Marc Weinreich
2022年4月01日

ブランド成長のカギ 第3の性「ノンバイナリー」

アパレルショップに足を踏み入れ、男女別にフロアが分かれていることに疑問を抱く人はあまりいないだろう。だが、こうしたレイアウトは「次世代の消費者」にとって納得のいくものなのだろうか。

ブランド成長のカギ 第3の性「ノンバイナリー」

数百年前に衣料品店が初めてオープンした時から、我々は二分的な考え方を当然のように受け入れてきた。すなわち、男性は男性向けの服を纏い、女性は女性向けの服を纏うということだ。しかしこうした線引きも時代とともに曖昧になりつつある。にもかかわらず大手アパレルショップのレイアウトはこれまで通りで、大多数の人々のアイデンティティーを反映したままだ。

ジェンダーによる二分化が便利なことは確かだろう。「男性用ジーンズをお探しですか? 右手にどうぞ」「ワンピースは左奥になります」 −− 己のアイデンティティーが何であれ、探すアイテムがすぐに見つかるからだ。探し物が容易に見つかると買い手に思わせることは、高いコンバージョン率の獲得につながる。

それはオンライン上でも同じだ。ドロップダウンメニューは大抵「メンズ」と「レディース」に分けられ、インクルーシブ(包摂的)な「ユニセックス」にはどちらにも当てはまらない帽子や長袖のシャツ、トートバッグなどが無作為に並べられる。

だがアパレル界では今、こうした常識が少しずつ揺らぎつつある。ブランドがよりインクルーシブなインストアエクスペリエンス(店内体験)を構築しようとしているからだ。パンデミックが状況を難しくしていることは言うまでもないが、これは変革への素晴らしい兆候に違いない。

ショップが衣類をジェンダー別に売ることは、在庫の半分を人口の半分の人々にしか見せないことになるのだから。

ノンバイナリーがショッピングに求めるもの

Z世代(1990年代後半から2000年代に生まれた若年層)は自由に使えるお金を持つ次世代の消費者だ。ギャラップ社の昨年2月の調査によると、そのうちの成人は6人に1人がLGBTQ+を自認する。

カリフォルニア州に住むチューズデー・デネカス氏は17歳。自身をノンバイナリー、あるいはトランスジェンダーと認識し、その呼称に「they」あるいは「them」という代名詞を好んで使う。普段はレストランチェーンの店員として働き、バンド活動にも精を出す。

「アパレルショップにthey / themのカテゴリーは特にいらないし、そうしたカテゴリーで買い物をするつもりもありません」と同氏。

その代わり、「ジェンダーに縛られないショッピングエクスペリエンスを楽しみたい」

「ブランドにとっての最善策は、カテゴリーをつくらないことです。they / themカテゴリーをあえてつくるのはむしろ進化に逆行するし、『応急処置』の印象が拭えません」

シアトルに住むアリ・ロウェンナ氏は、27歳のデザイナー。デネカス氏同様、同氏もノンバイナリーを自認し、they / themの代名詞を好む。

「ブランドはジェンダーレスをアピールしますが、男性用売り場にあるのは基本的にスーツなどの典型的なメンズウェア。服の境界線を取り払おうとはしていません」

ロウェンナ氏もデネカス氏も、美意識や素材ではなく、個人の価値観を基準にして買い物をする。こうした消費者は増え続けている。昨年、Z世代は世界で25億人を超えた。マッキンゼー社の調査によると、Z世代の10人に9人は「ブランドは社会問題に取り組む責任がある」と考える。

また、彼らはブランドのキャンペーンや戦略の本質、展開の方向性、そしてメッセージのトーンなどに一貫性があるか注意深く見守る傾向があるという。

この調査はブランドにとって重要な要素が包摂性だけでなく、オムニチャネルにおける一貫性であることも示した。

全ての消費者に訴求する、ノンバイナルのエクスペリエンス

ブランドには今、これまで以上に有言実行が求められている。その反面教師と言えるのが、2018年にトルコでプライドをテーマにしたTシャツを販売し、批判を受けたアイルランドのアパレルブランド、プライマーク(Primark)だ。トルコはLGBTQ+の人権状況に関して、欧州で下から3番目に低い。

