David Blecken
2017年10月26日

東京2020、日本ブランドが輝くために

テクノロジーの最前線は、やはり日本 −− この地位を取り戻すため、東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業には重要な役割が求められている。

宇陀栄次氏
宇陀栄次氏

東京五輪・パラリンピック大会まで、あと2年半。だが既に様々な論議が巻き起こっているのは周知の事実だ。大会を主催するプライドや楽観論の一方、国では賄えきれないコストや無駄の増加といった悪循環を懸念する声も絶えない。

こうした点では、2020年東京大会はこれまでの五輪と何ら変わりがないだろう。だが大会組織委員会チーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサーの宇陀栄次氏は、「実質的にこれまでと異なる大会になる」と確信を持つ。「特にテクノロジーの応用という点で、かつてなかった五輪にしたいと考えています」。

「この大会は、日本が世界のテクノロジー界のリーダーとしての地位を取り戻す好機」と見る同氏。日本ブランドには強みがあるが、そこにテクノロジー的要素は含まれない。日本のテクノロジーと言えば、あくまでも1980年代への追憶や、日常生活に今のところほとんど影響のないノベルティー的なロボットなどにとどまる。最先端の専門知識があるにもかかわらず、その応用や輸出などで日本はこれまで良い結果を出せずにきた。「五輪はそれを変えるプラットフォームになるだろうし、日本ブランドを新たな次元に導くことができるでしょう」。

海外での期待値は既に高く、史上最もテクノロジーの進化した大会になるだろうと予測するスポーツマーケターは多い。その期待を日本は裏切るわけにはいかないのだ。日本IBMやソフトバンク・コマース、米セールスフォース・ドットコムを経て、豊田章男トヨタ自動車社長の要請で大会組織委員会に参画した宇陀氏は、自身の使命を3つのカテゴリーに分けて考える。

まずは、スポーツイベントのプレゼンテーションの可能性を最大限に広げること。アスリートのパフォーマンス評価にテクノロジーを最大限活用し、スピードなど細部に関する様々なデータをオーディエンスに提供する。2番目は、オーディエンスのエクスペリエンス。これまでに前例のない視点を導入、この上ない臨場感を伝える。この技術を開発するため、委員会は現在キヤノンと協働する。そして最後は、宇陀氏が最も重要という大会のレガシーだ。

同氏が掲げる目標の1つは、大会での炭素排出量をゼロにすること。日本は水素エネルギー技術を進化させる力があり、それによって「大会の電力を供給し、他国へも輸出ができる」。更に、日本に関する最大の情報源“ジャパン・ポータル”の創設だ。日本の様々な素晴らしい特徴を紹介することで、訪日客を正しくナビゲートし、日本への理解を促進する。

このようなプロジェクトは、グーグルを始めとする企業との協業が欠かせないだろう。スポンサー企業との協業も、同氏が描く多くのプロジェクトのカギだ。「スポンサーの投資利益率(ROI)の大部分は、大会で導入するテクノロジーに負うところが大きいでしょう」。既にパナソニックは、大会を念頭に置いて開発した複数のプロダクトを発表した。だが自律搬送ロボット「Hospi(ホスピ)」など、そのいくつかは若干懸念が残る。NTTが開発した3Dイメージのシステムは、大会のエクスペリエンスの中核を成すだろう。また、トヨタは燃料電池で走るバスを開発中で、社会への長期的貢献が可能な自動運転システムも大会中に導入する計画だ。

観測筋はパラリンピック大会に関しても、過去のどの大会よりも大きな注目が集まると見ている。リクシルなどの企業は既に、「身体障がい者が住みやすい社会の形成に貢献する」という意思を表明した。8月に組織委員会が出したプレスリリースでは、障がい者のために「有形・無形両面でアクセシビリティを改善し、心理的バリアを取り除く必要性への認識を社会に広めたい」としている。

五輪が多くの無駄と浪費を生み、大会終了後は日本人が活力を失うのではないか、という懸念には宇陀氏は否定的だ。東京都は32兆円(約2810億米ドル)の経済効果を算出し、東京で130万人、全国では190万人の雇用を創出すると予測する。更に東京では2013年から2030年にかけて、観光業やテクノロジー、中小企業の振興が9.2兆円(800億ドル)分の付加的な消費者需要を生むと試算する。

加えて同氏が強調するのは、「日本を世界に向けてアピールすることで莫大な無形のメリットが生まれる」ことだ。日本はイノベーションの面で他国の指標となる潜在力がある。スポンサー企業や組織委員会がどのようなイノベーションを導入するにしても、持続的な利益を生み続ける確固とした長期戦略が肝要だろう。もちろん、それにはマーケティングも含まれる。

「これまでのところ組織委員会は、大会競技と結果だけを重視しているように見受けられます。それだけでは不十分。この大会が社会にどのような貢献ができるか、考える必要があります。大会後も社会は幸福でなければならない。それが私にとっての課題なのです」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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