社の家庭用コーヒーだけではなく、大手チェーンから、増加が著しいこだわりの小さなカフェまで、様々なコーヒーショップとも競争しなければならなかった。在宅勤務や自宅学習が現実的になったことが、ネスプレッソの強みになったかもしれないが、消費者の財布の紐は堅くなってきており、ブランドにとっては、今後が難しくなってくるだろうとグランドウィッチ氏は述べた。

「経済の先行きが不透明で贅沢を慎まなければならない人が増えるなかで、ネスプレッソの競争環境は少し見極めが難しくなるだろう」と、グランドウィッチ氏は言う。「ネスプレッソは、消費者の財布だけでなく精神面についても、スキンケアやゲーム、ストリーミングサービス、入浴製品など、ロックダウン中の生活の質を向上させてきたほかの小さな贅沢品ともシェア争いを演じることになる」

ネスプレッソの親会社、ネスレの最高財務責任者を務めるフランソワ-グザヴィエ・ロジェ氏は、ネスプレッソの業績と継続的な成長の可能性についての手がかりをアナリストに提供した。アナリストとの電話会見で、ネスプレッソのオーガニックグロースは「頻度の増加と普及の拡大が組み合わさった」ことによるものだと明かしたのだ。「米国における販売はもともと力強く伸びていたが、欧州が非常にうまく成長し、アジアもそうだった(中略)。ほぼすべての地域で同じように市場シェアを獲得した」と同氏は語った。

ランドストロム氏によると、高まった関心を今後も活かしていくには、従来のコーヒーカプセルとマシンといった製品を大量に作り続けていくだけではなく、製品ラインを拡充し、より幅広い消費者に訴求していく必要があるという。同氏は、「コーヒーの飲み方は何百通りもある」として、「しかし、世界中の我々の顧客を見ると共通する要素があるようだ。質の高いコーヒーに情熱を持っていることに加えて、サステナビリティにつながるものを選ぶことが大切だというのもわかっている」と指摘した。

「キアラ・フェラー二」コレクション


ネスプレッソは明らかに環境面について課題を抱えている。世界全体におけるリサイクル率の高さを主張し、世界中に10万カ所の回収ポイントを展開していると誇っている一方で、リサイクルされているポッドは全体のわずか5%だという業界筋からの指摘もある。

ネスプレッソはライフスタイルブランドとして「消費者の生活のなかにある、コーヒーを飲みながら過ごす潜在的な瞬間に立ち会うこと」を大切にしている。そこでネスプレッソは、ファッションブログ「Blonde Salad」を運営するソーシャルメディアのインフルエンサーで起業家のキアラ・フェラーニ氏と、「ネスプレッソ x キアラ・フェラーニ」というコレクションを立ち上げた。また、「ワールド・エクスプロレーション」シリーズという世界中のさまざまなコーヒーを厳選した製品も発売している。「マスターオリジンズ」シリーズの「ニカラグア」の「ラ・クンプリーダ・レフィナーダ」は、ニカラグア産で初の期間限定コーヒーであり、発酵技術が使われている。また「ワールド・エクスプロレーションズ」シリーズの「シャンハイ・ルンゴ」は、ケニア、中国、インドネシアのアラビカ種コーヒーをブレンドして浅煎りしたコーヒーで、中国で生まれつつあるコーヒー文化を表現したものだという。一方、同シリーズの「トウキョウ・ヴィヴァルト・ルンゴ」は、日本で親しまれているコクのあるコーヒーを踏まえたもので、エチオピア産とメキシコ産のアラビカ種コーヒーをブレンドしている。

ネスプレッソにとっての課題は、単にファッショナブルなコーヒーレーベルになるだけでなく、オーディエンスの共感を呼ぶことだ。ブランドに一定の期待を寄せる若くて意識の高いコーヒー愛飲者の心に響くものでなければならない。「だからこそ、我々にとってこのキャンペーンが大切なのだ。というのも、実際に(中略)コーヒーとその味にとどまるものではないからだ。品質、プロセス、環境に対する配慮と、その1杯のコーヒーができるまでに関わっているパートナーたちについても知ってもらわなければならない」とランドストロム氏は言う。

ネスプレッソ「ルンゴ」


スーパーユニオンのグランドウィッチ氏は、ネスプレッソがこのブランドパーパスを理解してもらうために、クルーニーを起用するのは理にかなっているという。グランドウィッチ氏は、「クルーニーは今や、人道的活動や政治運動のほかに目利きとしても知られており、テキーラのブランド『カーサミーゴス』の創設でそのイメージがいっそう強固になった。クルーニーなら自分が認めていないものに自分の名前を出すことはしないとの認識がある」と述べ、「ネスプレッソはサステナビリティの取り組みに費やす時間と労力を増やしており、クルーニーが深く関わることで、間違いなく人がうらやむような真正性と信頼性がブランドにもたらされる」と語った。

ランドストロム氏は、ネスプレッソを宣伝するのにオンラインとオフラインでネスプレッソの事業を推進するだけでなく、世界中のクリエイターとの輪を拡大してコンテンツを生み出すことにも熱心に取り組んでいる。「次の1年で本当に重要になるのは、このキャンペーンを発展させ、さまざまなプラットフォームでより多くのコンテンツを披露していくことだ」と同氏は言う。たとえば、ジンバブエやコンゴなどの農業家を対象とするプログラム(「Nespresso AAA Sustainable Quality」プログラム)を紹介するなどして、生産現場で起きていることと消費者とのつながりを作っていきたいとネスプレッソは考えている。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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