では、どうしたらジェンダー概念のないショッピングエクスペリエンスの情報アーキテクチャー(情報をユーザーにわかりやすく伝える表現方法)を効果的にデザインできるのだろうか。

ブランディング及びデジタルエージェンシー「ベーシック」のプロダクトデザイナー、ライアン・ポーター氏はこのように話す。

「ブランドはこれまで、顧客の体のサイズを正確に把握し、フィット感を高めるツールの開発に注力してきました。しかし今は、新たな世代の消費者を満足させることが何よりも重要になった」

「例えば、店内で顧客の体全体をスキャンして、男物、女物を問わずぴったり合う服を見繕うことができます。特に今はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)の時代。重要なのは性別ではなく、体型です。こうした方向性を今後のブランドは取るべきでしょう」

ファッションにおけるARの活用

ギャップ(GAP)は2017年、店に行かなくても「試着」ができるアプリ『ドレッシングルーム』を立ち上げた。異性用の服でも自分が着たらどう見えるか、自宅に居ながらチェックできるサービスだ。

英国のアパレル・化粧品小売アソス(ASOS)も同様の取り組みを始めた。ARを駆使した鏡で、実際にメイクアップをしなくてもメイクアップの見栄えをチェックできる。使い方はスナップチャットのフィルターとよく似たものだ。

これらの例は利便性を主眼に置いたものだが、根幹にあるアイデアはオンラインイノベーションのインストアエクスペリエンスへの導入と、ノンバイナリーの人々に対するサービスの再構築だ。さらにユーザーにとっては、操作が容易という利点もある。

インストアとオンラインの併用

米・ペンドルトン(Pendleton)のアパレルデザイナー、エリン・シュミット氏は「パンデミックによって厳選されたインストアエクスペリエンスへの期待が高まった」と話す。同社はオレゴン州に本社を置き、伝統的手法でウールのブランケットや男女の衣服、アクセサリーなどを製造する。

「インストアエクスペリエンスを洗練させ、刺激的なものにしなければならないというプレッシャーが強くなりました。パンデミックで消費者は多くのデジタルショッピングツールやオンラインテクノロジーを学んだ。そして今は、それらの利便性をインストアに求めています」

同社では最近、男女同一の色やデザインの衣服を売り始めた。女性の顧客も男性用に使われるデザインを好むというインサイトがその理由だ。自社のソーシャルチャネルでは、男性用のセーターを纏った女性モデルがフィーチャーされる。シュミット氏によれば、女性の顧客は定期的に男性用のセーターを購入するという。

また、ジーンズメーカーのリー(Lee)とも提携、中性的デザインのジーンズやジャケット、シャツ、オーバーオールなどのコレクションも始めた。

ペンドルトンのウェブサイトでシュミット氏は、「リーとのコレクションは誰もが楽しめる要素を含んでいる」と述べる。将来的には共同でノンバイナリーコレクションの発表も予定。ペンドルトンは既に2011年、ユニセックスをテーマとした『ポートランド・コレクション』を発表している。

色とサイズによるカテゴリー化

ブランドは「過去」からもヒントが得られる。例えば、ヴィンテージショップ。大概はジェンダーではなく、色やサイズで服を分けてディスプレイをする。廉価な掘り出し物を見つけられるだけでなく、ジェンダーへの固定観念がないディスプレイで、ヴィンテージショップはZ世代にアピールする魅力を持つのだ。

ノンバイナリーを取り込む「パイオニア」

2020年秋、マーク・ジェイコブスはポリセクシュアル(多性愛)向けのコレクションを発表。同氏はニュース専門局CNBCに対し、「男性である女性、女性である男性、そしてノンバイナリーの人々のためのコレクション」と語っている。

