Jenny Chan
2016年9月13日

新興市場、モンゴルを狙え

グローバルなブランド価値調査として知られる、「ブランドZ」。その最新版の中でも注目すべきは、急速な経済成長を遂げるモンゴルに関するリポートだ。この国への市場参入を目論むマーケターには、隣接する中国よりもインドネシアとの共通点が多い、と助言する。

新興市場、モンゴルを狙え

モンゴルの人々は中国同様、大々的に旧正月を祝う。だがWPPによる「ブランドZ」を見る限り、両国の類似点はそれ以外にはない。

この調査結果で、モンゴルの首都ウランバートルは中国よりもインドネシアのジャカルタとの共通点が多いことが示された。この2つの都市は目覚ましい発展によって(そのペースに喘ぎつつも)、急激に豊かさを享受するようになった。そしてどちらも消費を牽引するのは、比較的若くて進取性に富む、デジタルを使いこなす世代だ。

モンゴルと言えば大概の人々は、その市場の潜在力よりも広大な大地と過酷な気候を思い浮かべるだろう。しかし近年では鉱物資源の採掘ブームによってGDPの成長率が17%に達し、新たな富裕層を生み出している。

この調査では成人の40%近くが1万~10万米ドルの資産を保有し、100万ドル以上の長者は約3万2000人に上ることが分かった。もちろん富裕層の規模は決して大きくはないが、彼らはたった1つの都市 - 国際性があってインフラが整い、通信コストも手頃なウランバートルに集住する。

すでに数々の多国籍ブランドが、モンゴル市場で事業基盤を築いている。大衆向けプレミアム・ブランドでは、ハイネケン、タイガービール、ベネトン、ゲスなどが、また高級ブランドでは、BMW、ポルシェ、アルマーニ、バーバリー、ルイ・ヴィトンなどが活発に展開する。また、P&Gは倉庫を、コカ・コーラはボトリング工場を構えている。

モンゴル進出を検討するブランドにとって、カギとなるのは何か。同調査が指摘する、5つの要点を紹介する。

「洗練さ」への対応: モンゴルの富裕層は国外旅行の経験が豊富で、まだモンゴル市場に正式に参入していないブランドでも経験している。ウランバートルのビジネス界には外国で教育を受け、進取性に富んだ帰国子女が多い。A.T.カーニー社の最新版「グローバルリテールデベロップメント指数調査」では、同市は市場潜在力で世界第5位に挙げられた。新しいプロダクトやブランドを試すことへの人々の関心の高さはブランドにとって好材料であると同時に、愛着を持ってもらいにくいという課題にもつながる。だがこうした背景があっても、モンゴルの消費者が特定のブランドや分野に関する知識があると思ってはならない。調査では、バーガーキングはハンバーガーしか売っていないと知って驚くモンゴル人が多かった、という結果が例示されている。

「矛盾」への理解: モンゴルは、他のアジア諸国や中央ヨーロッパの市場とは異なる。仏教徒が多く、ロシアの影響も強く受けており、消費者は多様で、一見すると矛盾した価値観を持ち合わせている。その矛盾は主に欧米からの刺激と、「汎モンゴル主義」に見られるモンゴル国民としての誇りの共存に起因する。海外ブランドに関心はあっても、外国製というだけで独自性や品質の高さを認めようとはしないのだ。オーガニックの石鹸やトイレタリー製品など、丁寧に作られた現地のプロダクトも市場で好意的に受け入れられている。人々はモンゴルの伝統に誇りを持ち、「中国に倣え」という考えはまったく持ち合わせていない。また、チンギス・ハンを引き合いに出す手法は、すでに各ブランドによって使い古されていることも認識しておくべきだろう。エンターテインメントの分野では、韓国ドラマが最も人気の高いテレビ番組の1つである。

技術インフラを活かす: モンゴルの消費者はデスクトップやラップトップ・コンピュータを経ることなく、初めからモバイルでインターネット・アクセスを利用しており、発展段階を飛び越えて最先端技術を利用する、いわゆる「リープフロッギング」が特定の分野で起きている。インターネット・バンキングは急速に普及しており、電子決済もごく一般的に行われる。人々は通常の銀行口座を開設する代わりに、スマートフォンのアプリを使用する。端的に言えば、他国の市場で何年もかかったプロセスを、モンゴルの消費者とそのニーズに応える企業は省略してしまったのだ。

オンラインとソーシャルの活用: テレビはいまだに支配的なマスメディアであり、看過はできない。しかし人々はオンラインに時間を費やすようになっており、しばしば複数のデバイスを同時に使用する。ほとんどの人々はスマートフォンからインターネットに接続し、その大多数がソーシャルメディアを利用している。だが、ブランドのほとんどはオフラインのコンテンツをソーシャルメディアに流用しているに過ぎず、ソーシャルメディア・マーケティングはいまだ発展途上だ。ゆえにブランドにとっては、プラットフォームに適した、楽しくて双方向性のある体験を提供できるかどうかがカギとなる。これは消費者との関係を早期に構築するための、大きなチャンスだ。

「安物」は通用せず: モンゴルの消費者も他国同様に、もちろん「お買い得品」を好む。だが10年にわたって国内に安物が流入し続けた結果、消費者には疑いの目と品質志向が生まれ始めている。人々は必ずしもこれ見よがしでブランド品を求めるのではなく、耐久性のあるものが欲しいのだ。調査ではシーズンの終わりのセールも、その2ヶ月前に定価で購入する消費者にとっては不満の対象であることが示されている。

数字で見るモンゴル(ブランドZより引用、細かい数値は四捨五入)

  • 人口は300万人
  • 人口の44%が25~64歳
  • 人口の8%が月収800ドル以上
  • 平均世帯人員は3.6人
  • 98%の世帯が携帯電話を所有
  • 携帯電話ユーザーの66%がスマートフォンを所有
  • 人口の21%が毎日ソーシャルメディアを利用
  • 小売販路の27%が電子決済システムを使用

(文:ジェニー・チャン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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