Staff Reporters
2021年8月05日

「五輪ブランド」は東京で傷ついたのか?

賛否両論のなか強行された東京五輪も、終盤を迎えた。その迷走振りに、スポンサー企業も当初予定していた活動を大幅に縮小。五輪のスポンサーシップは今後、下火になっていくのだろうか。

「五輪ブランド」は東京で傷ついたのか?

今回の五輪ほど、スポンサーや大会関係者が対応に窮した大会はかつてない。開催が1年延期されたものの、コロナ禍は一向に衰えず、それでも大会は強行された。

これまでの道のりは険しいものだった。日本政府は7月中旬、新型コロナウイルス感染者の急増を受け、東京都に4度目の緊急事態宣言を発出。30日には8月下旬までの期間延長を決定した。開会式では、五輪招致の中心にいた安倍晋三前首相も欠席。8月3日現在、大会関係者の感染者数は300人近くに達している。

また、コロナ以外の醜聞も相次いだ。ダメを押すように、開幕直前には演出担当の小林賢太郎氏がナチスによるユダヤ人虐殺を茶化す発言をしていたことが発覚、解任された。

五輪スポンサーは開催に否定的な国民の声を考慮し、派手なキャンペーンの展開を自粛した。最上位スポンサーである「ワールドワイドトップパートナー」のトヨタ自動車とコカ・コーラも、日本国内における広告とアクティベーションを最小限に抑制。ほとんどのスポンサーは国外でのマーケティング活動に注力した。

こうした東京大会の迷走は、「五輪」というブランドにダメージを与えたのだろうか。そして今後、企業はスポンサーシップに消極的になっていくのか。7人のブランド分析、及びスポーツマーケティングの専門家に聞いた。

東京大会は五輪ブランドにどのようなダメージを与えたのでしょうか?

ジョアンヌ・ウォーンズ

(オクタゴン、東南アジア及びインド担当マネージングディレクター):

五輪ブランドは何十年もかけて、今の価値を築き上げてきました。今回、コロナ禍で行われた東京大会は五輪とその未来に対して新たな課題を突きつけた。様々な懸念はありますが、大会が成功裏に終われば、スポンサー企業の価値とイメージは損なわれないはずです。しかしそうでなかった場合、企業は信用を落とし、その回復には長い時間とコストがかかるかもしれません。最も重要なのはアスリートや大会関係者、ボランティア、そして日本の人々の安全が守られることです。いずれにせよ、五輪ブランドの受けたダメージが明らかになるまでには時間がかかるでしょう。今大会にどのような最終的判断が下されるかを待つべきです。

ディパジャン・チャタジー

(フォレスター、バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト):

今大会は紛れもなく混迷の中で開幕しましたが、豊かなストーリー性のある五輪ブランドの価値は極めて大きい。他のプロスポーツ競技と違って、アマチュア選手による競技、普通の人が偉大な目標に挑むという側面は、人々により親近感を抱かせます。五輪ブランドが特に愛される理由です。

もちろん、今大会には落胆させられる面もいくつかありました。しかし、ほとんどのスポンサー企業の威信は傷ついていない。対応を熟慮した結果、選択肢がほとんどなかったこともその理由でしょう。いくつかの企業は、意図的に戦略を後退させた。トヨタは日本での反五輪感情を考慮して、国内向け広告を取りやめた。日本企業にとって、積極的PRは得策ではありませんでした。

今後の五輪ブランドを考える上で、ユーロ2020(サッカー欧州選手権)が参考になります。ロンドンのウェンブリー競技場で行われた決勝戦には6万人もの観衆が集まり、その後英国ではデルタ株の感染者が急増した。それでも「ユーロブランド」の価値は傷つきませんでした。

マルコム・ソープ

(スポートファイブ・アジア、東南アジア担当マネージングディレクター):

近年、五輪ブランドは様々な面から検証を受けてきました。サステナビリティーや開催都市の選考プロセス、アスリートの有する権利、国際オリンピック委員会(IOC)のアカウンタビリティー(説明責任)と透明性といった問題です。こうした疑念にかかわらず、五輪は今でも多くのスポーツ界やアスリート、ファンの間で絶対的なブランドとして君臨している。これは東京大会以降も変わらないでしょう。