一般大衆をターゲットとしないハイファッションやオートクチュールの世界でも、服に対する概念の変化が起きている。昨年急逝したデザイナーのヴァージル・アブロー氏は、ハイファッションの要素をナイキやイケアといった身近なブランドに持ち込み、その「民主化」に貢献した。

昨秋、パクサン(PacSun)は「特定のジェンダーを想定しない、厳選されたスタイル」の『ザ・カラーレンジ』というコレクションを発表。ステラ・マッカートニーからグッチに至るまで、多くのブランドはよりインクルーシブなショッピングエクスペリエンスを想起させる製品ラインを発表した。ユニセックスブランド、テルファー(Telfer)のモットーは極めてシンプルだ。「あなたのためではなく、皆のために(It’s not for you. It’s for everyone)」

ザ・フルイド・プロジェクト(The Phluid Project)は2018年、ジェンダーフリーのアパレルショップをニューヨークに開店、同時にオンライン上で展開した。サイトには「男性」「女性」といった表現は一切なく、未来的な情報アーキテクチャーを思わせる作りだ。同プロジェクトは、社会に自分の意見を反映させられないと感じる子どもや若者のためのプラットフォーム作りを使命とする。

「慣習的にジェンダーを二分化せず、自分が着たい服を着て、本当の自分を最大限に表現できる −− そうしたインクルーシブな社会を求める若者は増えており、我々は彼らの声を世界に届けていく」(同プロジェクトのウェブサイトより)

地域の消費者のデモグラフィック(人口統計学的属性)に基づいて製品をディスプレイすることは、決して新しいアイデアではない。ポーター氏が指摘するように、ターゲット(米・大手ディスカウントスーパー)の店舗は1つとして同じレイアウトはない。衣服がフィーチャーされている店があれば、食品、あるいは医薬品が売り場を占有する店もある。全ては地域住民のニーズ次第だ。

だがこうした戦略に比べると、アパレルショップは柔軟性に欠けているようにも映る。

社会がジェンダーの規範を破ろうと闘ってきたにもかかわらず、ジェンダー別のレイアウトを変えるショップは今もほとんどない。もし大手リテーラーがこの二分化を廃止すれば、画期的であるだけでなく、LGBTQ+コミュニティーの伸長に合った価値ある投資となるだろう。

ノンバイナリーが生む機会創出

前述のように、ショップがジェンダー別で衣服を売ることは、人口の半分の人々に在庫の半分しか見せないことを意味する。

ショップは今、消費者が求めるアイテムや個々のアイデンティティーの表現方法を把握しようと努める。ノンバイナリーの人々が持っていない服や、これまで見つけられなかった服を提供すれば、売上げは確実に増やせるのだ。ノンバイナリーにとっても、洋服探しのプロセスでより本当のアイデンティティーを把握できるだろう。

ジェンダーの壁を取り払った店舗のレイアウトは洋服探しが大変だろうが、少なくともブランドにとってはラベルを貼ったり、売れ筋予測を立てたりといった手間が省ける。そして何よりも、今日では消費者の価値観に寄り添うことであり、重要な未来の消費者の心をつかむことなのだ。

リテーラーとブランドはジェンダーの枠を超えた服を「機会」として捉えるべきであり、決してそれを見逃すべきではない。ノンバイナリーの人々ための服は、未来のファッショントレンドに大きな影響を及ぼすことは間違いない。こうした課題に現在取り組んでいるブランドは、これからの時代を確実に牽引していくだろう。

(文:マーク・ヴァインライヒ、翻訳・編集:水野龍哉)


マーク・ヴァインライヒ氏はデジタルエージェンシー「デプト(Dept)」(文中のエージェンシー、ベーシックの親会社)のシニアコピーライター。同社ウェブサイトの記事から流用。

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