Tatsuya Mizuno
2021年1月15日

世界マーケティング短信:トランプに異を唱えるブランド、ワッツアップへの逆風

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

(Getty Images)
(Getty Images)

政治に声を上げるブランド

6日にトランプ米大統領の支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件をめぐり、多くのブランドが非難声明を発表、平和的な政権移行を訴えた。

常に政治的姿勢を鮮明にし、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動にも連帯を示したアイスクリームブランドのベン&ジェリーズは、複数のツイートでこの行為を強く批判。

「昨日(6日)の出来事は抗議活動ではない。白人至上主義を標榜する暴動だ」「我々は2つの異なる米国を見た。1つはジョージア州の上院決選投票で、黒人とユダヤ系米国人の候補者が初めて勝利したこと。これは民主主義の最良の形だ。もう1つは、大統領に扇動された白人の暴徒が自由で公正な選挙結果を覆すため、民主主義の殿堂に暴力を使って侵入したこと。これはクーデターの失敗であり、我々の民主主義が危機的状況にあることを示している」


これまで大概のブランドは、潜在的顧客の離反を恐れて政治的問題に沈黙を貫いてきた。だが米国の分断が進むにつれ、自社の理念や価値観を表明するブランドが増加。今回声明を発表したのはUPS、ベライゾン(通信)、シェブロン(石油関連)、コカ・コーラ、バンク・オブ・アメリカ、AT&T、アメリカン・エキスプレス、シティグループ、JPモルガン・チェース、ボーイングといった主要企業だ。以下、そのいくつかを引用する。

「我々はあらゆる無分別な暴力、そして昨日起きた暴動を非難する。決して容認できるものではない」(ベライゾン)

「我々は平和的な政権移行を求める。ワシントンDCでの暴挙は、2世紀に及ぶ法の支配を汚すものだ」(シェブロン)

「ワシントンDCでの出来事は、米国民主主義の理念に対する侮辱である」(コカ・コーラ)

 

バーガーキング、20年振りのリブランディング

バーガーキングは先週、全面的なイメージチェンジに踏み切った。刷新したのはロゴ、メニュー、パッケージ、従業員のユニフォーム、ソーシャルメディアのサイトなど。新たなロゴはよりシンプルで力強く、同社が1969年から30年間使っていたかつてのビジュアルを想起させる。

これまでのロゴ(左)と新しいロゴ(右)


声明で同社は、「ミニマリズム的なロゴは時代とともに進化するブランドに見合う」とコメント。バーガーキングの親会社レストラン・ブランズ・インターナショナルのデザイン部門責任者ラファエル・アブレウ氏は、今回のリブランディングが「テイストとクオリティーの向上を象徴するもの」と述べた。

昨年9月、同社は商品のパッケージに原材料を表示することを発表。リブランディングは、代表的な商品「ワッパー」に合成保存料や合成着色料、合成香料などの人工添加物が一切含まれていないことを改めて強調する意味合いもある。

店舗にも新しいコンセプトを導入、内・外装にはメニューの配色を応用する。今後数年をかけ、世界各国の店舗を改装していく予定。


コロナ禍で、同社の直近の四半期の売上高は7%減となった。リブランディングはその結果を受けて発表。マクドナルドも昨年7月の売上高が30%減となり、その後に新しいパッケージデザインを発表している。

 

プライバシーポリシー改定で、「ワッツアップ離れ」

世界で最も人気の高いメッセージングアプリであるワッツアップ(WhatsApp)が先週、利用規約とプライバシーポリシーの改定を発表した。それによると、ワッツアップと親会社であるフェイスブック(FB)が個人情報に関するデータを今後共有するという。2月8日の発効日を前に、ワッツアップのユーザーは「シグナル」や「テレグラム」といった、プライバシーをより重んじるアプリへの切り替えを始めている。

新たなプライバシーポリシーで特に問題となっているのは、個人情報の管理に関してユーザーの選択肢がなくなったこと。これまでユーザーは、ワッツアップのアカウントに登録された個人情報をFBが共有することを拒否できた。

プライバシー保護を推進するNGO「プライバシー・インターナショナル」は直ちにこれを非難、「『データポリシーに同意するか、さもなくば出て行け』といった姿勢は、GDPR(一般データ保護規則)などが定めるユーザーの権利をまったく認めないもの」とツイートした。

だが実際、ワッツアップはこれまでも大多数のユーザーの個人情報をFBと共有。2016年8月にプライバシーポリシーを改定した際、FBとの共有を明確に拒否したユーザーの個人情報だけが対象外となった。これらのユーザーの情報は、今後もFBとは共有されない。テクノロジーメディア「ワイアード」は記事の中で、「今回の改定が現況を大きく変えることはないだろう」と述べている。

それでも、改定を契機に多くの著名人がワッツアップの利用を停止し、他のアプリに切り替えることをツイッター上で推奨。420万人近いフォロワーを持つテスラCEOのイーロン・マスク氏もひと言、「シグナルを使え」と投稿した。


こうした動きを受け、シグナルとテレグラムをダウンロードする人が急増。調査会社センサータワーによると、アップルやグーグルのアプリストアを通してシグナルをインストールした人は先週だけで10万人以上。テレグラムは約220万回ダウンロードされたという。対照的に、1月最初の1週間でワッツアップをインストールした人は前週と比べ、全世界で11%減だった。

 

アイプロスペクトがビジウムを吸収合併

電通傘下のパフォーマンスエージェンシー「アイプロスペクト(iProspect)」が、メディアエージェンシー「ビジウム(Vizeum)」を吸収合併する。エンドツーエンドのメディアエージェンシーに生まれ変わることで、同グループのメディアエージェンシー「カラ(Carat)」の機能を補完する。

吸収合併のプロセスはすでに今週から始まり、3月末には完了する予定。

この合併案を推し進めたのは、昨年アイプロスペクトのグローバルプレジデントに就任したばかりのアマンダ・モリッシー氏。これまで頻繁にクライアントとのワークショップを催し、新しいエージェンシーが注力すべきテーマを模索していた。

アマンダ・モリッシー氏

 

Campaignは昨年10月、電通が英国内でこの2社の統合を図っていると報じたが、世界市場から「ビジウム」ブランドがなくなることを認めたのは今回が初めて。オーストラリアでは昨年8月、すでにビジウムがアイプロスペクトに吸収合併されている。

(文:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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