日本では新型コロナウイルスの感染者急増につながるとして、五輪・パラリンピック大会開催に反対意見が多かったことは承知しています。しかし、これは主として日本国内の問題です。他の国々ではあまり反対意見は聞かれませんでした。五輪は今後も世界から支持を受け、続いていくでしょう。もう半年後には北京冬季大会が開かれますし。

コロナ禍での大規模スポーツイベントには賛否両論があるかもしれませんが、この困難な時期に世界で最も傑出したアスリートたちのパフォーマンスを見られることは、特別な機会として捉えるべきです。そして今大会は、スポーツ界の将来 −− 今後のニューノーマルの世界でスポーツがどのような地位を占め、発展していくのか −− を占う上で重要な役割を果たすはずです。 

ジャニス・シュウ

(ランダー&フィッチ、APAC成長担当マネージングディレクター):

現時点で五輪ブランドへのダメージを予測することは困難です。既存のスポーツイベントでも、ステークホルダー(利害関係者)の存在など、様々な要素が予測を難しくしてきました。その上、五輪はスポーツ界における唯一無二のブランドです。

コロナ禍の五輪で求められるのは、より迅速なアプローチやテクノロジーの有効活用、サステナビリティーの導入、そして成功の「レシピ」としての社会への適応といった要素です。こうした点を改めて考え直す機会になったことは、疑いありません。

アーノルド・マ

(クミン、創業者)

影響を受けるのは五輪ブランドよりも東京に対する評価でしょう。感染者の増加にかかわらず、大会を進めているのですから。五輪にとって重要な要素は、開催国の大会運営能力です。ですから、五輪ブランドよりも開催国に影響が出ます。

来年の北京大会はもっと見通しが明るいと思います。五輪ブランドにとってもプラスになり、コロナ禍でどのように五輪を開催するかという成功例にもなるはずです。中国は大規模イベントの運営能力に関しては定評がある。中央集権的体制をフルに生かし、巨大なマンパワーを投入する組織的運営に長けています。さらにこの数カ月、感染防止策が功を奏し、感染者は抑えられている。こうした要素は五輪ブランドにとってポジティブに作用するでしょう。

マイケル・R・ペイン

(ペイン・スポーツ・メディア・ストラテジー、会長兼CEO):

日本はこれまで多くのメダルを獲得しているので、大会に対する国内のムードは良くなっているのかもしれません。このまま好成績を収めれば、大会は成功ということになるでしょう。ただしそれは、短期的視野に基づく判断です。世界が注目するのは、あくまでもアスリートと競技。この2つが五輪ブランドに最もインパクトを与える要素です。コロナ禍が世界を覆う中で開かれた大会は、「人間讃歌」という点で、五輪ブランド独自の価値をむしろ高めていくかもしれません。

ノーム・オライリー

(メイン大学、ビジネス大学院長):

今回の大会で、五輪ブランドの威光はさらに輝くと思います。世界は今、素晴らしいストーリーを求めています。東京大会では綿密な「バブル方式」が用意された。こうしたやり方は、すでにワクチンが普及する前から他のプロスポーツ大会で機能してきました。IOCや東京の組織委員会が実行すれば、なおさらでしょう。したがって、すべてのネガティブな要素は世界中のポジティブな空気に払拭されてしまうのではないでしょうか。多くの人々が自宅で観戦し、自国のアスリートの活躍と、自国の旗が振られる開会式を見ています。これこそ五輪の醍醐味であり、世界をポジティブに包む要素なのです。


五輪のスポンサーシップへの長期的影響はどうでしょう?

