Faaez Samadi
2016年7月15日

加速するアジアのパブリック・アフェアーズ

複雑化さを増すアジアの政治が、パブリック・アフェアーズの躍進を後押ししている。しかしパブリック・アフェアーズが何たるかを、真に理解している者は少ない。今起きている変化と、企業が有効なパブリック・アフェアーズを実践する上で考慮するべきことは何かを探る。

加速するアジアのパブリック・アフェアーズ

アジア太平洋地域でブランドが成功を収めるために必要なことは何か。アジアの文化や社会、国ごとの微妙な違いを知って調和をはかること、タイとカンボジアとでは同じ手法は通用しない――。同じような議論が形を変えて、これまで何度も起こってきた。

これらを正しく理解することは今までも大きな課題だったが、昨今ではますます難しくなる一方だ。多くの国がグローバルな舞台で活躍し始めており、社会的、政治的にも大きく変化している。ミャンマーが長い独裁体制から民主化へと舵を切る一方で、タイは軍事政権下にある。インドの首相は自由を掲げ、フィリピンの次期大統領は気性の激しい人物だ。中国はますます干渉主義を強めるし、オーストラリアの首相は5年間で延べ5人目だ。混沌としていると言わざるを得ない。

この状況下でうまく立ち回り、各方面の最新情報に通じ、企業の声を政治に届けられる然るべき人脈を持った人々を、企業は必要としている。このような背景から、パブリック・アフェアーズ事業を強化するPR会社が増えている。

一攫千金を狙って続々と参入

「多くの従来型PR会社には以前から、パブリック・アフェアーズ部門が小規模ながらも存在していた。しかし、このような需要を無視してきたPR会社ですら、昨今はパブリック・アフェアーズ事業の立ち上げのため、政治を熟知した人材を配置し始めている」。こう語るのは、パブリック・アフェアーズのコンサルティング会社APCOワールドワイドの、シンガポールのマネージングディレクター、アダム・ウェルシュ氏だ。

規制や政策に関するコンサルティングやアドバイス業務の機会が増えたことを受け、ここ数年で複数のパブリック・アフェアーズ専業会社がシンガポール、香港、インドネシア、インド、中国、オーストラリア、日本で立ち上げられた。

また、アジアのコミュニケーションにおいて全体的にパブリック・アフェアーズの存在感が高まるにつれ、大手代理店も参入してきた。
「政府や社会とのコミュニケーションは、もはや一企業内に留まる活動ではない。進化するコミュニケーション環境の中で、企業のキャンペーンは新たな役割を担うことになるが、パブリック・アフェアーズを専業とする会社が一様に、この領域への投資リソースを持っている訳ではない」と語るのは、エデルマン・チャイナでパブリック・アフェアーズのリージョナル・バイスプレジデントを務めるシンディ・ティアン氏だ。

パブリック・アフェアーズに注力しているのは代理店だけではない。アジア太平洋地域の主要な政策立案者に働きかけ、交渉する必要性の高まりから、多くの企業が社内のパブリック・アフェアーズ対応力の強化を図っている。

影響力を持つ人物に照準を定める

ブランドにとって重要なことは、特定の市場での事業展開に影響力を持つ人物と、早急に関係を構築することだ。これは代理店の大小に関わらず基本原則だが、成否を決めるのは、クライアントの情報を的確に伝えられるかにかかる。
「まずクライアントを熟知し、そのブランドの誠実さを確かめることが必須」と、パウエル・テート(ウェーバー・シャンドウィック傘下のPR専門会社)のエグゼクティブ・バイスプレジデント、ジャクリーン・ウィルコックス氏は語る。「クライアントが事業を行う地域の規制や政策、政治環境を把握し、懸念があるときは注意を喚起することが重要。ステークホルダーとの関係を築き、クライアントが描く未来を実現するための戦略を提供することにこそ、我々の真価がある」

ここで大切になるのは、その市場でのブランドの目的を深く理解し、明確なメッセージを当局に伝え、受け入れるメリットを当局が理解できるよう促すことだと、チェースインディア(パブリック・アフェアーズのコンサルティング会社)のパブリック・アフェアーズ・ディレクター、マナシュ・ネオグ氏は語る。
「またブランド側も、政策立案者がブランドを評価し、望ましい結論を出しやすい状況を作るため、パブリック・アフェアーズ戦略を見直している」(ネオグ氏)

関わりを持つようになった政府

もう一つ重要な点として、アジア太平洋地域におけるパブリック・アフェアーズの双方向性がある。政府はかつてないほど積極的に、消費者や企業との関わりを持っている。
バーソン・マーステラでリージョナル・マネージング・ディレクターとして東南アジア、パブリック・アフェアーズ、政府とのコミュニケーションを担当するアリソン・リム氏によれば「政府は、公共事業や政策への支持を得るために恒常的なキャンペーンをしている自覚があり、一流のグローバル企業と同じツールやテクノロジーを使いたいと考えている」。

しかし、この地域最大の経済大国である中国では、パブリック・アフェアーズの難しさが増しているようだ。取り締まりの強化と透明性の確保はある程度は実現したようだが、ブランド、特に外国企業にとっては、利害関係者との関係作りが以前より難しくなっている。
「『グァンシー(関係)」は、1980年代から2000年代初めにかけて対政府活動における“魔法の言葉”だったが、今ではその魔法の力が消えてしまった」とティアン氏は話す。

同氏はさらに「政策立案者との関与に際しては、企業の利害と中国政府の方針の歩調を合わせなくてはならない。政府が市場を支配し、企業の一挙手一投足に影響を与える中国でパブリック・アフェアーズは、企業にとって単なる一つの機能ではなく、もはや生命線だ」と指摘する。

テクノロジーがもたらした民主化と課題

アジア太平洋地域のパブリック・アフェアーズにおける最大の変化は、成熟しつつある国々の急速なデジタル化だ。デジタル化によって、より多くの情報へのアクセスが可能になり、かつては発言する機会を持たなかった人々も声を得た。

この技術的な大変革は、政府や企業に新たな課題をもたらした。ウィルコックス氏は「テクノロジーを関係構築の主要なチャネルとして導入を誤り、相互コミュニケーションを過剰に取り入れてしまったブランドがある」とし、もっと戦略的な考察が必要だと指摘する。

さらに、アクセスの増加は、ブランドや政府の方針に対し無数のコメントが可能になるということも意味する。必ずしもその全てが、好意的なものとは限らない。
「ソーシャル・プラットフォームは個々人にさまざまな力を与えたが、情報への民主的なアクセスを約束したわけではない。極端な主張や暴言を吐く者や、思考停止状態なども生み出してしまう」(リム氏)

パブリック・アフェアーズに従事する者には、このような雑音の中でクライアントを導き、ネット上の世論に動揺しがちな政策立案者に協力を促すだけの力量が問われる。
PRの他の分野と同様、戦略実行のタイミングが重要であり、また、問題が生じる前に代理店を関与させることも肝要だ。
「パブリック・アフェアーズのアドバイザーは、相互コミュニケーションの開始当初から関与させた方が良い」とウィルコックス氏。「よく規制などの課題に直面してから、ようやく我々に声が掛かる。しっかりしたパブリック・アフェアーズ戦略があれば予見可能で、うまく対処できたはずなのに」
[キャプション]活発なソーシャル・コミュニケーターでもあるインドのナレンドラ・モディ首相。Facebook本社に招かれ、コネクティビティ(接続性)について対話を行った。

(文:ファーエズ・サマディ 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

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