Shufen Goh
2021年7月12日

APACブランドとESG対策

ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みはもっと強化できる −− APAC(アジア太平洋地域)で活動するマーケターの半数以上がこのように考えていることが、最新調査でわかった。

APACブランドとESG対策

これは、Campaignとマーケティングコンサルティング会社R3がAPACのシニアマーケターを対象に行った調査「CMO(チーフマーケティングオフィサー)アウトルック」。ESGへの取り組みをもっと強化・改善できると回答した人は56%、逆にESGは重要課題ではないと答えた人はわずか2%だった。経営陣がESGにもっと関心を払うべきと考えるマーケターが多い一方、ESGは業績向上の支障とみなす人もまだ若干ながらいることがわかった。

経営者の優先課題、消費者の関心

経営陣の意向にかかわらず、アジアの消費者が関心を寄せるのはサステナビリティー(持続可能性)とダイバーシティー(多様性)だ。博報堂が昨年実施した調査では、インドネシア人の74%が社会的意識の高いブランドを好み、そうしたブランドの製品を購入すると答えた。彼らはコミュニティーに与える企業の影響力を重視し、地域レベルを超えた社会全体を動かす取り組みに期待する。またインドでは、新型コロナウイルスのパンデミックによって資源不足に対する意識が向上。消費者の65%が、「ニューノーマル」に即した節度ある購買行動をとると答えた。

こうした流れに沿うように、いくつかのブランドは消費者のニーズと価値観に合わせた重要なコミットメントを発表した。サステナブルな事業を創出するための1歩であり、パンデミック後の社会・環境問題には不可欠な指針だ。

ゴシェック(Gojek)は2030年までにゼロエミッション(環境を汚染する廃棄物の排出をゼロにする取り組み)とゼロウェイスト(ゴミをゼロにする取り組み)、ゼロバリア(社会・経済的バリアの撤廃)を達成すると宣言。環境問題にとどまらず、ドライバーの経済的地位も保障した。インドの消費財メーカー、ゴドレジ・コンシューマー・プロダクツは、ジェンダー平等とLGBTQ+を対象としたインクルージョン(包摂性)、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みを開始した。

ESGは業績向上の鍵

主要ブランドが範を示す一方、APACマーケターの8%はESG投資を昨年一切行わなかったと答えた。また、54%はわずかに出資、あるいは出資額を増やさなかったと回答。その要因はパンデミックによる予算の大幅削減だろうが、ブランドが業績向上を真剣に考えるのなら、サステナビリティーやダイバーシティー、インクルージョン、そしてガバナンス改善がもたらす投資利益率(ROI)に着目するはずだ。

効果的ガバナンスが業績向上と相関性があることはすでに証明されている。今年になって、テスラ、ウォルト・ディズニー、ウォルマートの3社がサステナビリティーを考慮したパフォーマンス指標「S&P500 ESGインデックス」に加入。これらの企業はアップル同様、環境責任や労働安全衛生といった分野での向上が認められ、同インデックスの長期メンバーとなった。金融サービス企業モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)は独自の指標「アジアESGリーダーズインデックス」を掲げ、テンセントやアリババ、ソニーなどがリストの上位に名を連ねる。

役員を多様な人材で構成することも、直接的な業績向上につながる。だが、女性にガバナンスを担わせることに躊躇する企業はいまだ多い。シンガポールではある団体が国内企業の役員の3割を女性にするという目標を掲げたが、その実現に苦慮している。

マーケティング機能としてのESG

我々は今もESGに躊躇し、偏見を抱いている。それを変えてくれるのはライバル企業からのプレッシャーであり、消費者の力だろう。

そんななか、APACシニアマーケターの半数がマーケティング戦略でESGを活用しているという事実は明るい材料だ。これには、グリーンウォッシング(上辺だけ環境保護を装う姿勢)などの無意味なキャンペーンも含まれていると異論をはさむ向きもあろうが、マーケターが自社をデータ主導の組織に変えようとするのなら、その結果がステークホルダー(利害関係者)にESGの重要性を改めて認識させる効果をもたらすはずだ。

以下、ESGを向上させるためのポイントを3点挙げる。

1. 最も重要なのは、ESGへの認識を深めることだ。認知こそ、変革の大きな原動力となる。その手始めとして、パートナーであるエージェンシーにダイバーシティーに関するデータを集めさせ、サステナブルな視点で制作やデジタル化のプロセスを見つめ直し、熟知することは決して難しいステップではない。こうして新たに得た知識でマーケターは自社のパフォーマンスを再評価し、機能している分野や改善できる分野、さらに早急に改善が必要な分野などを把握できる。

2. ESGに関するデータを所有する企業は、コンプライアンス(法令遵守)を実現するためにそれらを活用するべきだろう。サステナビリティーやダイバーシティーに関する報告書の公開は、ステークホルダーや消費者への告知として健全な手段だが、重要なのはこうした情報が現在のパフォーマンスを改善するためにいかに活用されるかだ。コンプライアンスは単なる監査結果ではなく、テクノロジーを含めたシステムやプロセスの1つとして捉えるべきなのだ。

3. ESGに関する指針を日常業務に反映させていない企業にとって、改めてESGの目標を掲げることは大きな労力が要るだろう。サステナビリティーとアカウンタビリティー(説明責任)の文化の醸成は体に筋肉をつけることにも似て、時間と努力が必要だ。2〜3のキャンペーンを行い、1年間尽力したからといって簡単に実現できることではない。大規模で有意義な変革を成し遂げるために必要なのは構想力と忍耐、そして企業トップが示す明確なロードマップだ。さらにこうした指針は、日常業務に常に組み込まれていなければならないだろう。


シュフェン・ゴー氏はマーケティングコンサルティング会社R3の共同創業者、プリンシパル。

(文:シュフェン・ゴー 翻訳・編集:水野龍哉)

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