ウォーンズ:

五輪とそのスポンサーシップは、これからもブランドにとって魅力ある広告・宣伝活動の機会であり続けると思います。五輪はスポーツの偉大さを地球規模で讃える、希望と調和、連帯の象徴です。とは言っても、現在のスポンサー企業の多くは東京大会の効果を総括し、今後の計画の見直しを図るでしょう。もうすでにスポンサーシップの再評価を始めているはずです。今後のスポンサーにとっては、これまでの1〜1年半における経験が大きな学びになったことでしょう。ユーロ2020やF1、テニスのグランドスラムといったビッグイベント、そして五輪への対応は、スポンサーシップに対する新たな思考とアプローチを見い出す良い機会になったと思います。

チャタジー:

影響はありません。五輪のブランド価値を考えるには、銀行の口座残高を例にとればいいでしょう。「五輪ブランド」という口座には、長い年月をかけて蓄えたたくさんの預金がある。一時的にまとまった金額を引き出したとしても、残高全体を見れば影響は少ない。コロナ禍の今の状況を考えても、一旦それが収まれば残高は再び増えていくでしょう。ですから、長期的に見て五輪の価値が下がるとは思いません。スポンサーも同様に考えていると思います。

ソープ:

東京大会の開催には各界から様々な意見が出ていますが、五輪は企業にとって世界中のオーディエンスを魅了できる、重要なスポーツマーケティングプラットフォームの1つです。アスリートの偉業を目の当たりにできる歴史的スポーツイベントであり、あらゆる国々のアスリートのストーリーが詰まっている。企業にとっては今後もずっと、唯一無二の機会であり続けるでしょう。

コロナ禍での開催には賛否両論があり、特に日本国内での風当たりは強かった。多くのスポンサーには慎重なアプローチが求められました。大会期間中も各国の感染状況に応じた異なるアプローチと、柔軟かつ的確なエンゲージメント、及びアクティベーション戦略が求められるでしょう。

中長期的に見ても、五輪がこれまでのように膨大なオーディエンスにアピールするのであれば、五輪ブランドの価値は失われないと思います。スポーツファンの観戦の仕方や消費行動は変化してきており、企業はメッセージングにおいてクリエイティビティーが必要になってきている。テレビやソーシャルメディアなどマルチチャネルを用いたアプローチで、カスタマージャーニーのあらゆる局面で存在感を発揮できる手法を考案するべきでしょう。

シュウ:

どのスポーツイベントも、新型コロナに対する免疫は持ち合わせていませんでした。欧州の主要サッカーリーグは無観客で行われ、NBAはバブル方式を導入した。成功したスポンサー企業にとってカギとなったのは、適応力でした。スポーツにおけるスポンサーシップの根本的ゴールは変わりません。しかし今、企業はスポンサーシップへの新しいアプローチを模索しています。長期的視点に立てば、スポーツのスピリットを革新的なデジタルアクティベーションに融合させることが成功につながるでしょう。よりエンゲージメントを高める手法で、ファンエクスペリエンスを強化することが重要です。

マ:

北京大会が五輪ブランドにとっての再スタートになるはずです。3年後のパリ大会はまだ先の話。北京大会までにコロナ禍が収束していればいいのですが……。五輪はこれからも人々の注目を集め、スポンサーにとって魅了あるイベントであり続けるでしょう。北京ではさらに多くの中国企業がスポンサーになる。今年のユーロ2020でもそうでした。欧米企業が政治的リスクを恐れたり、業績回復で手間取ったりしていると、中国企業が存在力を高めることになると思います。

ペイン:

五輪は今後、パリ、ロサンゼルス、ブリスベーンといった素晴らしい都市に受け継がれていきます。スポンサーのほとんどは2028年、あるいは2032年までという長期契約を結んでいることを忘れてはなりません。様々な意味で、五輪ブランドの復原力は過去125年ですでに証明されています。政治が絡んだボイコットやスキャンダルなど、どのような障害があってもそこから立ち直り、むしろブランド力を高めてきましたから。

オライリー:

五輪でのスポンサーシップの未来が輝かしいことは明らかです。五輪は従来型のアクティベーション(開催国のロゴや関連商品など)から、デジタルを活用したアクティベーションへの移行に時間を要してきました。実際の観戦に訪れるのは数十万人ですが、テレビを加えた他のチャネルを通せば世界の40億人にリーチできる。これこそが多くのスポンサーにとって最大の魅力です。来年の北京大会に向け、スポンサーは改めて予算作りに注力するはずです。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)

賛否両論のなか強行された東京五輪も、終盤を迎えた。その迷走振りに、スポンサー企業も当初予定していた活動を大幅に縮小。五輪のスポンサーシップは今後、下火になっていくのだろうか。

(body)

今回の五輪ほど、スポンサーや大会関係者が対応に窮した大会はかつてない。開催が1年延期されたものの、コロナ禍は一向に衰えず、それでも大会は強行された。

これまでの道のりは険しいものだった。日本政府は7月中旬、新型コロナウイルス感染者の急増を受け、東京都に4度目の緊急事態宣言を発出。30日には8月下旬までの期間延長を決定した。開会式では、五輪招致の中心にいた安倍晋三前首相も欠席。8月3日現在、大会関係者の感染者数は300人近くに達している。

また、コロナ以外の醜聞も相次いだ。ダメを押すように、開幕直前には演出担当の小林賢太郎氏がナチスによるユダヤ人虐殺を茶化す発言をしていたことが発覚、解任された。

五輪スポンサーは開催に否定的な国民の声を考慮し、派手なキャンペーンの展開を自粛した。最上位スポンサーである「ワールドワイドトップパートナー」のトヨタ自動車とコカ・コーラも、日本国内における広告とアクティベーションを最小限に抑制。ほとんどのスポンサーは国外でのマーケティング活動に注力した。

こうした東京大会の迷走は、「五輪」というブランドにダメージを与えたのだろうか。そして今後、企業はスポンサーシップに消極的になっていくのか。7人のブランド分析、及びスポーツマーケティングの専門家に聞いた。

東京大会は五輪ブランドにどのようなダメージを与えたのでしょうか?

ジョアンヌ・ウォーンズ

(オクタゴン、東南アジア及びインド担当マネージングディレクター):

五輪ブランドは何十年もかけて、今の価値を築き上げてきました。今回、コロナ禍で行われた東京大会は五輪とその未来に対して新たな課題を突きつけた。様々な懸念はありますが、大会が成功裏に終われば、スポンサー企業の価値とイメージは損なわれないはずです。しかしそうでなかった場合、企業は信用を落とし、その回復には長い時間とコストがかかるかもしれません。最も重要なのはアスリートや大会関係者、ボランティア、そして日本の人々の安全が守られることです。いずれにせよ、五輪ブランドの受けたダメージが明らかになるまでには時間がかかるでしょう。今大会にどのような最終的判断が下されるかを待つべきです。

ディパジャン・チャタジー

(フォレスター、バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト):

今大会は紛れもなく混迷の中で開幕しましたが、豊かなストーリー性のある五輪ブランドの価値は極めて大きい。他のプロスポーツ競技と違って、アマチュア選手による競技、普通の人が偉大な目標に挑むという側面は、人々により親近感を抱かせます。五輪ブランドが特に愛される理由です。

もちろん、今大会には落胆させられる面もいくつかありました。しかし、ほとんどのスポンサー企業の威信は傷ついていない。対応を熟慮した結果、選択肢がほとんどなかったこともその理由でしょう。いくつかの企業は、意図的に戦略を後退させた。トヨタは日本での反五輪感情を考慮して、国内向け広告を取りやめた。日本企業にとって、積極的PRは得策ではありませんでした。

今後の五輪ブランドを考える上で、ユーロ2020(サッカー欧州選手権)が参考になります。ロンドンのウェンブリー競技場で行われた決勝戦には6万人もの観衆が集まり、その後英国ではデルタ株の感染者が急増した。それでも「ユーロブランド」の価値は傷つきませんでした。

マルコム・ソープ

(スポートファイブ・アジア、東南アジア担当マネージングディレクター):

近年、五輪ブランドは様々な面から検証を受けてきました。サステナビリティーや開催都市の選考プロセス、アスリートの有する権利、国際オリンピック委員会(IOC)のアカウンタビリティー(説明責任)と透明性といった問題です。こうした疑念にかかわらず、五輪は今でも多くのスポーツ界やアスリート、ファンの間で絶対的なブランドとして君臨している。これは東京大会以降も変わらないでしょう。

日本では新型コロナウイルスの感染者急増につながるとして、五輪・パラリンピック大会開催に反対意見が多かったことは承知しています。しかし、これは主として日本国内の問題です。他の国々ではあまり反対意見は聞かれませんでした。五輪は今後も世界から支持を受け、続いていくでしょう。もう半年後には北京冬季大会が開かれますし。

コロナ禍での大規模スポーツイベントには賛否両論があるかもしれませんが、この困難な時期に世界で最も傑出したアスリートたちのパフォーマンスを見られることは、特別な機会として捉えるべきです。そして今大会は、スポーツ界の将来 −− 今後のニューノーマルの世界でスポーツがどのような地位を占め、発展していくのか −− を占う上で重要な役割を果たすはずです。 

ジャニス・シュウ

(ランダー&フィッチ、APAC成長担当マネージングディレクター):

現時点で五輪ブランドへのダメージを予測することは困難です。既存のスポーツイベントでも、ステークホルダー(利害関係者)の存在など、様々な要素が予測を難しくしてきました。その上、五輪はスポーツ界における唯一無二のブランドです。

コロナ禍の五輪で求められるのは、より迅速なアプローチやテクノロジーの有効活用、サステナビリティーの導入、そして成功の「レシピ」としての社会への適応といった要素です。こうした点を改めて考え直す機会になったことは、疑いありません。

アーノルド・マ

(クミン、創業者)

影響を受けるのは五輪ブランドよりも東京に対する評価でしょう。感染者の増加にかかわらず、大会を進めているのですから。五輪にとって重要な要素は、開催国の大会運営能力です。ですから、五輪ブランドよりも開催国に影響が出ます。

来年の北京大会はもっと見通しが明るいと思います。五輪ブランドにとってもプラスになり、コロナ禍でどのように五輪を開催するかという成功例にもなるはずです。中国は大規模イベントの運営能力に関しては定評がある。中央集権的体制をフルに生かし、巨大なマンパワーを投入する組織的運営に長けています。さらにこの数カ月、感染防止策が功を奏し、感染者は抑えられている。こうした要素は五輪ブランドにとってポジティブに作用するでしょう。

マイケル・R・ペイン

(ペイン・スポーツ・メディア・ストラテジー、会長兼CEO):

日本はこれまで多くのメダルを獲得しているので、大会に対する国内のムードは良くなっているのかもしれません。このまま好成績を収めれば、大会は成功ということになるでしょう。ただしそれは、短期的視野に基づく判断です。世界が注目するのは、あくまでもアスリートと競技。この2つが五輪ブランドに最もインパクトを与える要素です。コロナ禍が世界を覆う中で開かれた大会は、「人間讃歌」という点で、五輪ブランド独自の価値をむしろ高めていくかもしれません。

ノーム・オライリー

(メイン大学、ビジネス大学院長):

今回の大会で、五輪ブランドの威光はさらに輝くと思います。世界は今、素晴らしいストーリーを求めています。東京大会では綿密な「バブル方式」が用意された。こうしたやり方は、すでにワクチンが普及する前から他のプロスポーツ大会で機能してきました。IOCや東京の組織委員会が実行すれば、なおさらでしょう。したがって、すべてのネガティブな要素は世界中のポジティブな空気に払拭されてしまうのではないでしょうか。多くの人々が自宅で観戦し、自国のアスリートの活躍と、自国の旗が振られる開会式を見ています。これこそ五輪の醍醐味であり、世界をポジティブに包む要素なのです。

五輪のスポンサーシップへの長期的影響はどうでしょう?

ウォーンズ:

五輪とそのスポンサーシップは、これからもブランドにとって魅力ある広告・宣伝活動の機会であり続けると思います。五輪はスポーツの偉大さを地球規模で讃える、希望と調和、連帯の象徴です。とは言っても、現在のスポンサー企業の多くは東京大会の効果を総括し、今後の計画の見直しを図るでしょう。もうすでにスポンサーシップの再評価を始めているはずです。今後のスポンサーにとっては、これまでの1〜1年半における経験が大きな学びになったことでしょう。ユーロ2020やF1、テニスのグランドスラムといったビッグイベント、そして五輪への対応は、スポンサーシップに対する新たな思考とアプローチを見い出す良い機会になったと思います。

チャタジー:

影響はありません。五輪のブランド価値を考えるには、銀行の口座残高を例にとればいいでしょう。「五輪ブランド」という口座には、長い年月をかけて蓄えたたくさんの預金がある。一時的にまとまった金額を引き出したとしても、残高全体を見れば影響は少ない。コロナ禍の今の状況を考えても、一旦それが収まれば残高は再び増えていくでしょう。ですから、長期的に見て五輪の価値が下がるとは思いません。スポンサーも同様に考えていると思います。

ソープ:

東京大会の開催には各界から様々な意見が出ていますが、五輪は企業にとって世界中のオーディエンスを魅了できる、重要なスポーツマーケティングプラットフォームの1つです。アスリートの偉業を目の当たりにできる歴史的スポーツイベントであり、あらゆる国々のアスリートのストーリーが詰まっている。企業にとっては今後もずっと、唯一無二の機会であり続けるでしょう。

コロナ禍での開催には賛否両論があり、特に日本国内での風当たりは強かった。多くのスポンサーには慎重なアプローチが求められました。大会期間中も各国の感染状況に応じた異なるアプローチと、柔軟かつ的確なエンゲージメント、及びアクティベーション戦略が求められるでしょう。

中長期的に見ても、五輪がこれまでのように膨大なオーディエンスにアピールするのであれば、五輪ブランドの価値は失われないと思います。スポーツファンの観戦の仕方や消費行動は変化してきており、企業はメッセージングにおいてクリエイティビティーが必要になってきている。テレビやソーシャルメディアなどマルチチャネルを用いたアプローチで、カスタマージャーニーのあらゆる局面で存在感を発揮できる手法を考案するべきでしょう。

シュウ:

どのスポーツイベントも、新型コロナに対する免疫は持ち合わせていませんでした。欧州の主要サッカーリーグは無観客で行われ、NBAはバブル方式を導入した。成功したスポンサー企業にとってカギとなったのは、適応力でした。スポーツにおけるスポンサーシップの根本的ゴールは変わりません。しかし今、企業はスポンサーシップへの新しいアプローチを模索しています。長期的視点に立てば、スポーツのスピリットを革新的なデジタルアクティベーションに融合させることが成功につながるでしょう。よりエンゲージメントを高める手法で、ファンエクスペリエンスを強化することが重要です。

マ:

北京大会が五輪ブランドにとっての再スタートになるはずです。3年後のパリ大会はまだ先の話。北京大会までにコロナ禍が収束していればいいのですが……。五輪はこれからも人々の注目を集め、スポンサーにとって魅了あるイベントであり続けるでしょう。北京ではさらに多くの中国企業がスポンサーになる。今年のユーロ2020でもそうでした。欧米企業が政治的リスクを恐れたり、業績回復で手間取ったりしていると、中国企業が存在力を高めることになると思います。

ペイン:

五輪は今後、パリ、ロサンゼルス、ブリスベーンといった素晴らしい都市に受け継がれていきます。スポンサーのほとんどは2028年、あるいは2032年までという長期契約を結んでいることを忘れてはなりません。様々な意味で、五輪ブランドの復原力は過去125年ですでに証明されています。政治が絡んだボイコットやスキャンダルなど、どのような障害があってもそこから立ち直り、むしろブランド力を高めてきましたから。

オライリー:

五輪でのスポンサーシップの未来が輝かしいことは明らかです。五輪は従来型のアクティベーション(開催国のロゴや関連商品など)から、デジタルを活用したアクティベーションへの移行に時間を要してきました。実際の観戦に訪れるのは数十万人ですが、テレビを加えた他のチャネルを通せば世界の40億人にリーチできる。これこそが多くのスポンサーにとって最大の魅力です。来年の北京大会に向け、スポンサーは改めて予算作りに注力するはずです。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)

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